大きく分けて3つ!ES細胞・iPS細胞・体性幹細胞をざっくり解説!

この記事の概要
  • 幹細胞は大きく「ES細胞」「iPS細胞」「体性幹細胞」に分けられる
  • 実用化されているのは体性幹細胞を用いた治療
  • 特にさまざまな組織に分化できる間葉系幹細胞が注目されている

幹細胞とは、

  • 自分と同じ能力をもった細胞に分裂することができる自己複製能
  • さまざまな細胞に変化する分化能

を持った細胞です。この幹細胞の2つの能力により、これまで治療が困難であった疾患の治療や病態解明、新規薬剤の開発が可能となってきており、幹細胞を利用した再生医療に非常に注目が集まっています。

幹細胞は、

  • 受精卵由来のES細胞(胚性幹細胞)
  • 細胞由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)
  • 成体由来の体性幹細胞

の大きく3つに分けられます。今回の記事では、この幹細胞の種類について詳しく解説します!

目次

1. ES細胞(胚性幹細胞)

卵子と精子が受精後、細胞分裂が起こり胚盤胞の段階で発生した胚から分離される幹細胞です。ES細胞はすべての細胞、組織へ分化することができる多能性幹細胞とされています。

しかし、ES細胞は他人へ移植をすると拒絶反応が起きてしまうことや、受精卵の中の胚から作るため、受精卵を破壊しなければならないという倫理的な問題があります。

受精卵
受精直後から約2週間後の受精卵は全能性幹細胞と呼ばれ、すべての細胞になることができる能力を持っています。1個の細胞だけで個体を作り出せる全能性幹細胞は受精卵だけで、この能力によって、人間は形成されています。

1-1. ntES細胞(核移植ES細胞)

ntES細胞は、受精前の卵子から核を取り出し、皮膚などの体細胞の核を移植してクローン胚を作り、そのクローン胚の内側の細胞から培養した細胞のことです。ntES細胞は、ES細胞と比較すると自身の体細胞の核を利用したクローン胚から作るので、移植による拒絶反応はないと考えられます。しかし、卵子の提供を受けないといけないという問題があります。

2. iPS細胞(人工多能性幹細胞)

iPS細胞は人工的に多能性を誘導された幹細胞です。身体の中にある細胞に、リプログラミング因子という因子群を導入し、人工的に細胞を未分化の状態に戻し多能性を誘導します。これは、2006年に京都大学の山中教授が世界で初めてヒトiPS細胞の作製に成功し、iPS細胞と名付けられました。

リプログラミング因子とは、山中因子と呼ばれる4つの遺伝子のことで、あらゆる体細胞型の分子ネットワークを抑制し、新たに多能性幹細胞型の分子ネットワークを再構築することができる因子のことです。この因子によって、未分化の状態を維持しながら培養することが可能となっています。

iPS細胞は、ES細胞のように受精卵の中の胚を利用するなどの倫理的な問題はなく、自信の身体の細胞から作り出すことで移植の拒絶反応もないとされており、今後の再生医療の発展のために非常に注目され、研究が進められています。2014年には、世界で初めて実際の患者さんへ臨床研究として、網膜色素上皮細胞の移植手術が行われました。今後も臨床への実用化の期待が高まっています。

iPS細胞は、ES細胞の様々なリスクを回避した夢のような細胞のようではありますが、意図しない細胞に分化するリスクや、がん化するリスクが高いため、これらのリスクを回避するための研究も行われています。

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疾患を抱えている患者さんの組織からつくるiPS細胞は特に「疾患特異的iPS細胞」と呼んでいます。

この疾患特異的iPS細胞は、患者さんの遺伝情報を保有しており、病態を培養皿の中で再現することができるため、難病や希少疾患などのこれまで治療法や病態が未解明であった疾患に対して非常に有用とされています。さらに、疾患特異的iPS細胞の老化を促進させることで、病気の兆しを観察する研究もなされており、将来かかりそうな病気を予測して先制して治療を行うことなど、iPS細胞技術は様々に応用されています。

iPS細胞については、以下の記事でより詳しく解説しています。

3. 体性幹細胞

体性幹細胞は、身体の組織に存在しており、それぞれ役割を持っています。成体幹細胞とも呼ばれます。

存在する各組織で役割を持ち働く幹細胞は「組織幹細胞」と呼ばれ、発生や細胞死、損傷組織の再生の際に、新しい細胞を供給する役割があります。例えば、体外から取り入れた化合物を解毒する肝臓では肝細胞が損傷を受けると細胞数が一時的に激減しますが、3日程度で修復されます。この時、肝幹細胞(肝臓の幹細胞)が活躍しているわけです。

このように、私たち人間の生命活動維持のために体性幹細胞が存在しています。

組織幹細胞は、ES細胞やiPS細胞の多能性幹細胞と比較すると、分化する能力が限定的です。しかし、自分の身体の中にもともとある細胞であるため、治療に応用しやすいというメリットがあります。

体性幹細胞は、現在発見されているだけでも、様々な種類があるため主なものを以下の表にまとめました。

間葉系幹細胞 軟骨細胞、腱細胞、骨芽細胞、筋肉細胞、心筋細胞、肝細胞
脂肪幹細胞 グリア細胞、神経細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞など
造血幹細胞 赤血球、白血球、血小板
神経幹細胞 グリア細胞、神経細胞
血管内皮幹細胞 血管内皮細胞
肝幹細胞 肝細胞
上皮幹細胞 皮膚、粘膜上皮

これら以外にも、腸管幹細胞や精巣幹細胞など様々な体性幹細胞が存在しています。

 

3-1. さまざまな細胞に分化できる間葉系幹細胞

これまで、体性幹細胞を用いた治療法の中では、血液腫瘍性疾患に対する造血幹細胞移植が安全性と有用性が確立されていました。

体性幹細胞のうち、造血幹細胞であれば血液の細胞、神経幹細胞であれば神経の細胞というように、役割が決まっていますが、間葉系幹細胞は、軟骨や筋肉、神経などさまざまな細胞に分化することができることが明らかになってきました。

これまで骨髄に存在する骨髄由来間葉系幹細胞の存在が知られてきましたが、この骨髄由来間葉系幹細胞と似た性質を持つ幹細胞が皮下脂肪の中に存在することが分かってきています。これは脂肪由来間葉系幹細胞と呼ばれ、体性幹細胞の中でも、採取が比較的簡単で組織の量も大量に採取できることから、急速に研究が進んでいます。

ただし治療に用いた際の効果としては、骨髄由来の間葉系幹細胞の方が効果が高いという研究結果もあり、一概にどちらが良いとは言えません。

いずれにせよ、各組織の枠を超えて分化できる間葉系幹細胞は、例えば脳や心臓など治療が困難だった組織に対する治療にも用いることができるようなると期待されています。

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間葉系幹細胞
説明発生途中で、中胚葉から分化する脂肪や骨にすることができ、中胚葉系の骨芽細胞、脂肪細胞などだけではなく、内胚葉系の内臓組織や外胚葉系の神経組織にも分化する能力を持っています。
さらに、近年免疫抑制作用をもつことや、腫瘍に集積する性質があることも報告され、間葉系幹細胞を移植後の拒絶防止に利用する研究や、がんの遺伝子治療薬を標的へ向かわせるための役割として利用する研究もおこなわれています。
間葉系幹細胞については、以下の記事でより詳しく解説しています。

4. まとめ

再生医療については、18世紀から長く研究されている分野で、医療技術の発展と共に近年急速に発展してきました。幹細胞には複数の種類があり、それぞれに大きな利点と問題点があります。この利点を伸ばす研究、問題点を改善する研究がすすめられ、日々新たな発見がなされています。

日本ではiPS細胞の研究開発が注目されていますが、まだ実用化には至っていません。それに対し、海外では体性幹細胞を用いた治療が実用化され、すでに何千という事例のある治療法も存在します。

国により法令が違うため、日本では行うことができない治療が、海外では一般的に行われる治療だったりもします。再生医療は発展途中の分野ですので、ぜひ国内だけでなく海外の状況も合わせて把握されることをお勧めします。

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