ペットへの幹細胞治療の応用!将来性や法整備に関して解説!

この記事の概要
  • 幹細胞の治療は人への治療に留まらず、動物(ペット)にも活用されている
  • 長野県のさくら動物病院は、長野どうぶつ眼科センター、長野どうぶつ再生医療センターを併設し、幹細胞を用いた治療、臨床研究を行っている
  • ドナーとなる動物が微生物に感染しているリスクも存在し、注意が必要

人だけでなく動物への活用も注目されている幹細胞治療ですが、現在の臨床研究はどの程度進んでいるのでしょうか。

この記事では、幹細胞治療の動物(ペット)への応用に関して、解説します。

目次

1. 幹細胞の動物への応用

幹細胞はヒトの医療だけでなく、他の動物種にも使われています。例えば、JRA競馬総合研究所(JRA総研)で行われている馬屈腱炎に対する幹細胞治療は、競走馬で多く見られる屈腱炎の根治を目指した治療です。

屈腱炎は、馬の脚部に起こる疾患であり、治癒には数ヶ月から数年かかるだけでなく、患部は健康だった時の状態に戻ることはありません。この根治を目指して、JRA総研では、骨髄由来の間葉系幹細胞を患部に投与し、幹細胞の分泌するサイトカインによって治療する方法を模索しています。

競走馬、肉牛、乳牛などの経済動物以外、つまりペットにも幹細胞治療は拡がりつつあります。獣医学分野では、幹細胞治療を「組織補綴療法」「免疫強化療法」「サイトカイン療法」に分類しています。

2017年時点では、家畜動物において、サイトカイン療法を使って脊髄損傷、肝臓疾患を治療する方法については、企業における治験、製品開発まで進んでいます。このサイトカイン療法に含まれる馬の屈腱炎、各種内科・外科疾患の治療については、各病院等で診療行為が行われている段階です。

免疫強化療法に含まれるがん免疫療法等、リンパ球活性化/免疫強化の2つは、がん免疫療法が診療行為が行われ、リンパ球活性化/免疫強化が研究機関での基礎研究が行われています。組織補綴治療はiPS細胞由来血液細胞を使う治療、運動器官の補綴、角膜修復は現時点では研究機関での基礎研究の段階です。

獣医学分野で実際に臨床研究が行われている、または研究が行われて実用段階まで到達した疾患を以下に挙げます。

脊髄疾患

  1. 椎間板ヘルニア
  2. 変形性脊椎症
  3. 変性性脊髄症
  4. 脊髄拘束、小脳梗塞など中枢神経系梗塞

自己免疫疾患

  1. 乾燥性角結膜炎
  2. アトピー性皮膚炎
  3. 免疫介在性関節炎
  4. 非再生性再生不良性貧血

内科系疾患

  1. インスリン依存・非依存型糖尿病
  2. 慢性膵炎
  3. 慢性肝炎
  4. 肝不全・肝硬変
  5. 腎炎
  6. 慢性腎疾患

その他

  1. 骨折癒合不全
  2. 皮膚創傷

これらの疾患が、獣医学分野で幹細胞を使って治療、または臨床研究がされています。

一般的な動物病院が細胞を用いた治療を行う設備については、整備のハードルはそれほど高くありません。コスト、技術についてもそれほどの問題がないため、テクニカルな問題は現時点では大きくないといっても良い状況です。

2. 疾患治療の具体的な内容

獣医分野で行われている治療対象の疾患として、骨折の癒合不全、慢性関節炎、椎間板ヘルニアなどの外科疾患が多くの割合を占めます。小型犬、猫の骨折は、部位によって(例:尺骨など)は、プレートで固定しても骨自体が細い、脆いために骨吸収の併発による癒合不全を起こしてしまうケースが多く見られます。そのため、層外固定を行って患部を固定後、培養した間葉系幹細胞を患部に投与して癒合を促進させる方法が取られます。

また、屋内飼育の増加に伴い、小型犬の椎間板ヘルニアが増加しています。椎間板ヘルニアの場合、麻痺が残ってしまうケースがあります。このような症状に対しては、培養した間葉系幹細胞の点滴による投与で麻痺が回復し、歩行が可能になったという報告があります。

これは、投与した間葉系幹細胞が患部で抗炎症サイトカインなどを分泌するために炎症が抑制され、圧迫が解除される(腫れによって圧迫されていた部分が解消される)、血管新生によって損傷組織が再生するなどによるものと考えられています。

さらに具体的治療例を挙げます。長野県のさくら動物病院は、長野どうぶつ眼科センター、長野どうぶつ再生医療センターを併設し、幹細胞を用いた治療、臨床研究を行っています。

ここで角膜損傷のブルドッグ(雌・3歳)に行われた治療が2017年の医工学フォーラム特別学術講演会で農林水産省動物医薬品検査所、再生医療等製品・バイオテクノロジー応用医薬品チームによって報告されています

(タイトル:動物再生医療のレギュレーションと産学連携 ―特性に合ったレギュレーションとプレ・コンペティブ共同研究の必要性―)。

この犬は角膜の潰瘍(突発性慢性角膜上皮欠損)で来院しました。標準治療を行いましたが、症状は悪化したためにサイトカイン療法に分類される幹細胞治療を行いました。

ポイントとしては、角膜欠損部になるべく早い段階で新しく再生された血管を到達させられるかどうかです。この到達が成否のカギとなるため、血管新生を最大に促進させる処置を行いました。治療方法は、凍結保存されていた間葉系幹細胞(他家細胞)を3回に分けて投与、という方法を採りました。この結果、6日後には眼内で血管の伸長が見られ、欠損部に血管が申請することによって上皮化が進み、48日までには順調な回復傾向を示しました。

この治療には、保存されていた他の動物個体の間葉系幹細胞を使いました。自己細胞を採取して間葉系幹細胞を必要数確保するほどの時間的猶予がなかったからですが、疾患によっては自己細胞を採取して対応するという治療方法も可能です。しかし一方で、冷凍保存して今回の疾患のような時間的猶予のない場合に使う細胞ストックも必要です。

3. 細胞ストックを作る場合のドナー動物

犬、猫など、様々な動物から幹細胞を採取して保存しておくことは非常に重要ですが、注意しなければならない点もあります。例えば、ドナーとなる動物が微生物に感染していた場合、様々な影響が考えられます。

「ドナー動物の適格性に影響する犬の感染症」を例に挙げて微生物学的安全性を解説すると以下のようになります。

狂犬病

狂犬病ウイルスを持つドナーから移植を受けた場合、致死率は非常に高くなります。しかし有病率は日本においては低く、ワクチンも存在します。

ジステンパー

致死率は様々で、低い場合から高い場合まで考えられます。日本における有病率は低く、ワクチンも存在します。

犬パルボウイルス感染症

子犬の場合は致死率が非常に高くなります。有病率はそこそこありますが、ワクチンは存在しています。

犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型感染症)

致死率は提供を受けた側の状況によって様々です。有病率は低く、ワクチンも存在しています。犬アデノウイルス2型感染症は有病率が高いのですが、ワクチンが存在しています。

犬ヘルペスウイルス感染症

移植を受けた場合、子犬の致死率は高くなります。有病率は高く、ワクチンが存在しないため注意が必要です。

犬レプトスピラ症

移植を受けた場合の致死率、有病率は低く、さらにワクチンはすでに開発されています。

ブルセラ症

移植を受けた場合の致死率、有病率は低いのですがワクチンが存在しません。

 

この他にも様々な問題点が考えらるため、ヒトの医療同様に法律の整備が必要になります。

4. ペットの幹細胞治療のための法整備

先に、一般的な動物病院が細胞を用いた治療を行う設備整備のハードルはそれほど高くない、と書きましたが、やはり基準は設けないと患畜、その動物を管理する人間の不利益につながります。

細胞加工製品の品質管理は、その製品の性質上、不均一、不安定であり、正常性が必要という条件があります。これらを考えて、法律に基づく品質、有効性及び安全性を確保しようとすると、次のような制度が必要になります。

  • 製造業許可制度
  • 製造販売業許可制度
  • 外国製造業の認定制度
  • 製造販売承認制度
  • 原薬等登録制度
  • 国家検定・検査制度
  • 流通管理制度
  • 適正使用制度
  • 製造販売後調査制度

動物用医薬品はヒトとは異なり、管轄省庁は農林水産省となります。しかし、動物用再生医療等製品は、ヒトの場合と同様に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に従わなければなりません。

これは法律で、その下には政令である「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行令」があり、さらに下に「省令」として「動物用医薬品等取締規則(農林水産省令第107号他)」があります。これら法による整備が今後進められるはずであり、近いうちにペットなどの動物に対する幹細胞治療はごく一般的な治療として行われると予想されます。

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