- 幹細胞は、法律上は「医薬品」
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」に従って扱われる
- 「患者の安全の確保」と「新しい技術を守る」ことが目的
幹細胞は、法律上は「医薬品」として扱われます。日本には医療関係の法律が多数・多岐にわたり存在し、幹細胞を使った治療などもさまざまな法律により規制されていることも事実です。
今回の記事では、幹細胞に関する法律について解説します。
1. 医療と法律
医療関係の法律は多数あり、大きく分けると、
- 医療の提供に関連する法律
- 医薬品・食品に関する法律
- 医療保険と年金保険に関する法律
- 労働に関する法律
- 高齢者に関する法律
- 社会福祉及び障害者に関連する法律
- 疾病予防と健康増進に関する法律
- 母子に関連する法律
- その他医療に関連する法律
に分類されます。
労働、社会福祉、保険なども医療関連の法律として扱われます。また、個人情報保護法は、9のその他医療に関連する法律に分類されます。病歴、薬歴はその人にとっては重要な情報ですし、その情報が外に漏れる事によって意図しないことが起こる可能性は十分あります。
幹細胞を使った再生医療も、当然この中に存在する法律によってコントロールされています。幹細胞は治療のためのツールですので、2の医薬品・食品に関する法律によってコントロールされています。
2. 幹細胞についての法律
幹細胞は医薬品とされているので、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」に従って扱われます。
名称が「薬機法」となったのは2014年で、それまでは「薬事法」と言われていました。現在でも医療関係者の中には「薬事法」と呼ぶ人もいますので、「薬事法」と聞いたら「薬機法」だと認識してください。
「薬事法等の一部を改正する法律」によって、薬事法の名称が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に変更されました。これには大きな理由が2つあります。
- 1)医療機器のIT化
- 医療機器のIT化によって疾病診断用プログラム、疾病治療用プログラム、疾病予防プログラムの果たす役割が大きくなった事です。さらにプログラムを電気通信回線(例:インターネット)を通じて提供するケースも増えたため、これに関しての定義と基準が必要になりました。そのため、これらに関してはかなり細かい点まで基準が定められています。
- 2)再生医療の実用化
- 最先端の技術はビジネスとして成り立つ事が多いので、無秩序な参入を防がなくてはなりません。そのために 「再生医療等製品」を新たに定義するとともに、その特性を踏まえた安全対策等の規制を設ける必要があります。
- また、再生医療に応用可能な研究の進歩は、進行スピードが非常に早く、新しい知見が次々と発表されます。その度に法改正を行い、患者を待たせるという事は「国民の利益」になりません。 そのため、「均質でない再生医療等製品について、有効性が推定され、安全性が認められれば、特別に早期に、 条件及び期限を付して製造販売承認を与えることを可能とする」ということを定め、最先端の医療技術を提供できる体制を整える必要がありました。
この法律の第一条には、この法律の目的が記されており、「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の品質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに、医療上特にその必要性が高い医療品及び医療機器の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ること」とされています。
そして法律の中に、幹細胞を含む再生医療に用いる製品、再生医療等製品は、「身体の構造または機能の再建、修復または形成」、「疾患の治療、または予防」、これらに使用される事が目的とされているもののうち、「ヒト、または動物の細胞に培養その他の加工を施したもの」、そして「疾病の治療に使用される事が目的とされているもののうち、ヒト、または動物の細胞に導入され、これらの体内で発現する遺伝子を含有させたもの」として定義されています。
また、再生医療についてはさらに「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が定められています。この法律の中で、再生医療等とは、「再生医療技術を用いて行われる医療」を指し、再生医療技術とは「ヒトの身体の構造、または機能の再建、修復まらは形成、そして疾病の予防と治療に用いられる事が目的とされる医療技術、この技術のうち、細胞加工物を用いるもの」と定義されています。そのうち、安全性の確保等に関する措置その他のこの法律で定める措置を講ずる事が必要なものとして政令で定めるもの、これが再生医療等であるとされています。
法律特有の書き方で混乱するかもしれません。勝手な解釈ができる書き方だと、この法律に関しては重大な医療事故につながりかねませんので、こと細かにかかれています。しかし、実際の中身はそれほどややこしくありませんね。
3. 幹細胞の何について決めてあるのか?
これらの法律は、
- GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造基準)
- QMS(Quality Management System:医療聞き及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)
- GCTP(Good Gene, Cellular and Tissue-based Products Manufacturing Practice:再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)
- GQP(Good Quality Practice:医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準に関する省令)
- GVP(Good Vigilance Practice:医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令)
から成り立っており、これに関する省令が出ています。
幹細胞を製造するときに守らなければならない事、注意しなければならない事がこの5つに含まれています。特に重要なのは、GMP、QMS、GCTPの3つです。
- GMPは、ヒューマンエラーを最小限にする事、汚染などの品質低下を最低限にする事、品質の保証について、信頼性の高いシステムを構築する事、いったん確立した製品は、同じ品質の製品を作らなければならない、という内容
- QMSは、品質の管理システムについての考え方
- GCTPは、製造の管理、品質、そして品質管理の基準について決めたもの
です。
製造施設、製造設備についても細かく基準が設定されており、この基準をクリアした施設、設備でなければ幹細胞は製造できません。
つまり、薬機法、再生医療関連法では大きく分類すると以下の事柄が決められています。
- 幹細胞を作る時に必要な設備、施設とその基準(無菌操作などに対応しているか)
- 作られた製品(幹細胞)の品質基準
- 品質基準を守るためにやらなければならないこと
- 品質管理はどのようにされるべきか
これらを遵守、またはクリアしたものでなければ、医薬品として製造してはならない、また医薬品として用いてはならないわけです。
GMP、QMS、GCTPの3つについては、こちらの記事でより詳しく解説しています。
4. まとめ
法律で明確に基準を定めていない場合もしくは曖昧な場合、例えば再生医療を行う病院に「当医院が安全と認めた研究施設で作った製品を使用しています」と書いてあっても、「当医院が安全と認めた」の基準が不明確ですよね?
その病院の先生の判断に委ねられると、病院により基準が大きく異なることになりますし、最悪の場合、重大な医療事故が発生することも容易に想像できます。
そうならないように、製造過程から品質管理までの基準を決め「安全かどうか」は「法律に則った基準」で判断できるように国が法律を定めています。
製造施設、設備については国からの調査が入り、認可するかどうかを決めます。もし認可されなければその施設で幹細胞の製造はできません。もし製造した場合も、国の基準をクリアしていない施設の医薬品を使った場合は医療機関も罪に問われますので、使われる事はまずありません。国が安全基準を決め、それを保証する事によって、製品の品質を一定に保ち、治療におけるリスクを少しでも減らしているわけです。
医薬品について定めた薬機法は、「規制」が主な目的ではなく、「患者の安全の確保」と「新しい技術を守る(効果がある技術を正しく使う事によって、技術進歩を止める事なく用いる)」ことが主な目的です。
幹細胞を使った再生医療は、人類が手に入れた革命的な治療方法です。この治療方法によって救われる人はかなりの数になるでしょうし、この治療法に期待している人も多いでしょう。それらの人々のために、最小のリスクで最大の技術進歩を目指すため、なおかつ患者の安全性を確保することが、薬機法の大きな役割です。