この記事の概要
  • MHCは、体内及び外から侵入するウイルス、細菌などの異物から身体を守るシステム
  • MHCは多遺伝子性を持つ遺伝子であり、自己・他社を判別する

私たちの身体は、対外に存在するウイルスや細菌、あるいは体内で発現するがん細胞など、さまざまなリスクと隣り合わせです。

この記事では、そんな身の危険から身体を守るMHCについて解説していきます。

1. MHCが発見されるまで

MHC(Major ccomplex、主要組織適合遺伝子複合体)は、再生医療において、移植後の拒絶反応を理解する上で非常に重要な分子です。

臓器、器官などをヒトからヒトへ移植したとき、移植された患者の体内に他の人の臓器、器官が入ることになります。ヒトの体は、自分以外のものを「他者」として攻撃するシステムがあります。このシステムは、外から侵入するウイルス、細菌などの異物から身体を守るためのシステムです。

“移植”は、身体守るために他人の臓器、器官を患者の身体に移す、という治療方法の1つです。身体が防御システムを活性化し、移植したものを攻撃してしまっては、移植治療が無駄になってしまいます。

このメカニズムの研究の歴史は古く、1930年代に本格的に開始され、1940年代にはマウスで移植片拒絶の原因物質として、H2抗原が特定されました。1950年代には、八卦球の凝集減少から、HLA(Human leukocyte antigen、ヒト白血球型抗原)が発見されました。

その後、マウスで発見されたH2が主要組織適合性抗原複合体(MHC)であることが明らかにされ、発見者、免疫システムの解明に貢献した、Dr. George D. Snell、Dr. Jean B. C.Dauset、Dr. Barui Benacerrafの3人は、1980年のノーベル医学生理学賞を受賞しています。

2. MHCとは?そしてMHCの機能は?

MHCは当初、遺伝子として特定されました。その後解析が進み、現在ではMHCと呼ぶ場合は、ほとんどのケースで糖タンパク質であるMHCを指します。

糖タンパク質としてのMHCについて述べたい場合は、「MHC」、「MHC分子」、「MHCタンパク質」と呼び、遺伝子であるMHCについて述べるときには、「MHC遺伝子」または「MHC領域」と呼びます。

糖タンパク質としてのMHCは細胞膜の表面上に存在し、ほとんどの脊椎動物が保有しています。MHCは、ヒトの場合はHLA(ヒト白血球型抗原)を指します。つまり、ヒトにおいてはMHCとHLAは同じものです。マウスの場合はH2抗原がMHCとなります。

MHCは免疫に関わる分子ですが、免疫細胞だけでなく、ほぼ全ての核をもつ細胞に存在します。MHCは3つのタイプに分けられ、MHCクラスIは核のある細胞に存在しています。MHCクラスIIは、B細胞、樹状細胞、マクロファージといった免疫に関与する細胞群に存在しています。そして、獲得免疫ではなく自然免疫に関与するMHCがクラスIIIです。

MHCは、抗原提示を行うことで、最近、ウイルスの排除、がん細胞の拒絶、移植された臓器の拒絶反応に関与します。しかし、「抗原提示」とはどういう事でしょうか?

MHC分子は糖タンパク質として細胞膜の表面に存在します。細胞膜の内側には、様々なタンパク質が存在し、細胞の機能を動かしています。MHCはこの細胞膜内のタンパク質の断片、ペプチドを細胞の表面に提示します。

もし、細胞膜内にウイルス、細菌などのタンパク質が存在していた場合、MHCはこの異物のタンパク質を細胞表面に提示します。

異物が提示されると、T細胞がその提示ペプチドを認識し、MHCに結合します。これを目標にして、ナイーブT細胞が異物が感染している細胞に対して攻撃を始めます。サイトカインの産生による攻撃、細胞傷害作用などで感染された、つまり非自己のペプチドを提示している細胞を排除します。

もう少しMHCを詳しく見てみましょう。MHCクラスI分子はほとんど全ての核をもつ細胞に発現しますが、発現のレベル、つまり発現量には大きな差があります。

甲状腺、副甲状腺、下垂体に存在する内分泌細胞、ランゲルハンス島の細胞、胃粘膜、心筋、骨格筋、肝臓の細胞には発現が弱くなっています。

また、中枢神経と末梢神経の細胞には発現が見られません。そして、生殖細胞である精子の細胞には、精巣にある間はMHCクラスI分子を発現していますが、精巣上体(つまり睾丸)に移動すると発現が見られなくなります。

機能面を詳しく見ていきます。免疫の中心的な役割を果たすT細胞には、主にキラーT細胞とヘルパーT細胞があります。MHCクラスIが提示した抗原に反応するのはキラーT細胞です。

キラーT細胞のうち、CD8陽性T細胞は、MHCクラスI分子と、提示された異物の抗体のみを認識し、抗原を発現している細胞を傷害して細胞排除をしようとします。

つまりMHCクラスI分子は、敵味方の識別コードのようなもの、つまり、自己と他者を認識するためのシグナルです。

MHCクラスII分子は、マクロファージ、樹状細胞、活性化T細胞、B細胞などの限られた細胞に発現しています。エンドサイトーシスによって抗原提示細胞に取り込まれた外来異物由来の抗原は。細胞内でペプチドレベルまで分解され、MHCクラスII分子によって細胞表面に提示されます。

その後は、MHCクラスIの時のCD8陽性タイプではなく、CD4陽性T細胞によって攻撃されます。このCD4陽性T細胞は、ヘルパーT細胞と呼ばれています。

まとめると、MHCクラスI分子は細胞内の内因性抗原を提示、MHCクラスII分子は、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれ、処理を受けた外来生の抗原を提示します。

つまり、細胞内で増殖するウイルス、または自分の細胞ではあるががん化の場合は、MHCクラスIを使って対応し、一方で細菌などの細胞外で増殖するものに対しては、そして抗原提示細胞に感染する病原体(代表的なものとして結核菌が挙げられます)に対しては、MHCクラスIIを使って対応します。

しかしこれらの経路は、絶対にこうというわけではなく、かなり柔軟性を持つシステムであり、クロスプライミング、またはクロスプレゼンテーションと呼ばれるシステムで、外から感染するものもMHCクラスIが処理する場合があります。

この様なメカニズムで我々の身体を守っていますが、がん細胞はMHCクラスIの発現を低下、または欠失させることで抗原を提示できなくさせ、攻撃から身を守ろうとする細胞もあります。

3. MHCでどうやって自己と他者を区別?

ヒトはそれぞれ、父親からMHC遺伝子を1組、母親からMH遺伝子を1組受け取ります。

MHC遺伝子は1つの型だけでなく、数種類の型があり、ヒト個体は同時に何種類かのMHCを発現させています。MHCは多遺伝子性を持つ遺伝子です。むしろ、遺伝子集団と言った方がわかりやすいかもしれません。

この多様性のため、様々な抗原に対応することが可能になっています。個体に予め多様性のある型のMHCを発現しておくことによって、多種類の異物に対応しようとしています。しかし、多様なMHCは能力も多様であり、有能なMHCもあれば、機能的にやや劣るMHCもあります。

「免疫力」という言葉は、様々な商品の宣伝に使われる言葉ですが、研究者はこの「免疫力」という言葉を嫌います。なぜなら、多種多様なメカニズムを備えた免疫システムのどこを「定量」すれば免疫力が判定できるのかが明確ではないからです(“力”という言葉で表されるものは、科学においては「定量」される、または「定量が可能」であるものとする科学者が大多数です)。

とはいえ、科学者は「免疫力」を完全に否定して排除したいわけでなく、「免疫力」を正確に測定、判定できないか、と考えています。「免疫力アップ」と言われる食品を摂取しても、本当に免疫力が上がるかどうかということはそう簡単に判定できませんし、「風邪を引きにくくなった」という主観的な判断基準では、医療に使えません

科学者の何人かは、「このMHCの能力がもしかすると“免疫力”の一部に相当するものかもしれない」と考えています。

つまり、MHCの能力が高ければ、異物排除が素早く行われるため、抵抗性が高いと言えるのではないか、ということです。しかし、一方で、MHCの能力が高いということは、他者からの移植片に対してMHCが正確に他者として認識してしまう可能性も高いということになります。そのため、免疫メカニズムの調節を人為的に、さらに効率よく行うための基礎研究は、現在も盛んに行われています。

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