この記事の概要
  • 幹細胞の特許は、要素技術と応用産業に大別される
  • 幹細胞の特許出願数はアメリカが1位、日本は3位
  • 多能性幹細胞ではiPS細胞、体性幹細胞では間葉系幹細胞の特許出願数が多い

特許は出願してから20年間保護されますが、特許が認められるまでは、様々な手続きがあります。

大まかに説明すると、特許を出願すると、まずは方式審査という簡単な審査を受けます。ここで通過すると、出願した事が公開されます。出願公開後、審査請求が出され、実体審査という本格的な審査が始まります

出願から特許が認められるまでは、短いもので半年、長い場合は数年かかります。10年かかる場合も時々見られます。

今回の記事では、幹細胞に関連する特許の内容や、各国の特許出願数などを解説します!

1. 幹細胞の特許は複数特許の組み合わせ

幹細胞の特許となりますと、「iPS細胞の発明」として1つの特許になっていると思われる方がほとんどでしょう。しかし、そのiPS細胞の特許は、1つではなく様々な特許が組み合わさって、iPS細胞の特許を形成しています

iPS細胞を作製するための技術は、さまざまな培養方法であったり、遺伝子改変が含まれます。それらの1つ1つが特許となっているのです。

さらに、iPS細胞からの応用もいくつもの特許になっています。J-STORE(科学技術振興機構の特許情報を一般公開しているデータベース)に掲載されている特許は、いくつもの機関から出されています。幹細胞関連の特許を最も多く掲載しているのが科学施術振興機構、2位が京都大学、3位が北海道大学、4位が金沢大学、5位が慶応大学です。また、大学・研究機関の幹細胞関連特許保有件数は、1位が科学技術振興機構、2位が産業技術総合研究所、3位が理化学研究所(通称、理研)、4位が京都大学、5位が慶応大学です。

これはiPS細胞だけではなく、どの幹細胞の研究・開発においても同様に、複数の特許が組み合わさっているのです。

2. 幹細胞関連特許の種類

ヒト幹細胞の関連技術は、要素技術応用産業に大別されます。

要素技術とは、新しいヒト幹細胞を発見する、作製することを指します。またはすでに使われている幹細胞を使って、応用産業で使うために基礎となる技術で、特許になります。

応用産業とは、疾患などによって損なわれた組織・器官・臓器を、幹細胞を使って修復する一連の技術を指します。幹細胞、またはそれを分化させた細胞などを利用した疾患メカニズムの解明、創薬スクリーニングの試験などが該当します。幹細胞を使って有用な物質を製造する技術もここに含まれ、これらも特許になります。

もっと詳しく

創薬スクリーニングとは、たくさんある化合物を、決められた評価方法や自動化装置を使いふるいにかけ、目的とする分子を探索する研究です。

具体的に要素技術と応用産業ではどんな技術が特許となり得るのでしょうか。

2-1. 要素技術の特許

要素技術では、以下に挙げる内容が特許となり得ます。

2-1-1. 新しい幹細胞

これは新しい幹細胞の発見と、その樹立方法が特許の対象になります。

2-1-2. 分離精製と増殖

組織を構成する細胞群から幹細胞をどうやって識別し分離するか。また、細胞の濃縮や生成する方法が中心です。幹細胞を培養し、増殖するための技術もこれに含まれます。これらの技術は、方法はもちろん特許になりますし、装置も特許になります。

2-1-3. 幹細胞の保存

幹細胞が保存されると、死んでしまう細胞や機能を失う細胞が出てきます。これらを改善するための方法は装置、器材を含めて特許の対象になります。

2-1-4. 分化の制御

幹細胞を特定の細胞に分化させるための手法です。

2-1-5. 細胞解析と品質管理

幹細胞の性質などを解析するシステム、そのための手法です。これは品質管理に利用可能となるので有用な特許候補となります。

2-1-6. 細胞加工

幹細胞を別のものに改変し、異なる性質を持たせるための技術です。遺伝子の導入方法、培養による細胞群の形態改変などがこれに該当します。

2-1-7. その他

その他に代表的なものとして、幹細胞の輸送などの技術です。これは幹細胞の保存と関連する事が多く、医療に応用する段階で非常に重要な技術です。

2-2. 応用産業の特許

応用産業に関する特許は、次の2つが該当します。

2-2-1. 再生医療と細胞治療

幹細胞を用いて、組織・器官・臓器の機能を再生し、修復するための細胞移植方法、組織・臓器の形成方法、生体移植後の幹細胞の分化誘導方法などです。これらの技術をサポートする周辺技術もここに含まれます。

2-2-2. 創薬支援・有用物質生産等

幹細胞を用いて、疾患も出る動物や細胞そのもの、その作成方法まで特許の対象になります。また、幹細胞を使ってタンパク質医薬品などを作製した場合、その医薬品そのものと作成手法が特許の対象になります。

これらの確立過程で疾患メカニズムを解析した場合、医薬品による生理反応、代謝の反応、毒性などを調べる必要性が出てきますが、これらの解析に用いた解析技術も特許の可能性があります。

3. 幹細胞関連特許の多い国

ここに掲載するデータは、特許庁が平成30年2月に示した『平成29年度特許出願技術動向調査報告書(概要)』の中で、ヒト幹細胞技術関連技術のものです。

2005年から2017年の間の特許出願件数を見てみると、アメリカが圧倒的に多くの特許を出願しています。1位アメリカが8,613件、2位が欧州で3,840件です。日本は3位で、3,251件です。続いて中国の2,478件、韓国の2,149件、その他の国が1,562件です。

これらの特許がどの国に出願されたのか、つまり、日本の研究機関が日本に出願した割合、アメリカに出願した割合を調べると、以下のようになります。

3-1. アメリカから出願された特許

出願先:アメリカ52.7%、欧州19.6%、日本13.1%、中国9.2%、韓国5.4%

3-2. 欧州から出願された特許

出願先:欧州42.0%、アメリカ28.3%、日本13.7%、中国10.4%、韓国5.5%

3-3. 日本から出願された特許

出願先:日本50.4%、アメリカ20.1%、欧州15.8%、中国7.7%、韓国5.9%

3-4. 中国から出願された特許

出願先:中国92.6%、アメリカ3.8%、欧州3.8%、日本1.2%、韓国0.3%

3-5. 韓国から出願された特許

出願先:韓国69.8%、アメリカ13.6%、欧州6.0%、中国5.7%、日本4.9%

特徴的な傾向は、中国、韓国の特許は、自国に出願される割合が他の3つの地域(アメリカ、欧州、日本)と比べて多い事です。この理由は明らかになっていませんが、将来重要な産業となり得る再生医療において、中国と韓国はイニシアティブをとるために特許の審査を早くして優勢に立とうとしているのではないか、と予想できます。

4. 特許出願数の多い幹細胞の種類

幹細胞は、胚性幹細胞(以下、ES細胞)ES細胞、iPS細胞、体性幹細胞と様々な種類があります(体性幹細胞も複数の種類に分類できます)が、どの細胞を使った特許出願が多いのでしょうか?このデータも2005年から2017年の出願データで見てみましょう。

多能性幹細胞、つまり、iPS細胞とES細胞のデータを見ると、iPS細胞の方が特許出願数が多くなっています。しかし、ES細胞、iPS細胞の区別をしない、つまり多能性幹細胞という大きな括りで出願されたものが最も多くなっています。

体性幹細胞の中では、間葉系幹細胞での出願が圧倒的に多くなっています。造血系幹細胞、神経系幹細胞、骨髄・臍帯血由来、その他由来細胞も出願されていますが、2017年のデータでは、間葉系が358件に対して、その他の幹細胞110件、造血系が77件、神経系が54件です

間葉系幹細胞は最近その有用性から注目されており、研究も盛んに行われています。その傾向が反映されたデータと言えます。

5. まとめ

幹細胞関連特許の出願件数は、そのまま国際競争の激しさを示していると言えます。iPS細胞でノーベル賞を受賞したのは日本人である山中教授です。だからといって、幹細胞技術の開発競争で日本が有利かといえば、一概にそうとも言えません。

こういった開発競争では、研究・開発における予算や設備投資がものを言い、それが特許出願件数にも表れています。アメリカの特許出願件数は、大学や研究機関の数で比較すると当然の結果とも言えますが、それを当然として受け止めてしまうと日本はアメリカから遅れをとってしまいます。

アメリカの特許だろうと日本の特許だろうと、疾患が治癒できればそれでいいという考え方もありますが、常に最先端の医療を受ける事ができる、という観点で考えると、こういった競争は先頭を走っているほうが患者にも有利です。

今後、幹細胞は更に注目を浴びると想定され、関連の特許出願数も世界的に高い数字で推移していくと想定さてますが、昨今の大学の疲弊、研究人材の不足から、日本の将来を不安視する人は少なくありません。

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