この記事の概要
  • ES細胞やiPS細胞を培養するための施設は、決められた基準をクリアする必要がある
  • ES細胞やiPS細胞の培養にはフィーダー細胞が必要
  • ES細胞、iPS細胞の培養方法

ES細胞やiPS細胞は、実用化を目指して研究が進んでいますが、どちらも細胞がたった1つあるだけでは何もできません。培養して増やすことが必要です。

培養とは「細胞を育てる」「細胞を増やす」「維持する」ことであり、一般的には培養するための容器に、細胞の生存に必要な物質を含んだ培養液、そして培養する細胞が入れられます。

今回の記事では、この培養の方法や設備などについて、特にES細胞、iPS細胞の培養に焦点を当てて撤退解説します!

1. ES細胞、iPS細胞培養に必要な施設

ES細胞、iPS細胞の培養は、決められた基準をクリアした施設が必要です。

日本では、

細胞調整施設(CPC:Cell Processing Center)

と呼ばれています。CPCは、

細胞処理施設(CPF:Cell Processing Facility) と 研究室

から成立するとされています。

海外では、CPCという呼称は一般的に使われておらず、CPFと呼ばれる事が一般的です。

日本語で比較すると、「細胞調整施設」の「調整」と、「細胞処理施設」の「処理」の部分が違いますね。英語で比較すると「Center」と「Facility」の部分が違いますが、どちらも「施設」というような意味を持ちますので、あまり使い分けは重要ではありません。

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ES細胞、iPS細胞培養を使った研究を行うときに、申請書などが必要な場合はこれらを区別して書くことを求められるケースがあります。

いずれにせよこの「施設」は、汚染防止の機能を持っている事が求められます。この汚染防止機能は、次の3つです。

1-1. 外部からの雑菌汚染防止

ES細胞、iPS細胞を培養しているときに、外部からの雑菌が入ってしまうと、研究の正確性が損なわれたり、細胞が分化しない、死んでしまうといった現象が発生する場合があります。それを防ぐため、外からの細菌、ウイルスなどをシャットアウトできる設備が必要です。

2-2. サンプル間のクロスコンタミネーション(交叉汚染(こうさおせん))防止

複数のサンプルを扱うときに、サンプルの取り違えを防止するために必要な措置が執られている事が必要です。また、検体を収める容器には、検体名、ロット番号、採取年月日、または処理年月日の記入が必要です。

1-3. 外へ出さない汚染拡大防止

ショウジョウバエ、ラット、マウスなどの遺伝子を改変し、遺伝子改変動物としたときには、それらが仮に実験施設から逃げるようなことがあれば、自然界に人工的に遺伝子改変をした動物が存在する事になり、同種の野生動物と生殖を行う事によって本来自然界に存在しない遺伝子型の動物が出現する事になります。

ES細胞、iPS細胞も同様に、外へ出さないための措置が必要になります。

これには、

  • 外に持ち出す際のルールの策定
  • 外に漏れてしまう事を防止するための設備・施設

が求められます。

 

このような機能を持った施設、建物内でES細胞、iPS細胞は培養されます。施設内はさらに細胞培養室など、用途によって部屋が分けられ、その部屋に持ち込めるもの、持ち込む事ができないものが決まっています。つまり、各部屋、施設全体で、出ていくものと入るものを完全にコントロールされた環境下でES細胞とiPS細胞は培養されています。

CPC、CPFは適正な環境にコントロールされているかをチェックするために、環境モニタリングが必要であり、常に監視下にあります。

2. ES細胞、iPS細胞の培養に必要なもの

私たちの身体を構成する細胞は、生体の恒常性維持機構によって酸素、栄養などを供給されて生きています。しかし、培養細胞は血管などをもたないため、人工的に栄養などを供給する必要があります。

細胞の必須成分が含まれているのが培養液であるのですが、動物の細胞は様々な種類があり、の細胞に適した培養液もそれぞれ異なります。また、ES細胞、iPS細胞はある種の細胞に分化させる事を目的として培養される事がほとんどなので、目的に適合した培養液を準備しなければなりません。

ES細胞、iPS細胞の分化、増殖を促す培養条件を整えるためのフィーダー細胞を、ES細胞、iPS細胞と同じ培養容器内で培養される事があります。

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フィーダー細胞は、ガンマ線などで処理する事によって増殖しないように処理されています。

培養容器内でフィーダー細胞の増殖とES細胞、iPS細胞の増殖が競合してしまったり、フィーダー細胞の増殖によってES細胞、iPS細胞の生存が脅かされたりする事を防ぐためです。

例えばES細胞では、マウスの線維芽細胞がフィーダー細胞として使われています。

また、培養液には細胞の成長に必要な各種因子、ホルモンなどが加えられていません。そのため、細胞培養の際には、ウシ胎児血清(FBS:Fetal Bovine Serum)を加える事によって、接着因子、成長因子、ホルモンなどを細胞に供給します。また、ウシ血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Albumin)が使われる事もあります。

FBSは1匹の胎児から採れた血清を1つのロットとして扱います。1匹単位ですので、ロットが変わるという事は別の胎児から取れた血清となります。この血清成分は個体差などによってロットごとに微妙に含有成分が異なっていますので、実験結果のバラツキを防ぐために、FBSを購入するときには1ロット、1匹単位で購入します。

別ロットで実験した場合、異なる結果が出る事があります。それを防ぐために、最近では全てを人工合成した、アニマルコンポーネントフリー(動物由来の物質を一切含んでいないという意味)の培養液を使う場合もあります。

3. ES細胞、iPS細胞の培養方法

ES細胞とiPS細胞の大きな違いは、ES細胞は購入しなければなりませんが、iPS細胞は自分で作れるというところです。ES細胞は受精卵が細胞分裂を開始し、胚盤胞になったときの内部細胞塊が必要です。これを採取するのは倫理的な問題がありますので、一般の研究室では不可能です。

3-1. ES細胞の培養

ES細胞を培養するためには、まずゼラチンを使った培地を準備します。そこへ分化、増殖誘導のためのフィーダー細胞をまき、その細胞を安定させます。そしてその上に購入したES細胞をまいて培養を行います。

3-2. iPS細胞の培養

iPS細胞は、自分で作成する事ができます。iPS細胞にするためには、細胞を初期化するための遺伝子を細胞内に入れてやる必要があります。

採取した血球細胞に、初期化のための遺伝子を組み込んだプラスミドを導入します。このプラスミドから初期化に必要な遺伝子が発現して細胞が初期化され、iPS細胞になります。

この方法の場合、細胞がもともと持っている染色体に導入遺伝子が組み込まれません。

 

ウイルスベクターを使って、元々持っている遺伝子配列を改変してiPS細胞を作る方法が先に開発されました。これは導入遺伝子を染色体に組み込む方法ですが、実験の度に厳重に管理された実験室で行う必要がありました。

しかしプラスミド導入によるiPS細胞作成は、染色体に改変を加えないため、管理度合いがやや低い実験室で定常的に行う事ができます。この方法の開発がiPS細胞培養を普及するために大きな役割を果たしました。

プラスミドが導入され、組み換えられた細胞はiPS細胞となります。あとは培養液を加えて、培養します。

ES細胞、iPS細胞はそれぞれ性質が異なりますので、培養中のメンテナンスの方法が異なります。また、細胞からの老廃物を取り除き、新しい栄養や必要な因子を供給するために、定期的に培養液を交換しなければなりません。

4. まとめ

マウスを使ってES細胞の樹立に成功したのは1981年、そしてヒトのES細胞の樹立は1998年です。これらの知見は大きな反響を起こしましたが、そのわずか8年後にiPS細胞の樹立が発表されました。

ES細胞は胚から採取が必要で、ヒトES細胞採取のためには受精卵から胚盤胞までの段階の初期胚が必要です。つまり、将来は胎児となり、出産によって新生児となる細胞の発生を停止させなければならず、受精と同時に生命として認識する場合は、生命の停止を伴う研究のため、倫理的に高いハードルがありました。

一方でiPS細胞は通常の分化した細胞から樹立させる事が必要です。しかしES細胞が不必要というわけではなく、ES細胞、iPS細胞双方を使って比較検討しながら研究を進める事が科学的根拠(エビデンス)の確保のために求められています。

この2つの細胞培養方法は、分化、増殖について現在でも新しい培養方法が次々と発表されています。新しい培養方法の研究は将来の再生医療発展のために不可欠であり、世界各国で重点的に研究が行われています。

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