この記事の概要
  • HLCM051は、脳梗塞・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を対象とした治験が進められている
  • 脳腫瘍の治験は、脳梗塞発症後36時間以内の患者に、HLCM051を静脈注射で1回投与する
  • 海外で行われたHLCM051のARDS患者を対象とした治験において、主要な炎症誘発性サイトカインが大幅に減少したことが明らかになった

体性幹細胞をつかった再生医薬品HLCM051は、新型コロナウイルスの影響も相まって治験が急速にすすめられています。

1. 体性幹細胞再生医薬品(HLCM051)を使った2つの治験

日本で体性幹細胞再生医薬品を使った2つの治験が進んでいます(2020年9月現在)。

この体性幹細胞再生医薬品はMultiStem®(HLCM051)で、米国のバイオテクノロジーベンチャーであるAthersys, Inc.(NASDAQ: ATHX)(以下、アサシス社)が開発したもので、日本では株式会社ヘリオスが開発を担当しています。

治験の対象疾患は一つが脳梗塞、もう一方が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)です。いずれも治験実施中で、結果はまだ明らかになっていません。これらの治験情報の詳細は、米国国立医学図書館が管理するウェブサイトClinicalTrials.gov及び一般財団法人医薬情報センターの管理する臨床試験情報に登録・公開されています。

ヘリオス社は、再生医薬品開発のフロントランナーであり、実用化の可能性のあるパイプラインを複数保有するバイオテクノロジー企業です。2011年に設立、2015年に株式上場(東証マザーズ:4593)し、再生医薬品の実用化を目指して研究開発を進めていています。

2. HLCM051について

アサシス社の創製した幹細胞製品MultiStem®(HLCM051)は、ヒト骨髄由来の細胞製剤です。

同社が特許権を保有し、欧米で既に複数の治験が進められ、一定の安全性が認められています。

HLCM051は、凍結保存により長期保管が可能、免疫抑制剤が不要、静脈注射(点滴)で投与された細胞は体内へ蓄積することなく消失、といった特徴があります。

iPSC(人工多能性幹細胞)再生医薬品は、体内の臓器を新たに作成した細胞と置換するという移植に近い治療法ですが、HLCM051を用いた体性幹細胞再生医薬品は静脈内投与による従来の医療用医薬品と同様の治療法となります。

3. 脳梗塞について

脳卒中は原因により、「脳の血管が詰まるタイプ(脳梗塞)」と「脳の血管が破れるタイプ(脳出血、くも膜下出血)」の大きく2つに分けられますが、70〜75%が脳梗塞だと言われています。

詰まった血管の部位により症状は異なりますが、脳梗塞をいったん発病すると、たとえ命が助かったとしても、多くの場合、麻痺や言語障害などの後遺症が残ってしまいます。

脳の血管の病気は、日本人の死亡原因の第4位であり、介護が必要になった人の18.4%は脳卒中が原因とされています。

4. HLCM051の脳梗塞に対する治験

日本国内の治験は、脳梗塞急性期の患者を対象に第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験(治験名:TREASURE試験)です。

脳梗塞発症後36時間以内の患者に、HLCM051あるいはプラセボを静脈注射で1回投与します。

プラセボとは治験薬と外観上識別できないが、有効成分を含まない(治療効果のない)薬です。効果のない薬(プラセボ)と比較することは、治験薬の有効性を心理的な影響(プラセボ効果と言います)を排除して科学的に明らかにするために必要なことです。

脳梗塞急性期の治療には、一般的に脳の血管に詰まった血の塊を溶かす「血栓溶解療法(t-PA治療)」や、閉塞した脳動脈内の血栓を直接回収する等で血流を再開させる「機械的血栓回収療法」が用いられますが、「血栓溶解療法」の適応は発症後4.5時間以内、「機械的血栓回収療法」でも8時間以内に限定されます。

脳梗塞急性期に対するHLCM051の作用メカニズムについては、HLCM051が、免疫応答の場である脾臓(ひぞう)で炎症免疫細胞の活性化を抑制することにより、炎症や免疫反応を抑えて神経細胞の損傷を抑制、さらに、抗炎症性細胞を増殖させ、栄養因子を放出することで神経保護作用などが考えられていますが、完全に明らかになってるわけではありません。

5. 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

急性呼吸窮迫症候群(きゅうせいこきゅうきゅうはくしょうこうぐん:Acute Respiratory Distress Syndrome(以下ARDS))は、重症肺炎、敗血症や外傷などの様々な疾患が原因となり重度の呼吸不全となる症状の総称です。

重症肺炎、敗血症や外傷などによって、炎症性細胞が活性化され、肺の組織である肺胞や毛細血管に傷害を与えます。その結果、肺に水がたまり、重度の呼吸不全が引き起こされます。

ARDSは一般的に、原因となる疾患や外傷が発生してから24~48時間以内に発生すると言われています。また、発症後の死亡率は全体の30~58%とも言われており、極めて予後が悪い疾患です。

新型コロナウィルス感染(COVID-19)で最重症となった多くの人は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が原因だと報告されています。武漢市からの報告では集中治療室(ICU)に入院した患者の67-85%はARDSと診断され、その死亡率は61.5%でした。

6. HLCM051のARDSに対する治験

日本では、HLCM051の治験は肺炎を原因としたARDS患者を対象とした、有効性及び安全性を検討する第Ⅱ相試験(治験名称:ONE-BRIDGE試験)を実施中で被験者の組入れは順調に進んでいます。

ONE-BRIDGE 試験は、非盲検下で、標準治療を対象として実施しております。

主要評価項目は、投与後 28 日間のうち人工呼吸器を装着しなかった日数、組入症例数は 30 例(HLCM051:20 例、標準治療:10 例)、2019 年4月より被験者組み入れを開始しております。

その後、あらたに同一試験内に評価対象群(コホート)を追加し、新型コロナ感染症(COVID-19)由来の肺炎を原因疾患とするARDS患者約5名を症例として組入れ、安全性の検討を行っています。

海外で行われたHLCM051のARDS患者を対象とした治験(MUST-ARDS 試験)において、HLCM051投与群ではプラセボ投与群に比べて複数の主要な炎症誘発性サイトカインが大幅に減少したことが明らかになりました。

HLCM051の持つ広範な免疫調整作用の薬理効果を示している事が推測されます。

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