日本は遅れている?幹細胞治療の海外動向を徹底解説!

この記事の概要
  • 海外では日本よりも幹細胞の治療技術が進んでいる国がある
  • アメリカはiPS細胞を使った再生医療の実用化に積極的な資金投入が行われている
  • 海外の幹細胞治療を受ける場合は、国際医療コーディネイターや医療ツーリズムの代理店を使う

幹細胞治療は日本だけでなく世界中で行われています。むしろ日本は遅れているほうで、アメリカ、欧州では疾患iPS細胞バンクの整備が進められており、薬剤探索、創薬などの研究も含めて再生医療技術が進歩しています

医師主導の治験を開始した技術も多く、いくつもの治療方法が近いうちに実用化される事が期待されています。

一方で、問題も持ち上がってきています。それは、国家、または国家の委託を受けた機関が承認していない幹細胞治療です。こういった治療は、効果、安全性が確認されていないものもあり、場合によっては患者の健康、生命に危険が及ぶ可能性もあります。

こういったことを防ぐために、各国では技術の進歩にあわせて基準を作る、法規制によってコントロールするなどを行い、幹細胞治療の安全性を確保しつつ、技術の進歩のために資金を投入しています。

幹細胞治療ができる、できないは、その国での技術の進歩とならんで、法規制がどうなっているかに依存する部分もあります。ある国で先進的な技術が効果、安全性の確保を含めて確立されれば、その国では法律を整備してその治療技術が使えるようにします。

しかし他の国ではまだ治験が不十分の場合があり、もしその治療を受けたいとなれば海を渡って他国で治療を受けるという事になる場合があります。これについては幹細胞治療技術の開発競争が激しく、どこで何ができる、何ができないは頻繁に変わります。

この記事では、そういった事を踏まえて、各国の幹細胞治療についての動向を解説します。

目次

2. アメリカ合衆国

幹細胞、再生医療についての動向を、研究費の額で見ると、興味深いデータがあります。

再生医療、幹細胞に関する研究への国の出資額は年々増加しています。これは他の国と同様の現象です。アメリカで特徴的なのは、基礎と臨床をつなぐ、「橋渡しのための研究室」を立ち上げ、研究を進めるための資金が増加している事です。

iPS細胞関連では、実用化のイニシアチブを何とかとろうと、先駆け審査なども行っており、アメリカは積極的に実用化への道筋を広げようとしています。

これは、アメリカにおける胚性幹細胞に対する反対意見が大きな存在感を持っている事が影響しています。中絶・堕胎に対しての抵抗感は、宗教的なバックグラウンド、またはアメリカの伝統的な価値観からきているものと推察されます。今後もこの反対意見が弱まる事はないと考えられるので、iPS細胞を使った再生医療の実用化に積極的な資金投入が行われると考えられます。

実際、2007年では基盤構築のための研究に大量の資金が投入されていましたが、10年が経過した2017年になると、臨床研究支援への資金供給額が増大しています。

3. イギリス

アメリカと同様に、橋渡し研究に力を入れ始めています。しかし、アメリカよりは動きがやや遅く、2017年に下院の科学技術委員会からの報告書には、「再生医療の継続的発展のためには、基礎研究も重要である。政府は基礎研究と橋渡し研究の投資バランスをもう一度考え直すべき」とあります。

つまり、ややバランスが取れていない資金供給を行ったため、他の国と比べて研究開発がやや遅れているという認識です。しかし2018年以降、政府の資金バランスが再考された動きがあり、現在では製造から輸送までを視野に入れた商業化を戦略的に行っています。

一方でイギリスは近年、遺伝子治療の割合が増加している傾向があります。

4. カナダ・中国

カナダはどちらかというと民間の研究機関へのサポートを重視しているようです。投資家との連携も考慮に入れたプログラムにより、製造プロセスの構築と資金調達を一気に解決してしまおうとするのがカナダ独特の動きです。

そして、中国ですが、重点化項目の中にメディカルツーリズムがあります。

中国政府の指定する生命科学・医療関係の8つの重点領域のうち、2つが再生医療関係です。1つは組織や臓器の修復、代替のための生体材料研究、もう1つは幹細胞とその利用の研究です。

これらの再生医療を目的として、中国外から患者を呼ぼうと、2009年の医療改革をきっかけに、医療観光事業の促進を開始、2013年には、海南島に国際観光モデルエリアを設立しています。海南島は医療専攻区として指定されており、中国国内で未承認の薬などを早期使用する事が許可されています。

また、幹細胞治療専門病院を2018年に設立し、年間1000件以上の造血幹細胞移植の実施を目標として活動を始めています。

5. 日米の比較

ここで、日本が先駆け審査を行ったものと、アメリカがRegenerative Medicine Advanced Therapy Designation(RMAT)として行ったものを挙げます(2018年時点)。

日本では、自家間葉系幹細胞を使った脊髄損傷治療、遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルスI型を使った悪性脳腫瘍(神経膠腫)の治療、自家心臓内幹細胞を使った小児先天性心疾患治療、自家口腔粘膜由来細胞シートを使った食道がんの術後回復、他家骨髄由来多能性前駆細胞による急性期の脳梗塞治療、他家iPS細胞によるパーキンソン病治療、遺伝子導入自家リンパ球による骨膜肉腫治療、自家CD34陽性細胞の重症下肢虚血、SMN遺伝子を用いた脊髄性筋萎縮症、これら9件が先駆け審査されています。

一方アメリカでは、RMATで25件が扱われています。代表的なものを挙げますと、人も上手く前駆細胞を使った網膜色素変性症、深部熱傷した場合のヒト角化細胞前駆細胞を使った治療、間葉系前駆細胞による左心室収縮期機能不全治療、他家T細胞によるGVHDへの治療、自家T細胞による、再発/難治性多発性骨髄腫治療、腎不全患者透析のためのヒト無細胞血管などが対象になっています。

6. 海外での幹細胞治療

海外で幹細胞治療を日本人が受ける場合、その大きな理由には以下の2つが考えられます。

  • その国が最先端の幹細胞治療をおこなっている場合
  • 日本国内で承認されていない治療をおこなっている場合

ある国が日本よりも進んだ幹細胞治療を行う事ができているならば、その国での治療を選択するケースがあります。この場合、個人で様々な手続きを行うよりも、国際医療コーディネイターや医療ツーリズムの代理店を使う場合が多くなります。

また、日本国内で承認されていない治療を受ける場合も、個人ではなく、コーディネイターなどを介する場合が多くなります。

いずれの場合も、信頼できる仲介者を選ぶ事と、自分でできる限りの情報を集める事が必要になります。

また、他国での治療を受ける場合、安全性などが日本と同水準で行われているかどうかは重要です。各国は、安全性、有効性、経済性を評価、標準化する推進組織を有しています。

アメリカであれば、International Society for Stem Cell Research(ISSCR)、National Cell Manufacturing Consortium(NCMC)、Health and Environmental Science Institute(HESI)、Alliance for Regenerative Medicine(ARM)、がその業務を請け負っています。

イギリスは、International Stem Cell Forum(ISCF)、Global Alliance for iPS Therapy(GAiT)、カナダはInternational Society for Cellular Therapy(ISCT)といった組織が評価、標準化を行っています。イギリスのGAiTについては、臨床グレードiPS細胞の品質チェック(QC:Quality check)ガイドラインの策定、発行プロセスに日本も積極的に参加しています。

ロシア、中国などの国では、医療ツーリズムによって他国から患者を誘導することを目的で幹細胞治療を整備している国もあります。注意しなければならないのは、信頼できる仲介業者を使わないと、日本ではもちろん、ロシア、中国でも安全性、有効性が確認されておらず、承認されていないかが微妙なリスクのある治療を受ける場合もあるという事です。

アメリカでは安全性、有効性は厳しく管理されていますが、紹介された治療法、医療機関が確実にその基準をクリアし、承認を受けているかどうかを慎重に確認する事が必要です。

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