1. 薄毛、脱毛のメカニズム

毛髪は一度生えるとそのまま伸び続けるわけではなく、毛髪サイクルによって脱毛し、再度発毛する、を繰り返しています。

毛髪の寿命はおよそ4年から6年で、寿命が来た毛髪は抜け落ちます。

毛髪が抜け落ちると、約80日の休止期を経て、毛母細胞が細胞分裂を開始して新たな毛髪の成長が始まります。

 

頭部の脱毛には、成長期の毛髪が十分成長せずに抜け落ちてしまうケースが多く、AGA(Andro Genetic Alopecia)の名前で知られる男性型脱毛症はこのタイプです。

さらに、毛髪は正常に成長するが、毛髪寿命が来て脱毛後、毛母細胞が分裂しないまたは成長不十分で毛髪が少なくなる、というケースもあります。

 

薄毛、脱毛は男性型脱毛症が多く、この症状は女性にも見られることがあります。

その他には、女性の薄毛の主な原因であるびまん性脱毛症が挙げられます。

男性型の場合は、局所的に薄毛、脱毛が進行し、それが頭部に拡がりますが、びまん性脱毛症の場合は、頭髪全体が均等に薄くなっていきます。

さらに、ホルモンバランス乱れから分娩後の女性に脱毛が起こる分娩後脱毛、ストレスなどが原因と考えられている円形脱毛症などがあります。

 

薄毛、脱毛は原因、そのメカニズムにはかなりの個人差があり、ある人には効果のある育毛剤が、別の人には効果がない、ということはよくあります。

頭髪は大きなビジネスとなる分野ではあるのですが、現在でも薄毛、脱毛を解消する、または防ぐメカニズムについてはハッキリしていない部分が多く、薄毛と脱毛に対応する薬剤も全員に効果のあるものが作れているわけではありません。

 

2. 毛髪と幹細胞

2021年2月、毛髪が長期間(人の寿命、つまり数十年間)、周期的に生え替わるために重要な役割を果たす幹細胞を特定したことが、日本の理化学研究所のチームから発表されました。

意外に思われるかもしれませんが、ようやく毛髪の発毛に重要な幹細胞が特的できたのです。

 

このチームでは、ベンチャー企業と共同で、マウスの毛を生み出す器官を人工的に再生、増殖させて移植する技術の開発に成功しています。

 

今後、ヒトに応用する技術の開発を目指し研究が進みますが、チームでは、後頭部、側頭部に残った幹細胞を採取して培養し、脱毛した部分に移植するという流れの治療方法になるだろう、と述べています。

現時点で、毛髪再生のために幹細胞を使う臨床研究は、リーブ21と名古屋大学医学部が推し進めています。理化学研究所が発見した治験は、この臨床研究にも影響すると予想され、意外と早く幹細胞を使った毛髪再生治療が確立されるかもしれません。

 

3. 幹細胞治療のハードルと幹細胞培養上清を使うメリット

幹細胞を使った治療がいずれ開発され、薄毛、脱毛の治療に使えるようになると、将来的に頭髪による生活の質の低下を防ぐことができるという期待がふくらみます。

しかし、幹細胞を使った治療には、1. 認可を受けた特定の医療機関しか治療を行うことができない、2. 後頭部、側頭部から幹細胞を採取して培養しなければならないので治療費が高くなる可能性がある、などのハードルがあります。

 

そのため、幹細胞そのものを使わない治療である、幹細胞培養上清を使う方法が注目されています。

培養上清には幹細胞が分泌する物質が数百種類含まれており、様々な効果が期待できると考えられています。

薄毛、脱毛への対処は、様々な育毛剤が販売されており、医療機関を受診する人よりも、こういった育毛剤を購入している人が多いのが現状です。

当然、ニーズとして「医療機関を受診するより、できれば市販の育毛剤で改善したい」があります。

 

幹細胞を使った治療ですと、医療機関を受診することは必須です。

しかし、幹細胞の培養上清を使うことができれば、有効な成分を配合した育毛剤を購入して使うことができるので、治療に着手するハードルが下がります。

 

実際に、幹細胞培養上清の成分を配合した育毛剤は販売されていますが、購入するには注意が必要です。

注意する点を以下に挙げると、

  1. 培養上清成分の配合濃度は製品によって異なるために注意が必要。濃度が薄すぎるものは効果が期待できない。
  2. 薄毛、脱毛の原因に個人差があるように、培養上清成分に対する応答も個人差がある可能性が高い。つまり、効果が出るかもしれないし、効果が出ないかもしれない。
  3. 培養上清成分配合の育毛剤は、他の育毛剤と比べて値段設定が高い。できれば医療機関を受診し、自分の薄毛、脱毛の原因をなるべく詳細に知った方がよい。

この3点が挙げられます。

 

4. 培養上清の成分のうち、どれが重要なのか?

幹細胞が分泌し、培養上清に含まれる成分には、細胞の成長因子などの細胞の分裂・増殖・成長に重要な分子が存在します。

クリニックなどのホームページに掲載されている情報ですと、その成分のうちのサイトカインが発毛に効果が期待できると書いてあるものが多く見受けられます。

 

しかし、それぞれのクリニックのホームページの情報を見ますと、幹細胞培養上清の成分を頭髪に塗布するクリニックの他に、頭皮における皮下注射、さらには遺伝子導入と同じ技術を使って皮下に導入するクリニックもあります。

遺伝子導入と同じ技術を使う場合は、エレクトロポレーションという電気ショック(感電するほどの強い電流ではありません)を使います。

遺伝子導入の際は、エレクトロポレーションによって細胞膜に新たな物質の通り道ができるため、この道を使って遺伝子を細胞の中に導入します。

この技術を使った場合、局所的に注入する注射による培養上清成分よりも頭部の広い範囲に培養上清成分を行き渡らせることができるのではないかと考えられます。

 

また、培養上清中には血管内皮細胞成長因子(VEGF)が含まれています。

VEGFは、がん細胞で特に研究されている分子です。

がん細胞が成長する際に、がん細胞の塊の中に血管を誘導し、がん細胞に酸素や栄養分を行き渡らせるためにがん細胞が多量に分泌する分子です。

この物質によって血管網が拡がった場合、毛母細胞などに栄養や酸素が行き渡りやすくなり、細胞分裂活性が弱くなった毛母細胞が再び活性を取り戻す可能性もあります。

 

ただし、「VEGFが毛根に栄養を運ぶことで発毛を促す」としているところもありますが、VEGFは栄養そのものを運搬することはありません。

あくまで、栄養の通り道である血管網を整備するための分子です。

 

ミノキシジルを使った育毛剤は、まさにこの効果を狙ったものです。

ミノキシジルによって血管拡張が誘導され、毛母細胞に栄養が届きやすくなり、発毛を促すのが狙いです。

もともとミノキシジルは、血管を拡張して血圧を下げるための薬剤として開発されましたが、副作用に「体毛が濃くなる」という症状があったために育毛剤としても効果があるとして使われたものです。

 

幹細胞培養上清に含まれているVEGFとの違いは、VEGFは道をたくさん作ることによって栄養分を毛母細胞により多く届ける方法、ミノキシジルは道を広くして栄養分を毛母細胞により多く届ける、という点です。

 

発毛に効果が期待できる幹細胞培養上清ですが、確実に効果がある確証は今のところありません。

効果のある物質が含まれているので、効果が出る場合があるという段階です。

 

培養上清成分配合の育毛剤を購入して試すのは手軽ですが、やはり一度は医療機関を受診し、医師に相談することが必要ではないかと考えられます。

発毛のメカニズムについては、実は現在もわからないことが多く、様々な対処法が世に出ていますが、万人に効果のある対処方法が存在しないのが現状です。

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