アイロムグループ世界初のiPS細胞由来化粧品原料を開発

目次

1. アイロムグループとは?

2021年3月、アイロムグループの子会社、ICEが、同社グループの医療技術から生み出されるiPS細胞培養上清液を、化粧品原料として開発することに成功したと発表しました。

これはiPS細胞由来化粧品材料としては世界初の開発となり、この原材料を使った化粧品の発表をすることも同時に決定しています。このことから、発表直後からアイロムグループの株価は急騰し、一時は10%を超える急騰を示し、iPS細胞由来の培養液上清に対しての市場の注目度が高いことを示しました。

 

株式会社アイロムグループは、1997年4月に設立された会社で、本社は東京都千代田区にあります。

設立当初は、医薬品臨床試験の受託、仲介というSMO事業(SMO: Site Management Organization、治験施設支援機関)をメインの業務としています。

その後すぐ、医療関連スタッフの紹介事業を開始、順調に成長を続け、2002年には医療機関への融資、コンサルティング事業を行う子会社を設立しています。

2005年には薬局の展開を目的として、ヒノミ薬品(現アイロムロハス)の株式を取得し、連結子会社化しています。

 

現在は、先端医療事業、SMO事業、CRO事業(CRO: Cantract Research Organization、開発業務受託機関)、メディカルサポート事業の4つを中心としています。

CRO事業とは、医薬品、医療機器の開発段階での臨床試験、そして市販後臨床試験などに関わる製薬企業の業務の一部を代行、または支援する事業のことです。

先端医療事業では、アイロムグループは遺伝子治療製剤、新規ワクチンなどの医薬品の開発を押し進め、大きなマーケットとなり得る健康・美容業界に応用するための研究開発を続けています。

2. どんな製品なのか?

幹細胞を作成、培養する時に用いる培養液には、幹細胞が分泌する物質が多く含まれています。

そのため、この培養液には様々な有用成分が含まれており、「培養上清液」として最近注目されています。

幹細胞の中でも、iPS細胞は様々な細胞に分化できるだけでなく、ほぼ無限の増殖能力を持った特殊な幹細胞といえます。

このiPS細胞を培養した培養液中には、サイトカイン、成長因子などが多量に含まれています。

 

これらの物質は、細胞どうしの作用である「細胞間相互作用」を誘導するために、細胞から分泌され、別の細胞へシグナルを伝達します。

伝達されたシグナルによって、受け取った細胞は、「幹細胞であれば分化を開始」、「細胞分裂が活性化」などが誘導されます。

細胞で分化が開始したり、細胞分裂、つまり細胞増殖が活性化されたりするとどうなるのでしょうか?

人間の肌でそれらが起きると、分化した細胞、分裂した細胞によって肌を構成する細胞の交代が活発化し、結果として肌の活性化、肌が年齢より若く見えるという現象を誘導します。

そのため、幹細胞の培養液上清は貴重な物質の宝庫とも言われ、幹細胞が分泌して培養液上清に含まれている物質を、健康のために利用しようとする研究が活発に行われています。

 

幹細胞培養上清液は、すでに化粧品、エステ用製品などに用いられています。

幹細胞を培養し、その培養液上清を使って美容、健康のための施術、医療行為を行っているエステ、クリニックは最近増加しつつあります。

それらの多くは、成体幹細胞を使っています。

成体幹細胞とは、我々の脂肪細胞群に含まれている脂肪幹細胞、神経細胞に分化する神経幹細胞などです。

 

今回、アイロムグループの開発したiPS細胞培養上清液由来の製品は、iPS細胞由来という点で初めての製品になります。

成体幹細胞は、分化能を持ってはいますが、ある程度分化する方向は限られています。

しかし、iPS細胞は分化万能性をもっています。

つまりは全ての細胞に分化することが理論的には可能なのです。

その細胞が分泌し、培養液上清に含まれる物質には、成体幹細胞が分泌していない有効成分も含まれていると期待されています。

その期待されている培養液上清を化粧品成分として開発、かつその化粧品成分が含まれている商品も同時に発表したため、一気に注目を集める結果となり、株価の高騰につながりました。

 

3. 化粧品成分はどのように管理されているのか?

iPS細胞培養上清液は、すでにINCI名を取得しています。

INCI名とは、「化粧品成分の国際命名法」によって名付けられた化粧品の国際的名称です。

INCIは、International Nomenclature for Cosmetic Ingredientsの略で、インキ、またはアイエヌシーアイと読まれており、登録と管理はアメリカのPCPC(Personal Care Products Council)が行っています。

日本化粧品工業連合会によって公表されている化粧品の成分表示名称リストは、このINCI名をベースとして作成されています。

 

化粧品は、体に直接触れるものですので、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」によって管理されています。

薬機法は、以前の薬事法にかわる法律で、化粧品については、配合禁止成分、配合制限成分を定めています。

さらに、化粧品の配合成分を全成分表示することも定められており、

  • 表示されていない成分が、実際には検出される。
  • 表示されている成分なのに実際には検出されない。

この2つについて化粧品は厳しく規制・監視されています。

 

平成12年には、厚生省告示として、化粧品基準が発表され、大きく分けると以下の4津のことが記載されています。

  • 使用してはいけない成分(微量でも絶対に含まれてはいけない成分)。
  • 配合量を守れば使用して良い成分(含まれても良いが、上限値が決められている成分)。
  • 防腐剤、紫外線吸収剤、タール色素について。
  • 化粧品に使われるグリセリンについて(グリセリンに不純物として含まれているジエチレングリコールの含有量は0.1 %であること)。

 

化粧品成分は、医薬品とほぼ同じレベルの厳しさで様々な規制を受けており、「体に良いから」だけでは認可されることはありません。

「効果が期待できること(その効果が科学的にある程度証明されていること)」、「身体に害が出るとすればどのようなことが予想されるのか」、「有害な現象が起きる量は?」などの厳しい項目を全て明らかにするかクリアしなければなりません。

それらをクリアして製品化したとしても、製品化以降にも常に厳しい目にさらされています。

 

メーカーが全成分表示、成分表を公開するのと同時に、中立的第三者による現場情報として商品現物に対する成分分析結果が出さます。

この分析で、成分、成分量が違っていたりすると、その商品は売ることができなくなり、会社に大きなダメージを与えます。

こういった規制・監視の中で化粧品を作る、化粧品成分を作るということは、厳しい制限のもとで行うことになります。

 

アイロムグループは、そのような厳しい規制をクリアして、iPS細胞培養液上清を化粧品成分として国際的に認可させることに成功しました。

iPS細胞は言うまでもなく日本が生み出した細胞であり、今後の日本の産業に大きな影響を与えるツールと言えます。

そのiPS細胞由来のものから生み出される製品は、やはり日本の企業から出て欲しい、と思うのが自然な感情でしょう。

iPS細胞の研究には、国民の税金が使われており、今回のアイロムグループのような日本企業からの商品が発表されるということは、我々の税金で行ったことが、我々の利益として還ってきたと考えることもできます。

 

iPS細胞は疾患などの医療分野以外にも、我々の健康全般に影響する技術、製品を生み出しています。

今後もこのアイロムグループの開発したような製品が出てくることが予想されており、iPS細胞関連産業は将来的に拡大していくことが予想されています。

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