- 肝臓の修復に肝幹細胞、または肝臓外の幹細胞がどう関わっているのかの詳細なメカニズムは未だに解明されていない
- 肝幹細胞の候補として4つの細胞が挙げられる
- 肝幹細胞の分化、肝実質細胞への分化は、肝臓内の環境が大きく関係しているという考え方が主流になりつつある
肝幹細胞は、肝細胞と胆管上皮細胞への分化能を備えた細胞です。
未だに解明されていないことが多い肝幹細胞が、医療にどのように応用されていくのか解説します。
1. 肝臓を構成する細胞と幹細胞
肝臓は、肝臓の実質細胞(多数を占める、肝臓の機能を担う細胞群)である肝細胞(肝実質細胞)をはじめとして、胆管細胞、類洞内皮細胞、クッパー細胞、星細胞、ピット細胞から構成されています。
肝臓の幹細胞(肝幹細胞)は、これらの細胞のうち、肝実質細胞と胆管細胞に分化する能力を持った細胞です。ヒトの胎児にはもちろんのこと、ヒトの成体にも存在しますが、その数は少数であると考えられています。
肝臓に障害が生じ、細胞の供給が必要なときに肝幹細胞は目的の細胞に分化し、肝臓の修復に関わると考えられていますが、肝臓の細胞には肝幹細胞以外の幹細胞も分化が可能である事が証明されています。
しかし、肝臓の修復に肝幹細胞、または肝臓外の幹細胞がどう関わっているのかの詳細なメカニズムは未だによくわかっていません。
2. 肝幹細胞の候補となる細胞
肝幹細胞は、いまだにこれと特定されていません。幹細胞の性質を示す細胞の報告はいくつかありますが、それら全てが幹細胞なのか、それとも報告の中にある細胞のうち、1つ、または数個が幹細胞なのか、現在でも結論は出ていません。
肝幹細胞の候補としては、以下の細胞が挙げられています。
2-1. オーバル細胞
マウス、ヒトなどの動物種の間で、その機能に違いが多く見られる細胞です。
そのため、マウス、ヒトのどちらか一方で幹細胞らしき性質が見つかっても、残った一方ではその性質が見つからない、といった結果になるため、幹細胞であるという決め手に欠けます。
2-2. 胎児の肝臓に存在する幹細胞様の細胞
マウス、ラット、ヒトの胎児からそれぞれ採取された細胞です。
ヒトの場合、採取された細胞は、肝臓の肝実質細胞と胆管細胞だけでなく、脂肪細胞、軟骨細胞、内皮細胞に分化できる細胞も含まれており、詳細な解析が現在行われています。
2-3. 肝実質細胞・小型肝細胞
これらの細胞はいずれも最終分化型に分化した、肝臓の機能を担う細胞です。しかし肝実質細胞は、幹細胞の1つであるES細胞と同等レベルの増殖能力、自己複製能力を持っていることがわかっています。また、肝実質細胞は最終分化型細胞であるにも関わらず、胆管上皮細胞に分化する能力も持っていることが明らかになっています。
2-4. 肝臓外性肝幹細胞
肝臓外に存在する幹細胞、または幹細胞の性質を示す細胞の中には、肝実質細胞への分化が可能な細胞が存在します。
ヒト脂肪由来間葉系幹細胞、ラット骨髄間葉系幹細胞、ヒト臍帯間質細胞などは、成熟肝実質細胞に分化することができます。
3. 肝実質細胞が肝幹細胞になる?
一般的に、細胞は最終分化すると、その分化した形質は変化しない、他の細胞に分化することはないと考えられてきました。それを人工的に分化前の状態に細胞を戻したのがiPS細胞です。
iPS細胞は人工的に起こさなければならないのですが、肝臓の細胞の場合は、通常の声帯の中で細胞の形質転換が起こる事がわかっています。
肝臓内の胆管に生涯が加わると、肝実質細胞が胆管上皮様の細胞に分化、または変化して傷害を解消しようとすることが、生体内で確認されています。人工的な培養でも、ラットの小型肝細胞、マウスの成熟肝実質細胞で胆管上皮様の形質をもつ細胞への変化が確認されています。
このシステムは、「肝細胞ではなく、最終分化型の細胞が環境に応じて別の細胞に分化する」ということであり、肝臓を構成する細胞全てが肝細胞と同じ機能を持っていると考えることができるシステムです。だからといって肝臓に肝細胞がなくても良い、ということではなく、いくつかのメカニズムが肝細胞の機能を持っていることによって、傷害の種類、周辺環境によって、適したシステムが動いて肝臓を修復しているのではないか、という考えもあります。
4. 肝幹細胞の医療への応用
肝障害を治療するための再生医療では、治療効果を発揮することが必要です。
そのためには、肝臓に移植した細胞が生着して、増殖、そして機能が不全となった部分を「置換する能力」、つまり置き換わって前の細胞と同じ正常な機能ができなければなりません。
これまでの細胞移植で、無処置、かつ傷害のない肝臓に、先の述べた肝細胞候補の1つであるオーバル細胞を移植すると、生着、増殖、分化はなかなかうまくいかないことがわかっています。
ほとんどのケースで、オーバル細胞、肝幹細胞の移植によって肝実質細胞が置換されるには、肝臓自体の傷害がかなり強い程度でないと効率よく起こらないとされています。持続的に肝臓の障害が起こる場合、肝実質細胞への置換はかなり効率よく進むという報告があります。
また、肝幹細胞の中で置換能力が高い、置換が効率よく進む肝幹細胞は、胎児肝幹細胞と考えられています。
これは、高い増殖能力と、アポトーシス頻度が低い(細胞死の頻度が低い)ことに起因していると考えられています。このことから、胎児肝幹細胞は再生医療に有用と考えられますが、胎児からの採取が必要な事を考えると、倫理的な問題、そして患者の数に対して十分量供給できるのかという問題があります。
5. 肝臓という特殊な環境
肝幹細胞がどれなのか、という疑問を抱えている肝臓は、肝臓移植などの例は数多くありますが、いまだに研究の進捗を待たなければならない部分が多く、肝幹細胞については現在研究が盛んに行われています。
肝臓の機能は、「代謝・解毒・排泄」の3つが代表であり、「化学工場」に例えられることもある臓器です。細かい機能をあわせると約500種類の機能を持つと言われています。
構成する細胞は約2500億個と言われ、その機能を人間が持つ技術で再現するには、東京ドームレベルの広さに機械を設置してようやく可能となるという説、また人間の現在持っている技術では肝臓の機能を再現することは不可能であるという説、様々です。
その複雑な機能を持つ肝臓は、臓器内の環境も複雑であり、現在わかっている肝臓内環境はごく一部に過ぎないと言われています。肝幹細胞の存在もいまだに明確な事がわかっているわけではなく、今後の研究を待つ必要があります。
現時点で、肝臓の治療に重要なことは、まず「肝実質細胞の分化状態をどうやって維持するか」、そして「肝幹細胞をどうやって肝実質細胞に分化させるか」です。
肝臓に外的要因がかかると、肝実質細胞が人間の意図に反して胆管上皮様細胞に変化し、肝臓の機能が低下してしまうため、このコントロールが必要である事から、重要なことの1つと考えられています。
分化することは再生医療にとってはやりやすい面もありますが、その分化は人間が制御したものでなければ、必要な分化をせず、不必要な方向へ分化する可能性があります。
そして肝幹細胞の分化、肝実質細胞への分化ですが、これは肝臓内の環境が大きく関係しているという考え方が主流になりつつあります。これに関係する環境を「肝微小環境」と呼び、現時点では肝臓内のクッパー細胞、星細胞の活性化が抑制されている環境が重要であると報告されています。
それぞれの臓器は、機能によって個性のある性質を持ちますが、肝臓の特殊性は他の臓器と比べてはっきりしており、肝臓独特の環境が、時に再生医療のためには有用であったり、ハードルになったりします。いまだに「肝幹細胞はこれ」と示すことができない状態であり、肝細胞そのものの研究も含めて、肝幹細胞と肝臓の再生治療は注目されている分野です。