脳梗塞急性期に対する「同種細胞治療」の有効性・安全性を公表

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発症後36時間以内の脳梗塞に対するマルチステムの有効/安全性を検証する臨床試験

北海道大学医学部附属病院は2024年1月、脳梗塞急性期に対する同種異系細胞治療の有効性評価試験の結果を発表しました。
この研究は同病院脳神経外科の長内俊也講師らの研究グループによるものであり、研究成果は、「JAMA Neurology」にオンライン公開されています。

脳卒中は世界第2位の死因で障害の主な原因でもあり、2019年のデータでは、660万人が脳卒中により死亡したとされています。
脳卒中に伴う脳梗塞の治療には静脈内血栓溶解療法や機械的血栓除去術などのエビデンスに基づく再灌流療法が広く用いられています。
これらの治療成績はさまざまであるにもかかわらず、脳卒中後3か月経過しても約50%の患者に障害が残るといわれており、新たな治療選択肢の開発に注目が集まっています。

開発中の治療選択肢では、幹細胞治療は特に期待されています。
用いる幹細胞としては、間葉系幹細胞、骨髄単核細胞、神経幹細胞、および人工多能性幹細胞など、さまざまな細胞の脳梗塞に対する治療効果の検討が行われています。

大量生産された幹細胞製品であるMultiStem(マルチステム)は、炎症抑制、免疫異常の調節、損傷細胞の保護、血管新生促進、組織修復、治癒促進など、さまざまなメカニズムを通じて効果をもたらすと考えられています。

今回の研究グループが発表した成果では、脳梗塞発症後、18時間から36時間以内の患者に対するマルチシステムの安全性と有効性を検討した第2、第3相無作為化臨床試験「TREASURE(Treatment Evaluation of Acuter Stroke Using Regenerative Cells)試験」の結果が報告されています。

脳梗塞と同種細胞治療とは?

脳卒中は、脳血管の突然の障害によって引き起こされる疾患であり、脳への血液供給が一時的または永続的に阻害されることによって生じます。

脳卒中は一般的に、脳出血(脳内の血管が破裂する)、脳梗塞(脳の血管が閉塞する)、または一過性脳虚血発作(脳血管が一時的に閉塞する)のいずれかによって引き起こされます。
脳梗塞は脳卒中を説明する際に、1つの現象として扱われる症状です。

まず、脳卒中の症状は、突然の強い頭痛、片側の体のしびれや麻痺、言葉の理解や話す能力の障害、歩行困難などがあります。症状は卒中の種類や影響を受けた脳の部位によって異なります。

脳卒中は緊急性が高く、早期の診断と治療が重要です。治療は、脳卒中の種類や原因に応じて異なりますが、一般的には血栓溶解療法(血栓を溶かす薬剤の投与)、抗凝固療法、血管内治療などが行われます。

そして脳梗塞は、脳卒中の中でも脳の血管が閉塞されることによって生じる疾患を指します。
これは、血管内の血液が凝固したり、血管が狭窄したりすることによって起こります。
閉塞された血管によって脳への血液供給が途切れ、その部位の神経細胞が酸素や栄養素を得られなくなることで、脳梗塞が引き起こされます。

脳梗塞の症状は脳卒中の一般的な症状と同じく、突然の強い頭痛、片側の体のしびれや麻痺、言葉の理解や話す能力の障害、歩行困難などがあります。
治療は、患者の状態や症状に応じて、抗血小板薬や抗凝固薬の投与、血管内治療、物理療法、言語療法などが行われますが、ほぼ脳卒中と同じ治療が行われます。

早期の診断と適切な治療が重要であり、脳梗塞の早期治療は重大な後遺症や死亡率の低下につながります。予防には、高血圧や高コレステロール、糖尿病などのリスク因子の管理、喫煙や運動不足の改善、バランスの取れた食事などが含まれます。

これらの新しい治療方法として期待されている同種細胞治療は、幹細胞を使う治療方法です。
同種細胞治療は、医学上の治療法の一つで、同じ種類(同種)の細胞を利用して疾患や損傷を治療する方法です。

これらの細胞は、寄贈者または患者自身から取得され、組織や器官の修復を促進し、身体の自然な治癒プロセスを支援します。
この治療法は、すでに皮膚移植、造血幹細胞移植など、さまざまな医学分野で使用されています。

有効性評価はどのように行われるか?

有効性評価試験は、医薬品や医療機器などの治療法が、特定の疾患や症状に対してどの程度効果的であるかを評価するための試験です。
これらの試験は、新しい治療法が市場に導入される前に、その効果や安全性を科学的に検証するために行われます。

有効性評価試験は通常、ランダム化比較試験(RCT)の形式で行われます。
RCTでは、治療群と対照群に患者をランダムに割り付け、治療群には新しい治療法を、対照群には標準治療や偽薬を与えます。
その後、一定期間を経て、両群の治療効果を比較し、新しい治療法の有効性や安全性を評価します。

有効性評価試験では、患者の症状の改善や疾患の進行の抑制など、治療法の目標となる特定のエンドポイントが定義されます。
また、副作用や安全性などの重要な安全性情報も収集されます。

これらの試験は、厳密なプロトコルに基づいて設計され、倫理的なガイドラインに従って実施されます。有効性評価試験の結果は、医療従事者や規制当局などの利害関係者によって、治療法の承認や臨床上の意思決定に活用されます。

研究の詳細

この研究における有効性主要評価項目は、90日目に転帰が極めて良好だった患者の割合で行われました。
エクセレントアウトカムはmRS≦1(範囲:0〜6)、NIHSSスコア≦1(範囲:0〜42)、Barthel index(BI)≧95(範囲:0〜100)の複合スコア基準を満たす状態と定義して行われました。

一方で安全性の主要評価項目は、被験製品との因果関係が否定できない点滴後24時間以内に発現した心血管系および呼吸器系の機能異常または重度のアレルギー反応でまず判断されます。
さらに、投与後7日以内に発現した重篤な有害事象、治験薬投与7日後までの評価でベースラインに対してNIHSSスコアが4点以上上昇したと定義される神経症状の悪化で判断され、長期的には90日目までの死亡または生命を脅かす有害事象、および90日目までの二次感染で判断されます。

対象とした患者は、20歳以上で初回スクリーニング時にNIHSSスコア 8〜20に相当する神経障害が持続しており、DW-MRIで大脳皮質を含み、長軸が2cm以上の急性期脳梗塞が確認されている患者です。

さらに脳卒中発症前にmodified Rankin Scale(mRS)が0または1であることを条件としています。

この患者からのデータを使い、マルチステム群とプラセボ群に1:1の割合で無作為に割り付けし二重盲検化、その後、患者に対してマルチステム・プラセボのいずれかを30〜60分かけて、脳卒中発症後18〜36時間の間に1回静脈内に点滴投与しました。

さらに2017年11月15日〜2021年3月30日の間に229人の患者を募集し、2022年3月29日の365日まで追跡調査を行いました。
そのうち207例(マルチステム群105例、プラセボ群102例)を無作為化し、その後、206例(マルチステム群104例、プラセボ群102例)にマルチステムまたはプラセボを静脈内投与しました。

この試験では高齢患者の割合が高く、マルチステム群とプラセボ群の年齢中央値はそれぞれ79歳と78歳です。
再灌流療法を受けた患者の割合、NIHSSの平均値、梗塞体積は両群間で有意な差は見られませんでした。

有効性の主要評価項目においては、マルチステム群とプラセボ群の間で有意差は見られませんでした。
さらにmRS≦2の探索的サブ解析を、90日目における年齢と虚血コア体積のサブグループに対して行われました。

虚血コア体積が50mL以上の患者では、マルチステム群で有意に転帰が良好でした。
また、64歳以下の患者もマルチステム群で有意ではなかったものの、転帰が良好な傾向が確認されました。

さらに最近注意が払われている項目にアレルギー反応の有無があります。
グレード3または4のアレルギー反応を含む主要安全性評価項目に群間差はありませんでした。

今回の研究結果により、虚血性脳卒中発症後18〜36時間以内の同種細胞治療の静脈内投与の安全性は確認されましたが、短期転帰は改善されないことが判明しました。
今回のデータを参考とすると、探索的解析の結果については今後の追加検討が必要であると考察されます。

本研究の結果と現在アメリカ、ヨーロッパで進行中のPhase3研究との併合解析により、マルチステムのさらなる効果の検証をするべきではないかと研究グループは述べています。

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