株化細胞とは?作り方と長所・短所を解説!

この記事の概要
  • 株化細胞は、主に研究目的で冷凍保存された細胞培養のもととなる細胞
  • ヒトの細胞で株化した事例はいまのところ存在しない
  • 研究施設では冷凍した株化細胞を必要なときに解凍、培養し、増殖させて研究に使われている

株化細胞は、幹細胞の研究には非常に重要な細胞です。

今回の記事では株化細胞の作り方と長所・短所を解説します。

目次

1. 株化細胞とは

株化細胞とは、細胞株化された、つまり培養細胞の株として確立された細胞のことです。細胞が株化されると、冷凍状態で保存ができたり、他の機関に譲渡することができるので非常に便利です。では、培養細胞の株、とはなんでしょうか。株化細胞を理解するためには、培養細胞を理解することが必要です。

2. 培養細胞の定義

多細胞生物の体を構成する細胞で、人為的に生体外で培養されている細胞を「培養細胞」と呼びます。例えば「ヒトの培養細胞」ということであれば、ヒトの体から採取された細胞を人為的に培養可能にした細胞が「ヒトの培養細胞」になります。

再生医療でヒトに使われるiPS細胞、ES細胞、EG細胞などは全てヒトの培養細胞です。ただし、再生医療に適合するようにヒトから採取された段階とは異なる性質の細胞になっているので、正確には「ヒト由来の培養細胞」であるという考え方もあります。

培養細胞は、これまでに多くの科学の発見に貢献し、医療、科学の発展に貢献してきました。動物を使った実験も、この培養細胞のおかげで避けることができるケースが多く、利便性、倫理的な面で培養細胞は非常に優秀な研究ツールです。

3. 培養細胞の作り方

培養細胞の作り方はいくつかあります。そのうちの1つをここで解説します。

ヒトの培養細胞は、もともと人の組織、器官を構成する細胞です。まず、ヒトの組織、または器官を手術などで取り出し、解剖用のハサミ、またはメスで細かく切断されます。切断された組織は、培地の入ったシャーレに入れられます。培地とは、細胞の生育に必要な栄養素などが入っている液体、ゼリー状の固体です。これを37℃のインキュベーターに置き、数日間培養します。

数日間観察を続けると、切断された組織の周辺に細胞が出てきます。これは、組織の細胞が分裂し、組織は切断されてバラバラなので、しょうがなく外に出てきた細胞です。ただし、必ず生えてくるというわけではありません。細胞が出てこない場合は、組織の採取からやり直しになります。

出てきた細胞は取り出されて、新しい培地の入ったシャーレに移し替えられます。移し替えられた細胞は分裂し、また増殖します。シャーレが飽和に近くなったら、また新しい培地に移し替える、これを繰り返します。この段階までに必要な事は、1. 細胞が組織から出てきてくれるかどうか、2. 細胞が分裂するかどうか、3. 取り出した組織に雑菌が入っていないかどうか(雑菌が入っている状態をコンタミネーションと言います。コンタミネーションをしてしまうと、培養細胞としては使用できません)、これらをクリアすることが必要です。

しかし、培養を開始した後、何度か分裂を繰り返すと細胞は急に分裂を停止します。そのまま培養を続けると、細胞は死んでしまいます。これは「細胞の寿命」によるもので、ここまでの細胞は「初代培養細胞」、「プライマリーカルチャーセル」と呼ばれます。

その死んでいく細胞の中に、少数ですが生き残って分裂を繰り返す細胞が出現することがあります。こういった細胞は死ぬことなく培養中は分裂を延々と繰り返し、「不死化」した状態になります。細胞がこの状態になると、「細胞が株化した」、または「細胞株が確立された」といいます。

しかし、現在はヒトの細胞でこれが成功した例がありません。ヒトの場合は、

  1. 健常な細胞であれば初代培養細胞として研究に使う。
  2. がん細胞は不死化しているが、もともと体内にあるときも不死化している。
  3. iPS細胞のように、性質を転換させる。

ということになります。

がん細胞は不死化している細胞ですが、がんの培養細胞と、不死化する健常細胞の研究から、「がん」という病気の本質に迫ることができたのは、人類にとって非常に大きな事でした。

4. 株化した培養細胞の長所と短所

株化した培養細胞は、培地内で培養すると細胞分裂を繰り返して無限に増殖し続けます。研究機関のほとんどでは、無限に増やすのではなく、研究に使わない時期には冷凍して保存しています。冷凍して保存しておき、必要なときに解凍して培養し、増殖させて研究に使えば、研究のランニングコストの削減にもつながります。

冷凍してある細胞は、ドライアイスなどを詰めた容器で運搬が可能です。そのため、他の研究機関に送付することも可能です。これは、研究においては非常に重要なことです。

研究における重要なことの1つに、「再現性」があります。細胞のAという遺伝子を活性化すると、Bというタンパク質が増える、という結果をあなたが得られたとします。この結果は、他の研究室、他の研究者があなたと同じ実験手法で行って、同じ結果を得られないと、正確な意味での「業績」として認められません。つまり、「再現性のある結果」でないとなかなか成果として認められません。

培養細胞の場合、増殖は細胞が単純に増えるのみです。有性生殖をするわけではありません。ですので、細胞の種類さえ同じであれば、再現性がとりやすいということになります。自分で結果を出した細胞を他の研究機関に送り、同じ結果が出るかどうかを確認してもらえば良いわけです。

そして最近では、細胞バンクというものができており、そこから株化された培養細胞を買って研究に使うことができるようになっています。あなたがそこから細胞を買って研究し、結果を論文で発表するときに、その細胞の製品番号と買った細胞バンクを論文に明記しておけば、あなたの実験を再現したい研究者は、その細胞バンクから該当する細胞を購入し、あなたの論文に書かれている実験方法通りに実験して再現性がある結果が出るかどうかを確認するだけで済みます。

他の研究機関、研究者の行った研究の再現を取ろうとしたとき、培養細胞を使ったものであればかなり簡便に再現実験に取りかかることができるようになったのは、株化された培養細胞が一般的に研究に用いられるようになったためです。再現性のあるデータは信用されます。よって、次のステップに安心して進むことができる、また、なんらかの間違いがあれば、その間違いを確認するための労力も減ることから、間違った方向に研究が進まないことも培養細胞の存在によってもたらされた利益です。

一方で、株化された培養細胞には短所もあります。株化するまでのステップで、細胞の性質が体内に細胞として存在するときとは異なってしまうことがあるということです。健常細胞の場合を考えてみましょう。健常細胞の細胞分裂回数はもともと限界がありますが、株化された培養細胞では、「分裂を続ける」という点において、すでに体内の細胞と性質が異なってしまっています。この細胞に、ある薬物を加えたときの反応を調べようとした場合でも、体内の細胞と、株化された培養細胞では反応が異なるケースは、それほど珍しいことではありません。

体内にある場合も、体外でも細胞分裂を無限に繰り返すがん細胞でも、体内細胞と培養細胞の性質の違いは明らかになっています。薬物などの化合物を代謝する酵素の遺伝子は、培養細胞での発現は、体内の細胞と比べて大きく減少していることがわかっています。

この性質の違いを解消し、体外でもより体内に近い状態に細胞を近づける努力が現在盛んに行われています。培養細胞の多くは、培養シャーレの底面にはり付いた状態で増殖し、シート状の細胞の塊を作ります。これは平面上なので2次元培養細胞(2D培養細胞)と呼ばれています。この細胞を体内にある状態と同じ立体化された3次元の細胞塊(3D細胞塊)にすると、性質のいくつかが体内細胞と同じになる、また近くなることがわかってきており、こうした方法を使って現在培養細胞をより体内細胞に近くする研究が行われています。

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