この記事の概要
  • 幹細胞を培養する過程で培養上清が生まれる
  • 幹細胞入り化粧品の正体は培養上清入り化粧品
  • 培養上清入り化粧品には一定の効果が期待できるがリスクもある

幹細胞を培養する過程で、培養上清が同時に生成されます。培養上清は幹細胞ではなく、幹細胞の成分が溶け出したものだと思って下さい。

化粧品やサプリメントの分野で「幹細胞入り」がブームになっていますが、これらには幹細胞は含まれておらず培養上清が含まれています。

今回はそんな培養上清の生成方法や効果、リスクについて徹底解説します。

1. 培養上清とは

培養細胞は、ヒトの体から採取した組織から作成した細胞です。ヒトの体を使わなくても、ヒトの体についての研究を行う事ができ、生命科学、医学の発展に大きく貢献しています。

培養細胞は培養しているときの状態で2つに分ける事ができます。1つは浮遊細胞、この細胞は、培養液中に浮いている状態で培養されます。そしてもう1つは付着細胞です。付着細胞は、培養細胞を培養するための皿、培養皿または培養ディッシュと言われている皿状の培養器具の底に張り付いた状態で培養されています。

この付着細胞の培養液を培養上清と言います。場合によっては、浮遊細胞の培養液中から細胞を除去した培養液も培養上清と呼ぶ場合があります。

培養液中には、細胞の成長、分裂に必要な様々な物質が溶けています。細胞は、これらの物質を細胞内に取り込んで成長、細胞分裂を行います。そして、細胞が生命活動するときに生まれる老廃物は、培養液中に排出されます

細胞が排出するのは老廃物だけではなく、他の細胞を刺激する物質も放出しています。これは、細胞同士が相互作用する事によって、成長したり細胞機能を動かしているからです。

例えるなら、お鍋に水をはって昆布を入れておくと、出汁が水に溶けだすように、培養ディッシュの中で培養液に浸した培養細胞の成分が溶け出すような感覚です。

この培養上清内に含まれる物質の研究はそれほど新しいとは言えませんが、最近の分析技術、分子生物学的な手法の発達によって、多くの研究者が研究テーマに選ぶようになってきています。

古くは、組織、細胞を培養した培養液を「コンディションドメディウム」として、他の組織、細胞に加えて効果を観察し、効果があった場合はその培養液、培養上清の中の有効成分を探索するという研究も行われてきました。

2. 幹細胞の培養上清

培養上清に含まれる物質は、健常細胞、がん細胞によって異なります。また、幹細胞の培養上清には、幹細胞でなければ分泌しない物質も含まれています。

具体的な物質については、幹細胞の種類、培養条件、分化しているかいないかなどによって異なるため、一概に言う事はできません。

幹細胞が分泌する物質として、特徴的なものにサイトカインがあります。サイトカインは低分子のタンパク質で、細胞間で影響し合う細胞間相互作用に機能する生理活性物質の総称です。1種類の物質を指すのではなく、こうした機能をもつ物質をまとめてサイトカインと呼んでいます。

サイトカインに含まれる物質群の機能は、多岐にわたります。細胞の増殖、細胞の分化、など、細胞には必須の物質です。この幹細胞から分泌されたサイトカインに代表される物質は、様々な応用が期待されています。というのは、幹細胞自体を含まないために、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に抵触しないからです。

例えば化粧品です。化粧品には、幹細胞が含まれているものは使えないと薬機法に定められています。しかし、細胞を培養したときの培養上清は細胞を含まないため、用いる事ができます。

ここがポイント

幹細胞入り化粧品やサプリメントが数多く販売されていますが、幹細胞自体が入っている訳ではなく、培養上清が含まれています。

3. 培養上清の何が期待されているのか?

 

幹細胞の中には、脂肪幹細胞のように、コラーゲン産出能力を持つものがあります。脂肪肝細胞が合成したコラーゲンを細胞外に分泌すれば、培養液中にコラーゲンが含まれる事になります。

また、脂肪由来間葉系幹細胞とヒト繊維芽細胞を一緒に培養すると、繊維芽細胞からI型コラーゲン、ヒアルロン酸、TIMP1(Tissue inhibitors of metalloproteinases)が生成される事が確認されています。専門的になりますがTIMP1は、コラーゲンを分解する機能をもつマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs:matrix metalloproteinases)の機能を阻害します。つまり、コラーゲンの分解から守る事ができます。

また、コラーゲンは産生された後に繊維化する事で能力を発揮します。脂肪由来間葉系幹細胞の培養上清によって、真皮繊維芽細胞のコラーゲン繊維化が誘導される事がわかっています。

つまり、培養上清の成分を化粧品に配合すれば、肌に効果がある、と考えられており、現在様々なメーカーが幹細胞の培養上清内の有効成分を製品化、または製品化しようとしています。

これらの成分によって、スキンケアの能力が高い化粧品の開発が可能と考えられており、競争の激しい分野になっています。

4. 化粧品に応用するときの問題点

幹細胞を培養したときの培養上清に、化粧品に有効な成分が含まれている事はほぼ確実です。しかし、これらの物質の中には、そのままでは効果のない物質もあります。そういった物質の活性を保ったまま、どうやって製品化するかは各メーカーの開発力に依存します。同じ成分を含んでいたとしても、活性レベルの差で効果が出にくい製品と効果が出やすい製品との違いが出てくる可能性があります。

また、培養上清はそのままで使う事は推奨されません。なぜなら、細胞が分泌する物質は、有効な物質だけでなく、他の細胞に悪影響を与える物質や、細胞の老廃物も含まれているからです。

例えば、加工や処理が何もされていない培養上清は肌に良い効果があるかと言えば、そうとは限りません。細胞に対して有害な物質もありますし、細胞の老廃物が肌にどんな影響を与えるのかを考えると、心配な部分が出てきます。

そのため、培養上清の中から、有効な成分のみを抽出する、または精製する作業が必要になります。しかし、こういった抽出、精製というのは、物質によってはかなり難易度の高い技術です。これらの有効成分を抽出、精製し、活性の有無を確認して化粧品に配合して、ようやく効果が期待できるようになるのですが、これらはかなりの技術力を必要とします。

また、化粧品に有効な成分を産生する能力が幹細胞にどれくらいあるのかも問題になってきます。

幹細胞は培養条件によって、分化の方向が変わるなどの反応を示します。つまり、有効な成分をより多く産生する培養条件を探索しなければなりません。また、有効でない、有害な物質を幹細胞が産生しない、または産生を最小限に抑制する培養条件の探索も必要になるでしょう。

5. まとめ

アンチエイジングなどから、化粧品にも医学的な効果を求める流れが最近盛んです。医薬品とするのであれば、認可などに高いハードルがありますが、化粧品であれば医薬品ほどは高くない、さらにその製品にアンチエイジングなどの効果が見込めれば売り上げが期待できる、という流れは自然な事です。

幹細胞の培養上清ならばなんでも効果があるかどうかということについてはここまで述べてきたとおり、一概に効果があるとは言えません。効果があるというのは、有効成分以外の邪魔になる物質がきちんと除去されている事、その有効成分が化粧品を使う人の肌を構成する細胞に作用できる状態である事が確認されたもののみです。

ブームがあれば、その中には必ず良いものと良くないものが混じります。しかし開発を行い、製品化をするスピード、アイデアに対し、現在は法律による規制がついていくのがやっとという状態です。

幹細胞の培養上清に含まれる成分が、不純物なく、また効果がある活性化された状態で用いる事ができれば、かなりの効果が期待できます。

旧薬事法には、化粧品の定義にはこうあります。

「人の身体を清潔にし、美化し魅力を増し、容貌を変え又は皮膚もしくは毛髪をすこやかに保つために身体に塗擦、散布その他これらに類する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なもの」

そして現在では、化粧品の承認制度が改正され、改正前に内容成分により市販前に厚生労働省による承認が必要なもの、そして承認は必要ではなく、届け出だけが必要なものとに分けられていました。現在の改正後は、全ての化粧品が届出だけで製造、販売が可能になりました。そのため、消費者による冷静な判断と、情報の確認が必要な状況になっています。