「脳梗塞」とは?メカニズムと幹細胞の治療を解説!

この記事の概要
  • 日本人の寝たきり症状の原因の30%はは脳梗塞が原因
  • 脳梗塞は大きく分けて3つに大別できる
  • 現時点で日本においては、脳神経再生に幹細胞を使った治療は臨床治験段階なので保険は適用されない

日本人の死亡原因として高い「脳梗塞」は、脳の血液がつまって、脳の細胞が死んでしまう病気です。

この記事では、脳梗塞のメカニズムと、幹細胞治療に関して解説します!

目次

1. 脳梗塞

脳梗塞とは、脳に栄養、酸素を運搬する動脈が何らかの原因で詰まってしまったり、流路が狭くなることで十分な血液が流れないため、脳虚血という状態になって脳組織を構成する脳細胞がダメージをうけることです。

脳細胞のダメージは、細胞傷害だけでなく、細胞が壊死することもあります。また、この結果生じる症状をまとめて脳梗塞と表現することもあります。最近ではあまり使われなくなりましたが、脳軟化症という疾患名で呼ばれていた時期もあります。

症状は、ゆっくり進むものから急性の症状まで幅が広く、重い症状、例えば身体の麻痺、意識障害、言語障害などの症状が出る場合は脳卒中と呼ばれることもあります。ゆっくり進む場合は、脳血管性の認知症を発症するケースもあります。

日本人の死亡原因では高い順位にある疾患で、生命が助かった場合でも後遺症が残り、介護が必要になる場合が多く見られます。日本の寝たきりになっている人の約30%がこの脳梗塞によるもの、とされています。さらに、日本の年間医療費の約10%がこの介護にあてられており、今後の高齢化社会を予想すると、非常に大きな問題となる疾患です。

2. 脳梗塞の疾患メカニズム

脳梗塞は、脳の動脈が詰まる、または狭くなるという表現が使われますが、緩やかな進行のもの、急性のもので分類されます。また、原因、病型によっても分類することができます。現在は大きく分けて3つに分類されています。

3つを説明する前に、まず血管関連のことについて説明しなければなりません。血管は、徐々に詰まっていくと、血流を確保しようとして、新しい流路ができることがあります。これを側副血行路と言います。徐々に詰まっていくと、周辺にこの側副血行路が形成されるために、広い範囲で傷害を受けないことがあります。

一方で、血管が突然詰まってしまうと、側副血行路のような緊急の流路が形成できないために、血液の恩恵がない細胞の範囲が広がり、広範囲にわたって脳細胞がダメージを受けます。この血管と血流の性質を頭において解説をお読み下さい。

まず、心原性脳梗塞です。脳塞栓、という言葉も使うこの脳梗塞は、脳血管そのものが原因ではなく、流れてきた血栓が脳血管に詰まることで起こります。正常に流れていた血液が、血栓によって突然詰まるために、症状は激しい傾向にあります。また、脳細胞の衛視範囲も広くなる傾向にあります。心臓で生成する血清が原因であることが最も多く、心房細動が大元の原因であるケースが多数です。

アテローム血栓性脳梗塞は、動脈硬化などが原因で、動脈壁に沈着したアテロームによって動脈の管が徐々に狭くなり、脳の血流量が確保できなくなることによって起こります。

アテロームは動脈壁から剥がれ落ちることもあり、このアテロームの破片が血管に詰まる場合もあります。アテローム血栓性脳梗塞のリスクファクターは、動脈硬化のリスクファクターと同じで、高血圧、糖尿病、脂質異常症などです。

3つめは、ラクナ梗塞です。小さな梗塞を指す分類区分で、直径がおよそ1.5 cm以下の梗塞を指します。このラクナ梗塞は、症状によってさらに細かく分類されています。これは、症状によってラクナ梗塞が脳のどの部位で起きているかが予想できるからです。この分類は以下のようになります。

  1. 片麻痺、感覚障害はない:対側の放線冠・内包後脚、橋底部が病巣
  2. 半側の異常感覚・感覚障害:対側の視床が病巣
  3. 一側下肢に強い不全片麻痺・小脳失調:対側の橋底部・内包後脚・放線冠が病巣
  4. 構音障害と一側の巧緻運動障害:対側の橋底部・内包後脚・放線冠が病巣
  5. 対側の感覚障害・同側の片麻痺:視床から内包後脚が病巣

これらは多発することによって認知症、パーキンソン病の原因になります。ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の区別は、症状の重さ、軽さで判断するということもあるのですが、それだけでは正確性に欠けるため、上に挙げたラクナ梗塞の症状と照らし合わせて予測されます。

いずれの場合も、脳血管の血流阻害、または血流量の不足による脳細胞への酸素、栄養の供給不足でおこります。脳細胞が壊死するベルもあれば、壊死するほどではないが虚血状態に置かれる場合もあります。

脳梗塞の状態によっては生命の危機もありますが、生命をとりとめたとしても、脳細胞の壊死した部位、範囲によっては障害が残り、その後の生活に大きな影響を与えます。脳梗塞への対策は、「脳梗塞を起こさないための生活習慣、それによる予防」、「脳梗塞が起きたときの生命維持、後に残る障害を少しでも軽くするための治療」そして、「脳梗塞の後遺症からの回復、またはそれ以上障害を悪化させないための治療に」に分けられます。

3. 脳神経再生の治療

幹細胞を使った治療に期待されるのは、脳梗塞によって壊死した脳細胞の補充、それによって身体機能、感覚などの障害を少しでも軽減することです。つまり、「脳梗塞の後遺症からの回復、またはそれ以上障害を悪化させないための治療」において大きな期待が寄せられています。

ネットで検索すると、いくつかのクリニックで脳梗塞、幹細胞治療、というキーワードを使って宣伝をしています。現時点で日本においては、脳神経再生に幹細胞を使った治療は臨床治験段階なので保険は適用されません。また、科学的に効果を評価したデータも不十分ですので、そういったことを理解した上でクリニックの治療を受けなければ後々のトラブルの原因となってしまいます

人間の脳細胞は、成人後は増殖せず、再生もできないという説が覆されたのは1990年代後半です。成人後の人間でも脳細胞の再生ができることが明らかにされ、再生医療への応用を期待した研究が始められました。

しかし、脳梗塞によってダメージを受けた脳細胞は、その範囲が広い場合は再生させようとしても酸素・栄養が十分に供給できない状況になっているために、再生がうまくいきません。幹部周辺の神経幹細胞も酸素不足、栄養不足で壊死してしまっているため、脳細胞のもとになる細胞自体が存在しなくなってしまうのです。

そのため、幹細胞を注入することによって再生させようとする方法が試みられました。患者の骨髄から採取した造血幹細胞を培養によって増殖させ、大量に点滴によってからに戻す方法が試みられています。一方で、健常者の造血幹細胞を遺伝子組み換えによって培養し、脳内に直接注射する方法も試されましたが、2019年に後期第Ⅱ相臨床試験で、慢性期の脳梗塞については期待する効果が得られなかったことが発表されています。

急性期の脳梗塞に対応するものとしては、健常者の歯髄幹細胞を使い、その幹細胞を静脈注射する方法が適応がある事が確認されています。脳梗塞からの機能回復は、リハビリテーションに頼っているのが現状です。脳梗塞の後遺症の程度にもよりますが、重めの脳梗塞であると、機能脳完全回復は期待できず、最低限の生活ができる機能を回復させるのが精一杯と言われています。

幹細胞治療による脳神経再生によって脳内の状態が健常時に近くなれば、今以上の回復が見込めるのですが、何も起きていない状態の脳においても謎が多い現状では、幹細胞治療を効果的に行う研究もなかなかスピードアップができません。

自由診療で行われているクリニックの幹細胞治療も、「とりあえずやってみる」という段階にとどまり、幹細胞の効率利用についてはいまだにはっきりしない部分が多く、保険適用に耐えうるだけの効果と信頼性はまだ得られていません。

しかし、進みは遅くとも、進歩していることは確実であり今後少しずつ治験において、期待に近い結果が生まれ、一般の治療に用いられるのはそう遠くないと考えられています。

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