育毛への効果は?AGAを救う!?幹細胞をつかった育毛治療

この記事の概要
  • 加齢による脱毛は、男性型脱毛症(AGA)と言われる
  • AGAの治療方法には、ミノキシジルのような血管拡張薬を使った治療、抗男性ホルモン薬、カフェインなどを用いた治療方法などがある
  • 脂肪由来幹細胞をつかった施術が一部のクリニックで開始されている
  • 医薬部外品の培養上清がAGA向け商品として販売されている

年齢と共に薄毛に悩む方の割合は増えていきます。もちろん命に直接関わることではありませんが、悩みを抱える本人にとっては解決したい課題です。

この記事では、幹細胞を使った育毛治療について徹底解説します!

目次

1. 毛髪の構造とは

頭皮は、外側から角質層、表皮、真皮の順で構成され、その下に脂肪などの皮下組織(皮下脂肪)があります。毛髪の根幹である毛球部(毛母細胞、毛乳頭)は真皮の底部と皮下脂肪の最上部周辺に存在します。

毛球部からはパイプ状の毛包が表皮を通じて外側に伸びており、毛髪はここを通って生えています。毛包には、立毛筋、皮脂腺がつながっており、皮脂腺からは皮脂が分泌されています。皮脂は脂肪酸などから構成され、水分(汗など)と混ざることによって乳化して表面脂肪酸を構成します。この表面脂肪酸は皮表膜として表皮を保護しています。

毛髪は外側からキューティクルと呼ばれる毛小皮、ケラチンと呼ばれる毛皮質、毛髄質の3重の構造になっています。毛髪の色の成分となるメラニンは、毛髄質と毛皮質に存在しています。この毛髪は成長を開始すると、毛母細胞、毛乳頭から構成される毛球部が大きくなります。それに伴って、毛髪が太くなります。この時期は成長期と呼ばれ、早期成長期、中期成長期、後期成長期に分けられます。この毛髪の成長期は、2年から6年間という長期にわたります。

後期成長期が終了すると、退行期に入ります。退行期では、毛球部の退化が始まります。この期間は2週間から3週間、成長期と比べるとかなり短い期間になります。退行期が過ぎると、休止期に入ります。休止期には毛球部が完全に退化します。しかし、この時期には並行して新しい毛髪の準備が始まっています。

新しい毛髪の準備が進行すると、その毛球部に押し出されるようにして、古い毛髪が抜け、脱毛が完了します。

この脱毛以外で頭髪が抜ける理由にはいくつかあり、加齢、精神的ストレス、疾患、薬の副作用、放射線治療のような疾患治療の影響、頭皮が外傷を受けることによる毛球部の損傷などが挙げられます。

加齢による脱毛は、男性型脱毛症AGA:Androgenetic alopecia)と言われています。症という字が使われていますが、疾患として扱われず、正常な生理現象とされています。60歳をこえると、これは老人性脱毛症となり、頭髪のみならず、全身の体毛が薄くなる傾向が出てきます。

加齢による脱毛は正常な生理現象ではありますが、誰もが同じような年齢付近で起こるわけではありません。個人差があり、50代で始まる人もいれば、20代で始まる人もいます。また、容姿に関係する事象ですので、なんとかしたいと思う人もいるのが実際です。

2. AGAの原因

AGAは、思春期以降であれば起こる可能性があります。AGAの正式名称である、Androgenetic alopeciaを正確に日本語にすると、男性ホルモン型脱毛症となります。AGAに深く関与するのはジヒドロテストステロン(DHT:Dihydrotestosterone)という男性ホルモンで、男性生殖器の発達、性欲に深く関与しています。

このAGAは男性だけでなく、女性に見られる場合もあります。女性の場合は、女性男性型脱毛症(FAGA:Female androgenetic alopecia)と呼ばれます。

男性ホルモンは、テストステロン、ジヒドロテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロテストステロン、アンドロステンジオンが挙げられます。AGAの人には、このうちのジヒドロテストステロンに変換される前の前駆体濃度が高いことが明らかになっています。

3. AGAの治療方法

このAGAの治療方法としては、ミノキシジルのような血管拡張薬を使った治療、抗男性ホルモン薬、カフェインなどを用いた治療方法などが挙げられます。効果が出るまでに個人差があり、半年で効果が出る場合もありますし、効果が出るまでに数年以上かかる場合もあります。

そのため、AGAの治療には3つのPが重要であると言われています。Proven treatment firs、つまり有効な治療から着手する、Take Picture、写真を撮る、be Patient、根気よく続ける、がその3つのPです。

毛の周期は非常に長く、数年間成長を続け、成長期が終わるといったん休止期に入ります。そして数ヶ月後に成長を開始します。これが脱毛の治療に根気が必要とされる原因です。すぐに効果が現れるものは少なく、長期にわたる治療が必要となります。

4. 幹細胞を使ったAGAの治療方法

幹細胞を使った脱毛の治療方法は、アメリカ、イギリス、日本のチームによって開発され、実際に一部のクリニックで治療が開始されています。現在は自由診療であり、保険は適用されません。

まず、患者の脂肪由来幹細胞(ADRCs:Adipose derived regenerative cells)を採取し、直接頭皮に注入する方法です。脂肪からの幹細胞は、大量に採取できるために培養が不要で、培養ステップを省くことができます。そのため、脂肪吸引レベルの採取方法で比較的大量の幹細胞の確保を行います。

さらに現在は毛包を構成する2種類の細胞、毛乳頭細胞と毛包幹細胞の研究が進められており、これらを使った治療方法が模索されています。

Hair multiplication(毛髪の培養)、Hair cloning(毛髪クローニング)と呼ばれる方法ですが、毛髪そのものを培養するのではなく、患者から採取した毛乳頭細胞と毛包幹細胞を培養して増殖させ、増やした細胞群を頭皮に注入、または移植する方法です。

活力が落ちた患者の細胞を培養によって活力を復活させ、活性化した細胞を注入、移植することによって毛髪を再生しようとする狙いです。また並行して、細胞を採取せずに、頭皮の細胞を科学的なシグナルによって活性化させて毛髪の再生を促すことも可能ではないかと言われています。

しかし、現段階で実用化されているものは育毛剤を除けばまだ数が少なく、毛髪関連細胞の基礎研究の進展と治療方法の開発が待たれている段階です。

5. 幹細胞培養上清による治療

幹細胞を培養している培養液には、幹細胞から分泌されたさまざまな成長因子が含まれています。この成長因子を発毛に利用しようとするのが幹細胞培養上清を使った治療方法です。

しかしこの方法は、現在までのAGA治療方法と同様に、必ず効果があるものとは言えません。脱毛治療の効果には個人差が大きく影響しており、ある人に効果があったものが別の人に効果があるとは限らないのです。

さらに、幹細胞自体を使った治療の場合は、国が決めた厳しい基準をクリアすること、設備や治療計画の審査を受けて承認されることなど、いくつかのハードルをクリアしなければなりませんが、幹細胞が含まれていない培養上清を使う場合は、比較的ゆるめの基準のもとで行うことができます。

特に、化粧品、医薬部外品として使われるものでは、含んでいる成分の基準が医薬品ほどの厳密さを求められないので、製品によって、またクリニックによって含有成分量が大きく異なることがあります。

そして、幹細胞培養上清が脱毛に効果がある、発毛に効果がある、という結果があったとしても、現在の所は含まれているどの成分が、どういった作用機序で毛髪関連細胞に影響し、どのようなメカニズムで発毛するのかについて明確な科学的根拠が存在しません

つまり、何が影響するのかわからないが、幹細胞を培養した培養液上清を頭皮に塗ってみたら発毛する人がいた、おそらくは幹細胞が培養液中に分泌する成長因子の影響であろう、と言われているレベルです。どんな分子がどのくらいの濃度で効果が出るのか?という検証がされていない状況です。

そのため、治療を行う場合、どのクリニックで治療を受けるのかの選択は慎重に行わなければなりません。効果がなく、治療費が無駄になっただけでなく、場合によっては身体に悪影響のある事故が起こるケースもあります。

6. まとめ

AGAに対する研究は、分子生物学的な観点で言うとまた始まったばかりと言えます。そのため、明らかになっていることと、明らかにはなっていないが予想されることの境界線が曖昧です。この境界線については、幹細胞についても同様のことが言えます。

AGAの治療は、産業として認識されるくらいのニーズがありますが、それゆえに治療方法の選択には慎重さが必要です。

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