この記事の概要
  • 認知症患者の50%はアルツハイマー型認知症
  • アルツハイマー病モデルマウスをつかった実験で、認知記憶障害が改善された

認知症は、社会問題とも呼べる大きな問題です。

この記事とは、認知症の原因や幹細胞治療の現状について解説します。

1. 認知症とは

精神疾患の1つに認知障害というものがあります。学習、記憶、理解、問題の解決に障害が起こっている状態を指します。この認知障害に含まれる疾患として健忘、せん妄、認知症があります。健忘は、事実や経験の記憶が混乱、失われる状態を指し、もの忘れ、記憶喪失を含んだ疾患です。そしてせん妄は意識混濁時、脅迫的思考状態時に幻覚、錯覚が見られる状態です。健康な人でも、就寝時に強引に起こしたりすると起きることがあります。

そして認知症は、後天的な原因によって知能が低下した状態です。知能はいったんは正常に発達しており、この知能低下は不可逆な状態であり、現在は進行を遅らせることはできても回復は困難とされています。ヒトだけでなく、犬、猫などの哺乳類でも発症が確認されています。知能だけでなく、記憶、現在の日付、自分がどこにいるかなどの見当識を含む認知障害、そして人格変化を伴うことがこの認知症の特徴です。

能力の低下に伴い、理論的、理性的な思考力が衰えるだけでなく、人格変化が伴うことはこの疾患との付き合いを難しくしています。性格が先鋭化する(俗に言う、わがまま、きまぐれ、毀誉褒貶など)、承認欲求が強くなる、被害妄想が強くなるなどにより、周囲の人にも大きな影響を与えます。

こういった認知症の特性から、介護、看病には他の疾患と比べても多くの労力を必要とし、全世界で政府が負担しなければならない経済的なコストも大きくなっています。統計によると、全世界で認知症にかかっている経済的コストはスイスのGDPを上回るとされており、認知症を治療する方法は、今後世界的に大きな喫緊の課題となると考えられています。

2. 認知症の原因疾患

認知障害を構成する疾患の1つが認知症ですが、認知症はさらにいくつかの原因疾患により構成されています。

認知症の原因疾患として大きな割合を占めるのが、変性性認知症に含まれる疾患群です。このグループには、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、ハンチントン症型認知症が含まれます。

認知症の患者の50%以上を占めるのがアルツハイマー型認知症です。基本的に、短期記憶障害により日常生活、社会生活に支障をきたします。進行は個人差がありますが、一般的にゆっくりと言われています。これは急性型の脳障害が原因の認知症と比べて進行がゆっくりということです。レビー小体型認知症は、認知機能が急激に変動することと、幻視が特徴です。レビー小体というパーキンソン病で見られる症状が脳内に見られ、パーキンソン病型認知症との区別は曖昧です。パーキンソン病の場合は、かなりの高確率で認知症を発症します。パーキンソン病患者の約40%が認知症を発症とされています。追跡研究では、8年間追跡調査を行った結果、約80%の患者が認知症を発症しています。

前頭側頭型認知症は、かつてはピック病と呼ばれていました。若年性、発症初期から性格変化を伴う認知症です。行動異常、言語機能障害を伴う、初老期の神経変性疾患で、運動ニューロン疾患症状を示す場合もあります。殴りかかってくる、怒鳴るなどの症状を伴うため、看護、介護においては、介護側に大きな精神的なストレスがかかる疾患です。

変性性認知症の次に認知症の原因疾患として割合が高いのは、血管性認知症です。この疾患は、脳梗塞型とも呼ばれ、脳梗塞に伴う脳虚血が直接原因です。脳虚血に伴い、脳細胞の壊死、障害が原因となって脳機能がうまく働かなくなることから起こります。脳梗塞は、急性のものと慢性のものがありますが、急性のものである場合、認知症の発症、進行もかなり早い傾向が見られます。

他にも、クロイツフェルト・ヤコブ病、HIV関連認知症、梅毒関連認知症が原因疾患としてあげられます。クロイツフェルト・ヤコブ病は、アルツハイマー型との区別が難しく、アルツハイマー型の認知症と診断された患者が、実はクロイツフェルト・ヤコブ病型の認知症であったというケースも散見されます。

3. 認知症に対する幹細胞治療

認知症に対する幹細胞の治療は、現時点で実用化されている効果的な治療法はありません。脳梗塞が原因の認知症に対して、幹細胞の治療を行っているクリニックもありますが、現時点では研究能力を有する医療機関で治験段階のため、保険が適用される高額治療となってしまいます。

脳梗塞型の認知症を治療する場合、脳梗塞によって壊死した脳細胞を補充し、失われた、または障害を受けた身体機能、感覚を改善させることが目的となります。現時点では、有効性を示す科学的なデータ(アカデミック、かつ国際的に有効と認められるだけの統計的に整合性のあるデータ)は示されておらず、クリニックでの治療も「理論的には治療法として成立する“はず”なので、とにかくやってみる」という域を出ません。

しかし、1990年代までは常識とされていた「人間の脳細胞は成人後は増殖しないし再生もしない」という説はすでに覆され、成人後の脳細胞の再生も実験室レベル、動物実験レベルでは可能になっています。

一方で、認知症の割合の多くを占めるアルツハイマー型認知症は、「不可逆」とされており、幹細胞を使った治療でも研究は進められてはいますが、人間の治療に応用できるだけの有効な結果は得られていないのが現状です。

しかし、アルツハイマー病モデルマウスを使って、骨髄から採取した間葉系幹細胞から実験室で脳内免疫担当細胞のミクログリア様細胞を作製し、脳内に移植すると、アルツハイマーの原因であるアミロイドβタンパク質の脳内蓄積量が減少する、それに伴ってマウスの認知記憶障害が改善することが証明されています。

iPS細胞を使った研究では、iPS細胞を神経細胞に分化させてアルツハイマー病に似た家族性前頭側頭葉変性症の研究が行われています。iPS細胞を使って培養細胞系で研究を行うことは、動物実験で研究を行う場合よりも実験期間を短く、またコスト的にも抑えることが期待できるので、これらの疾患研究が幹細胞によって加速すると予想されています。

実際、健常者の脳内で起こっていることは、ヒトだけでなく他の動物種でもわかっていないことが多く、脳内機能の解析を待たなければいけない状況もあり、すぐに認知症に有効な幹細胞治療が実現できる可能性は低いのが現状です。そのため、先に述べたいくつかのクリニックのように、「理論的には治療法として成立する“はず”なので、とにかくやってみる」という考えのもとに幹細胞を使った治療を「試してみる」という段階です。

脳の機能は、例え昆虫であっても研究対象としてはかなりメカニズムが複雑であり、ましてや高度な社会性によって生活をしているヒトの脳を使って、失われた機能を回復させることは容易ではありません。

しかし、認知症の可逆的な回復が難しかったとしても、進行を抑制する、完全に抑制できないまでも、進行速度を遅くさせるという治療は、幹細胞を使って実現できるのではないかと期待されています。現在、大きな経済的コストと、多くの人間の労力によって成立している認知症患者の看護、介護は、各国の政府によって喫緊に解決しなければならない問題であり、国からの研究資金投入も盛んに行われています。

今後の目標としては、認知症の進行を緩慢にする治療方法の開発と、その保険適用によって多くの人がその治療を受けられる状態の実現が第一ステップであり、そこで得られる多くの患者からの臨床データをもとにして可逆的な治療方法の開発が行われていくのではないかと予想されます。

アルツハイマー病についてはこちらで詳しく書いています

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