この記事の概要
  • 幹細胞をつかった心疾患治療は2001年に心筋梗塞の治療からはじまっている
  • 脳卒中には骨髄から骨髄幹細胞を取り出し脳に注入する臨床研究が行われている
  • がんに対しては、注入した幹細胞自体ががん化するリスクがあり、幹細胞を注入することから、がん幹細胞をターゲットにした研究が盛んに行なわれている

三大疾患とは、生活習慣病とも呼び、他の疾患と比べて死亡率が高く、日本人の死因の上位を占めている「がん・心疾患・脳卒中」の3つを指します。

この記事では三大疾病に対する幹細胞治療について徹底解説します!

1. 三大疾病

まずは「がん(悪性新生物)」です。がんは、がん化した細胞が増殖を延々と続け、体中に転移します。がん細胞自体が臓器を破壊する、血管、リンパ管に侵入することによって血流が滞り、臓器にダメージが与えられる、出血するなどによって生体を死に至らしめます。

体内の多くの臓器にがん細胞が発生する可能性があり、日本人の死因ではがんが最も多く、がんが発生する部位は、気管支および肺が最も多くなっています

2つ目は「心疾患」、心臓の機能が停止してしまう疾患です。心筋に酸素、栄養を供給する冠動脈が動脈硬化などで心筋に酸素が供給されなくなり、心筋が機能停止、そして心臓が働かなくなってしまう疾患です。その中でも、急性心筋梗塞は最も深刻です。冠動脈が急に閉塞されることによって、心筋への酸素、栄養の供給が遮断され、心筋細胞が壊死してしまいます。

3つ目は、「脳卒中」です。脳卒中は単体の疾患を指すものではなく、脳内の出血、血液循環障害を伴う疾患の総称です。がんが1位になるまでは、日本人の死因のトップでした。脳の血管が詰まるのが脳梗塞、脳の血管が破れるのは脳出血、またはくも膜下出血と呼ばれます。

血管の閉塞、出血によって脳の一部に血液が行き渡らなくなるため、その部分の脳細胞が壊死します。脳のどの部位がダメージを受けるかによって、残る障害の種類が異なります。

2. 心疾患と幹細胞治療

心臓は自己再生能が極めて低い臓器であり、いったん障害が起こった心機能は完全な回復が困難です。しかし、2002年に心臓内幹細胞(CSCs: cardian stem cells)の存在が報告され、この幹細胞を使って心筋再生療法の臨床研究が進んでいます

心臓の移植に頼る治療法は以前から行われていましたが、待つ時間が長くなる場合があり、新しい治療戦略が求められていました。

2001年、72歳男性の心筋梗塞に対して、冠動脈バイパスと並行して、梗塞した部位に骨格筋芽細胞を心筋注入した治療が、世界初の心筋再生治療としての幹細胞移植です。骨格筋芽細胞だけでなく、骨髄芽細胞、骨髄単核球、間葉系幹細胞、末梢血幹細胞、脂肪由来幹細胞、臍帯血幹細胞、そして2002年に発見された心臓内幹細胞が移植されています。

幹細胞移植による心臓再生治療の研究は、ほとんどが成人の虚血性心疾患に対してのものでした。2009年になると、重症拡張型心筋症の2歳男児に自家骨髄単核球の冠動脈注入が行われました。小児の場合は、先天性心疾患があるため、これらの幹細胞治療は解決の手段として大きな期待を寄せられています

そして、心臓内幹細胞の研究は、細胞群からの心臓内幹細胞の単離、精製ステップなどの問題が解決されつつあり、実際に2010年代になると臨床研究が進んでいます。現在は世界中で小児心不全に対する幹細胞治療の臨床試験が進んでいます。

3. 脳卒中と幹細胞治療

脳卒中に対する幹細胞治療は、障害を受けた神経、血管の再生によって、失われた身体機能を取り戻すことを目的として行われます。幹細胞を脳内に投与することによって、脳卒中で障害を受けた部位の血管、神経を修復します。

代表的な治療方法の1つは、患者の骨髄から骨髄液を採取します。この中には骨髄幹細胞が含まれていますので、単離、精製して患者の脳に注入します。この方法ですと、自分の骨髄からの骨髄幹細胞を使うため、拒否反応の可能性が低くなります。

目的としては、脳卒中による後遺症の改善が主になりますので、幹細胞による治療とリハビリを平行して行うこととなります。脳は一度ダメージを受けると再生しない、ということが一般的な常識とされていましたが、様々な幹細胞で治験が行われています

現在に至るまで、1998年からピッツバーグ大学で行われている神経幹細胞を脳に移植、1999年にはハーバード大学で胎児ブタ由来神経幹細胞が用いられた臨床研究が行われました。いずれの試験も思うような結果が得られていません。

また、ロシア、中国でも神経幹細胞を用いた移植が行われていますが、明確な治療効果を示す結果は現在のところ示されていません。しかし、各国で臨床試験が行われた結果、細胞治療の安全性は証明されつつあります。

この治療方法は、脳卒中によって、脳のどの部位がどれほどのダメージを受け、身体障害がどの程度出ているかによって治療の効果が異なります。現在も臨床研究が進められ、効果を高める努力がされています。一方で、自由診療で幹細胞を使った脳障害の治療を行うクリニックもあります。

4. がんと幹細胞治療

がんと細胞を用いる療法については、「がん免疫療法」がよく知られています。しかし2018年から厚生労働省は効果のはっきりしない「がん免疫療法」の監視を始めています。これらの多くは、再生医療安全性確保法によって規制される免疫細胞を使った治療方法と別な方法ですが、混同されている場合が多く、注意が必要です。

専門的な内容になりますが、厚生労働省に届けられた再生医療安全性確保法によって管理されるがん治療方法を以下にいくつか挙げます。

  • 悪性腫瘍に対する免疫細胞(NK細胞、γδT細胞、CD8陽性細胞、CD4陽性細胞を含む)治療(生物応答修飾剤活性化細胞障害性リンパ球療法:BAK療法)
  • Human Initiated Therapeutic Vaccine (HITV) 療法 (自家培養未成熟樹状細胞(imDC)、自家培養活性化Tリンパ球(AT)による抗腫瘍効果を期待する細胞療法)
  • 悪性腫瘍に対する樹状細胞ワクチン療法
  • 悪性腫瘍に対する活性化リンパ球療法
  • 悪性腫瘍または悪性腫瘍の予防に対する活性NK細胞療法

などです。

そしてがんと幹細胞の関連では、現在、がん幹細胞の存在が重要視されており、幹細胞を使った治療ではありませんが、がん幹細胞をターゲットとした治療が注目されています。

がん幹細胞(CSC: Cancer stem cells)とは、がん細胞のうち幹細胞の性質を有する細胞です。がん幹細胞については現在いろいろな仮説が立てられており、研究が盛んに行われている分野です。

仮説の一つを挙げると、がん再発の時にはがん幹細胞が大きな役割を果たしているという説があります

細胞ががん化し、がん細胞となり増殖する事によってがん細胞の塊が体内に作られます。この塊を構成する細胞は、1つのがん細胞から分裂したものであり、塊の細胞は全て最初にがん化した細胞のコピーと言えます。

このコピー細胞集団の中で、少数のがん細胞が幹細胞の性質を得ます。なぜ性質を得る事ができるかについては、細胞間相互作用説、ストレス説などがあり現在ははっきりしていません。

このがん細胞の塊が検査で発見されると、小さながん細胞塊であれば抗がん剤治療が行われることがあります。抗がん剤によってがん細胞塊のがん細胞は死にますが、幹細胞化したがん幹細胞は、抗がん剤耐性を持ち、抗がん剤に対して生き残ります。

生き残ったがん幹細胞は少数であるため、検査では見つけることができません。ですので、いったんは治ったとされます。そして何らかの刺激によって、残されたがん幹細胞が増殖を始めると、がんの再発となる、これはがん再発の原因ががん幹細胞であるという仮説です。

いったん抗がん剤の効果でがん細胞塊は小さくなりますが、残ったがん幹細胞はその抗がん剤に対して耐性を持つために生き残り、その耐性を持った細胞のコピーが増殖するために、再発時には以前使った抗がん剤が効かなくなることがあるのではないか、と考えられています。

5. まとめ

三大疾患は、日本人の死因のうち大きな割合を占める疾患です。また、後遺症が残り、生活の質(QOL: Quality of life)の低下が避けられない状況もあります。

幹細胞を用いた脳卒中の後遺症の改善、心臓機能の回復は、これらの疾患を克服する治療方法として期待されています。また、幹細胞を使った、ではなく幹細胞をターゲットにしたがん治療も現在は具体的に研究が進んでいます。