この記事の概要
  • 幹細胞治療のリスクは拒絶反応、がん化などと、コストや倫理的な問題もある
  • リスクの観点から間葉系幹細胞を用いた治療のみ、国内では一部保険適用となっている
  • 再生医療に関する法律が整備されはじめたことで、問題となっているコスト面や倫理面は徐々に解決する方向に向かう可能性がある

今、医療の現場で注目を集めている「幹細胞」ですが、幹細胞には、自分と同じ能力を持つ細胞に分化できる能力(自己複製能)と様々な細胞や組織に分化できる能力(多分化能)があることはこれまでにも解説しましたね。

 

この他にも多彩な能力を持つ幹細胞ですが、幹細胞を用いた治療は比較的、拒絶反応が少ない、損傷を受けた部位に直接貼り付けたり注入したりしなくても、点滴で注入できるため患者さんへの負担が少ない(ホーミング効果)、骨髄や脂肪など多くの場所に存在する(間葉系幹細胞)などメリットが多いような感じを受けます。

では幹細胞を用いた治療に、リスクはあるのでしょうか。

『万能細胞』とも言われる幹細胞ですが、もちろんまったくリスクがないというわけではありません。

今回は、幹細胞治療におけるリスクに焦点を当てて解説していきます。

1. 3つの幹細胞とそのリスク

「幹細胞」は大きく、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、体性幹細胞の3つの種類に分けることができます。現在、実際の治療に用いられているのは、体性幹細胞で、なかでも間葉系幹細胞を用いた治療が注目を集めています。では、それぞれの幹細胞で、どのようなリスクが考えられるのでしょうか。

1-1. 胚性幹細胞(ES細胞)とそのリスク

ES細胞はヒトの受精卵から一部の細胞を採取し、その細胞を培養して人工的に作られます。ES細胞は様々な細胞に分化する能力を持っています。そして、ほぼ無限に増殖することができる非常に高い増殖能力を持ち合わせています。さらに、他人の細胞から作ることが可能です。このように多くの才能を持つES細胞ですが、ES細胞を培養するには、受精卵が必要となります。この培養に受精卵が使われるということが大きな問題となっています。

本来ならヒトとして成長するはずの受精卵が使われることは、命の源を摘み取ってしまうことになるのではないかということで、倫理的観点から問題視されているのです。2001年8月アメリカでは、この倫理的な問題によりES細胞の研究に対して公的な研究費を用いたES細胞の研究が禁止されました。

しかし、2009年3月オバマ大統領により、法律の範囲内でのES細胞の研究が認められることになりました。公的な研究費を用いた研究の制限が解除され、これによりES細胞に関する研究が再び進められることになりました。

また、ES細胞は、他人の細胞から作られるので、移植する患者さんの遺伝子とES細胞の遺伝子は異なってきます。そのため拒絶反応を引き起こすリスクが高いとされています。

1-2. 人工多能性幹細胞(iPS細胞)とそのリスク

2006年に京都大学の山中教授が、iPS細胞を作製することに成功しました。皮膚の細胞に4つの遺伝子を入れることで、ES細胞のようにあらゆる細胞に分化できると能力をもったiPS細胞をつくり出したのです。

iPS細胞は、患者さん自身の皮膚の細胞から作り出すことが可能です。ES細胞が抱えている倫理的問題や拒絶反応のリスクが少ないと言われています。しかしそんなiPS細胞にも大きく2つの問題点があります。

1つ目はコストと時間の問題です。iPS細胞の培養には膨大な費用と時間がかかります。iPS細胞の作製には数千万円かかるとも言われています。この問題に対し、山中教授は、治療用のiPS細胞をより短い期間で、さらに低コストで作る研究を進める計画を提言しました。iPS細胞をストックすることにより、準備に要する時間を短縮し、それが費用の削減にもつながると考えられていますが、現在も費用と時間の問題は課題として残され、様々な取り組みがなされています。

2つ目はがん化のリスクです。

遺伝子に傷が付いたり、細胞が変異を起こすと、細胞が増殖をし続ける状態になることがあります。iPS細胞は細胞に遺伝子を組み込んで作られるため、傷ついた遺伝子が組み込まれたり、遺伝子が変異したりすることで、がん化するリスクが高くなります。iPS細胞のがん化のリスクは大きな課題となっていますが、現在、がん化を防ぐしくみが解明されつつあります。

慶応大学の岡野栄之教授らにより、陽電子放射断層撮影装置(PET)画像で、iPS細胞ががん化しているかどうかを確認する方法が開発されました。画像により確認できるため、患者さんの負担が少なく、万が一、がん化している部分が見つかった場合は切除などを早期に行えるため、実用化に向けその効果が期待されています。

1-3. 体性幹細胞とそのリスク

体性幹細胞は、分化できる細胞の種類が限定されていると考えられていましたが、間葉系細胞は様々な臓器や組織に分化できる細胞であることがわかりました。皮膚や脂肪、骨髄などあらゆる場所に存在していて、自分自身の細胞を培養に用いることが可能なので、拒絶反応やがん化のリスクも比較的少ないと言われています。間葉系幹細胞は、ES細胞やiPS細胞に比べると分化できる組織や細胞は限られてはいますが、複数の組織や細胞に分化できる能力を持っていて、すでに実際の治療に用いられ保険適応となっているものもあります

間葉系幹細胞を用いた治療は、現時点ではES細胞やiPS細胞に比べると比較的リスクが少ないため、その効果が期待されていますが、その培養にコストがかかること、体外での培養や増殖が難しいこと、増殖能力が限られていることなどの問題点があります。

2. 幹細胞治療と安全性の確保

幹細胞治療には大きく分けて、拒絶反応やがん化、コストや倫理的問題などのリスクがあることがわかりましたね。幹細胞治療を実際の治療に用いるためには、この問題点を無視することはできません。

わが国では、これらのリスクに対しその安全性を守るために「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」や「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」が施行されました。

この法律により、厚生労働大臣への届け出なしに治療の提供や細胞の加工を行うと罰則が科されることになりましたが、幹細胞を用いた治療等については、その製品の安全性が確保できれば、早い段階で治療に入ることが可能になりました。

また、患者さん自身の身体で効果を確認し、それを臨床データとして用いることができるため、早期に国の承認を得ることが可能になりました。早期承認は、幹細胞治療の大きな課題となっているコストと時間の削減につながるとされています。

 

3. まとめ

 

幹細胞を用いた治療は問題点やリスクがあります。ES細胞やiPS細胞を用いた治療は、その才能に注目が集まっているにも関わらず、現時点で実用化には至っていません。現在もなお、研究が進められていますが、そのリスクに対し明確な解決策が見つかっていないのが現状です。

現在、再生医療として臨床で実際に用いられているのは体性幹細胞で、なかでも間葉系細胞を用いた治療が注目され実用化されています。間葉系細胞を用いた治療は、拒絶反応やがん化のリスクも少なく、倫理的問題もクリアしています。今もなおさまざまな臨床研究・応用がすすめられていて、効果が大きくリスクが少ないその治療法の確立に大きな期待が寄せられています。

幹細胞を用いた治療は、その効果が認められているものはまだまだ少ないのが現状ですが、アンチエイジングなど、身近なところでの利用に対しても開発が進められています。

幹細胞治療のリスクに対する解決策が発見され、その多彩な能力を生かした治療法が開発されることになれば、いままで治療が困難だった病気や、難しし症状を改善することができる日がくるかもしれません。今後もその研究と開発に注目していきたいですね。

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