始原生殖細胞とは?特徴や幹細胞について解説!

この記事の概要
  • 始原生殖細胞は精子や卵子のもととなる細胞
  • 始原生殖細胞から作られる幹細胞はPG-EG細胞、またはPGC-EG細胞と呼ぶ

精子や卵子のもととなる細胞のことを始原生殖細胞といいます。

この記事では、始原生殖細胞の特徴や、始原生殖細胞から作られる幹細胞について解説します。

目次

1. 始原生殖細胞とは

始原生殖細胞は、英語ではprimordial germ cell(略称:PGC)または、gonocyteと表現されます。現在では、英語表記はprimordial germ cellがよく使われています。日本語では、始原生殖細胞の他に、原始生殖細胞、原生殖細胞という呼び方もあります。

始原生殖細胞は、将来生殖細胞になる根本の細胞を指します。女性の場合、始原生殖細胞は卵原細胞になり、その後卵母細胞を経て卵子に分化します。男性の場合は、始原生殖細胞は精原細胞になり、精母細胞、精細胞を経て、精子に分化します。

動物の細胞はいろいろな分類の仕方がありますが、生殖細胞かそうでないか、という分類では、「動物の体を構成する細胞は、体細胞と生殖細胞に分けることができる」ということができます。体細胞は、体の各部を作るための細胞、生殖細胞は次世代を残すための細胞です。

2. 体細胞と生殖細胞の違い

始原生殖細胞を知るためには、体細胞と生殖細胞の違いを知ることが必要です。まず、体細胞と生殖細胞は役割が全く異なります。体細胞は、体を構成する、また機能の基本単位です。一方で、生殖細胞は親の遺伝情報を子供に伝える役割を持っています。

細胞の内部での大きな違いは、染色体の数です。人間の体細胞は、46本の染色体を持っています。この46本という数は、23本の染色体を2セット、という事を意味します。卵子が受精するとき、卵子の染色体、つまり母親由来の染色体が23本、精子の染色体、つまりは父親由来の染色体23本によって、受精卵は23本 x 2、46本の染色体を保有します。

つまり、精子、卵子はそれぞれ23本の染色体を持っている、生殖細胞は染色体を23本持っていることになります。体細胞は父親由来、母親由来の染色体をもつため、それぞれ23本、合計で46本です。生殖細胞の場合は、その半分の23本、これは体細胞と生殖細胞の大きな違いです。

始原生殖細胞は、“生殖”という文字を含むので、生殖細胞、つまり染色体数は23本と思われがちですが、実は始原生殖細胞は染色体を23本 x 2、つまり46本持っています。これは何故でしょうか。

3. 減数分裂による精子、卵子の形成

精子、卵子はまとめて“配偶子”と呼ばれます。始原生殖細胞が46本の染色体を持つのであれば、配偶子になる途中で何かによって染色体が23本にしなければなりません。これは、“減数分裂”と呼ばれる細胞分裂によって行われます。この減数分裂によって形成された染色体を23本もつ卵子に、同じく23本の染色体を持つ精子が受精することによって、受精卵は父親由来の23本、母親由来の23本、合わせて46本の染色体を持つことになります。

まず、卵子の形成を解説します。始原生殖細胞は、体細胞と同様にDNA複製を行ってから分裂します。つまり、始原生殖細胞が分裂してできる細胞は、常に46本の染色体を持っています。始原生殖細胞の分裂によってできる細胞は、卵原細胞と呼ばれます。この卵原細胞は成長し、一次卵母細胞となります。この一次卵母細胞が分裂して2つの細胞になるとき、一次卵母細胞ではDNAの複製が行われません。そのため一次卵母細胞がもつ46本の染色体は、2つの細胞に公平に分配されます。

一次卵母細胞の分裂は、第一分裂と呼ばれ、分裂の結果できた2つの細胞は、1つが二次卵母細胞、もう1つが第一極体になります。二次卵母細胞、第一極体はさらに分裂し、二次卵母細胞が分裂した2つの細胞のうち、1つが染色体を23本持つ卵となります。もう1つは第二極体と呼ばれるものになりますが、第一極体が分裂してできた2つの細胞も、第二極体を呼ばれます。つまり、この段階で、1つの卵と、3つの第二極体ができていることになります。この最後の分裂を第二分裂と呼びます。

精子の場合も同じ分裂形式で、染色体を23本持つ精子が形成されます。卵子の形成と大きく異なっている点は、卵子は第一分裂、第二分裂によって1つの卵子を作りますが、精子の場合は、分裂してできるものが全て精子となる事です。

染色体を46本持つ一次精母細胞は、第一分裂によって染色体を23本ずつ持つ二次精母細胞になります。1個の一次精母細胞から、2個の二次精母細胞が形成されます。2個の二次精母細胞は第二分裂によってそれぞれ2つずつ、トータル4個の精細胞を形成します。この4個の精細胞は変形し、4個の精子が完成します。

さらに、最近の研究では、この段階でDNAのメチル化などによる遺伝子発現調節を行うためのゲノムインプリント(GI:Genomic imprint)という現象が起きることがわかっています。DNAのメチル化パターンは、同じ動物種の中でも個体によって異なる部分があります。そのため、生殖細胞では、父親由来、母親由来のDNAメチル化情報がいったんキャンセルされます。そしてリプログラミングを経て、次の個体形成の準備を行います。この減数分裂の段階から受精して生命の基本ができるまでは、遺伝学の観点から見ると、かなり複雑なことが行われており、まだ明らかになっていないことも多く残されています。

4. 始原生殖細胞から作られる幹細胞、そして幹細胞から作る始原生殖細胞

始原生殖細胞から作られる幹細胞は、始原生殖細胞(Primordial Germ Cell)のPG、またはPGC、胚性生殖細胞(Embryonic Germ Cell)のEGから、PG-EG細胞、またはPGC-EG細胞と呼ばれます。日本語にすると、始原生殖細胞由来胚性生殖細胞ということになりますが、胚性生殖細胞の部分は、胚性生殖幹細胞と呼ばれることもあります。

始原生殖細胞は、ヒトの場合はおおよそ妊娠4週目には体内の胚に発生すると言われています。ES細胞と同様に、受精卵、または受精卵から発生が進行した胚を1つ使わなければならないため、倫理的に大きな問題を抱えているPG-EG細胞ですが、実験動物を使った幹細胞、発生生物学の研究には人間以外の哺乳類を使うことによって用いられています。

また、始原生殖細胞を使った研究はヒトのみでなく他の動物でも行われています。これは、絶滅が危惧される動物種のPG-EG細胞を作り、「キメラが作れる」というこの細胞の特性を付き合って、動物種を絶滅から救おうという目的で行われています。また、畜産の分野では、ウシ、ブタなどを使った食肉の安定供給、質の安定に貢献すると考えられています。

さらに、始原生殖細胞から幹細胞を作るのではなく、幹細胞から始原生殖細胞を作る研究も行われています。2014年、iPS細胞を使って、ヒトの始原生殖細胞の作製に成功したことが発表されています。

始原生殖細胞に焦点を当てて研究することは、不妊症の治療を大きな貢献をすると考えられています。例えば、「精子ができない」が不妊の原因だった場合、わかっているのは精子ができないために妊娠しないということであって、「なぜ精子ができないのか」については、原因を特定することは簡単ではありません。

始原生殖細胞をiPS細胞から作ることができれば、不妊症の治療だけでなく、生殖細胞の発生、形成をさらに詳しく研究することによって、不妊の原因を明確に突き止めることができると予想されています。さらに、始原生殖細胞を使った研究をしようにも、受精した胚から採取しなければならないため、多くの研究機関が必要とするだけの細胞を用意することは困難です。さらに倫理的な問題により、研究テーマは機関内に設けられた倫理委員会などの厳しい審査を受けなければなりません。

しかし、iPS細胞由来の始原生殖細胞を使うことができれば、規制は緩やかなものとなり、研究に使いたい研究機関は、iPS細胞を購入して、発表されているプロトコールに沿った培養をすれば始原生殖細胞が手に入ります。少子化が問題となっていますが、「子供が欲しい人達が不妊によって子供を産むことができない」という問題も存在しています。この問題の解決に始原生殖細胞の研究は大きな役割を果たすと考えられています。

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