この記事の概要
  • 細胞の継代(けいだい)とは、「お引越し」のこと
  • 「植え継ぎ」とも呼ばれる
  • 培養して増殖させる過程での作業

幹細胞は細胞分裂を繰り返し、さまざまな細胞へと分化する能力を持っています。

これらの能力については多くの研究がなされてきました。その結果、その細胞を増やしたり、人工的に作ったりする技術が開発され、今では再生医療として実際に治療に用いられている例もあります。

幹細胞のことを調べると、必ずと言っていいほど「培養」という言葉が出てきます。この培養には「継代(けいだい)」という作業があります。なかなか聞きなれない言葉ですよね。「植え継ぎ」とも言われますが、こちらだとなんとなく想像できる方がいるかもしれません。

簡単に言えば、細胞を培養する過程で行われる「細胞のお引っ越し」のことです。

今回の記事では「幹細胞の継代」について徹底解説します!

1. 培養とは?

培養」とは、微生物や細胞などを人工的な環境で育てて増やすことです。

細胞を培養する(育てて増やす)ためには、当たり前ですが基となる細胞が必要です。まずは細胞を採取します。(採取の方法はヒトのどこから採取するかにより方法が異なりますが、その方法はこの記事では割愛します。)

次に、採取した細胞を、採取した状態のまま試験管やシャーレの中で人工的に発育させ、その数を増やしていきます。これが培養です。

1-1. 初代培養(primary cell culture)

初代培養とは、採取した細胞を最初に播種(はしゅ)して培養することを指します。「播種(はしゅ)」とは種まきのこと。つまり、種(採取した細胞)を畑(試験管やシャーレ)で育てる(培養する)ことですね。

1-2. 継代培養(subculture)

植物の「種」を例に出しましたが、細胞と種が大きく異なるのは、細胞は分裂して増殖する点です。増えてきたら、その細胞の一部を新しい培地(ばいち 植物で言えば畑のこと)に移し替えて、継続して増殖もしくは維持させます。

ちなみに、この細胞が性質を保ったまま安定的に培養できる状態になったものを細胞株と呼んでいます。

2. 細胞の継代

2-1. 「継代」という言葉の意味

さきほど「継代はお引越し」と書きました。

1つの試験管やシャーレで増殖させることには限界があります。細胞は同じ環境で増え続けると、その密度が高くなり、細胞でいっぱいになると細胞は増えるのをやめてしまいます。そして、その細胞は老化してしまったり、死んでしまったりする可能性が高くなってしまうのです。

この限界を迎える前に、一部の細胞を新しい培地にお引越しさせることを「継代」と呼ぶのです。

2-2. 「継代」の時期

培養をはじめると、細胞はその環境に少しづつ適応していきます。その間、細胞は増殖するための準備を整えています。この時期を誘導期といいます。

この時期は比較的細胞の成長が遅い時期になります。次に対数増殖期(たいすうぞうしょくき)を迎えると、細胞は培養地の栄養を消費しながらどんどん増殖していきます。

増殖した細胞により培養地が覆われてしまうと、細胞の活動は停止または減退し、それ以上増殖することができなくなってしまいます。この時期を定常期と言います。

次に死滅期を迎えます。定常期を過ぎると細胞は死んでしまうのです。

細胞が死んでしまうと、当然元の状態に戻すことはできませんので、余力があるうちに新しい培地に細胞の一部を移し、さらに増殖できるように細胞をお引越しさせるのです。

3. 2つの細胞と「継代」の方法

「継代」は、細胞の種類により培養の方法や条件が異なってきます。細胞の種類は大きく

  1. 接着性細胞
  2. 浮遊性細胞

の二つに分けられます。

培養には、日程や条件・方法などが厳密に決められているのですが、その方法や条件が守られなかった場合は、異常な細胞ができたり、細胞が死んでしまったりする場合があります。そのため、十分な観察や環境の整備などが行われ、厳重な管理のもと実施されます。

3-1. 「接着性細胞」と「浮遊性細胞」

培養には培養専用のシャーレや試験管などが使用されます。

細胞を皿に乗せると、細胞の表面はその皿にくっつき増えていきます。これを「接着」と言います。細胞は球状形をしていますが、接着すると敷石のように平らな状態になります。平らな形に変形することで、安定した状態で増殖を進めていきます。

しかし、すべての細胞が接着するわけではありません。

  • 接着できる細胞 : 接着性細胞
  • 接着できずに浮遊する細胞 : 浮遊性細胞

と呼ばれます。

3-2. 接着性細胞の継代

接着性の細胞は、

  • 試験管やシャーレなどの容器の表面が細胞で覆われてしまう
  • 消費する栄養分がなくなってしまう

まで成長します。こうなる前に「継代」を行います。継代は大まかには以下のような手順で行います。

  1. 顕微鏡で細胞にバクテリアやカビなどが混入していないか、細胞の増殖の程度などを確認
  2. 問題なければ、培地を取り出す
  3. 細胞を洗浄用の液を使って洗浄
  4. 細胞を剥離させるため、トリプシンを添付
  5. 5分前後、温める
  6. 顕微鏡で細胞を観察(細胞が浮き上がってきていれば剥離している)
  7. 新しい培地を加えて懸濁する
  8. 温めた培地が入った培養容器にまく
  9. 必要に応じ、この手順を繰り返す。

3-3. 浮遊性細胞の継代

浮遊性の細胞の継代は、比較的簡単にできます。培養した容器の表面から細胞をはがす手間がないので、細胞を傷つけるリスクも少ないのが特徴です。

細胞の入った培養液の一部を培養液ごと新しい容器に移動させ、その培養液を希釈します。希釈した培養液の中で細胞を新たに増殖させます。この手順を2~3日おきに繰り返します。

3. 幹細胞の継代

現在、実際に再生医療として治療に用いられているのは、幹細胞のうち体性幹細胞だけです。

体性幹細胞には、

  • 皮膚幹細胞
  • 角膜幹細胞
  • 骨髄間葉系幹細胞
  • 脂肪間葉系幹細胞

などがあります。これらはヒトの組織の中に存在しており、自分自身の細胞を用いれば拒絶反応のリスクが低く、生着も良いことがわかっています。

特に間葉系幹細胞はさまざまな細胞に分化できる能力があります。研究が進められていると同時に、実際の再生医療でも用いられています。

ES細胞やiPS細胞は、まだ実用化には至っていませんが、実用化に向けての研究が進められています。幹細胞を実際の医療や創薬の研究に利用するためには、安定した量の幹細胞が必要となります。

細胞の培養には、人手と時間、そしてコストがかかります。さらに、設備が整った施設も必要となります。このような課題を解決するために、培養に関するすべての作業を自動でできるiPS細胞自動培養装置も開発されました。

この装置の開発は画期的で、培養地の交換はもちろん継代も自動的に行ってくれるのです。これまでひとの目で顕微鏡をのぞき、継代をいつ行うべきかを見計らっていましたが、機械が顕微鏡の映像を分析し、継代のタイミングを決めてくれるのです。

これまで人の手で行っていた細胞を洗ったり、はがしたりする細やかな作業も機械でできるようになりました。これにより、多くの細胞を自動的に作ることが可能となり、今後の実用化への期待はさらに高まっています。

4. まとめ

細胞を増やす過程で、「継代」という作業が必要となります。

継代は細胞を培養していく中で、非常に重要な過程です。細胞を培養し増殖させることで、それらの細胞は治療に用いられたり、これからの医療の研究のために使われています。

ひと昔前は治療が困難だった病気を治すことができる時代は、実はもう目の前まで来ているのです。

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