1. 幹細胞培養上清の医療における使われ方

幹細胞は、細胞分裂、細胞分化を他の細胞と同調して行うために、また他の細胞活性を誘導するために様々な物質を分泌します。

人工的に幹細胞を培養している場合は、それらの物質は培養液中に放出されます。

この培養液を回収し、幹細胞が分泌した物質を様々な用途に使う治療法や美容法が最近行われています。

幹細胞が分泌する物質の中には、様々な成長因子、サイトカイン、抗酸化酵素などが含まれており、これらの物質は老化速度の抑制、免疫システムの調節、細胞分裂の誘導などに効果があります。

この物質を使えば、幹細胞そのものを使わなくても効果的な治療ができると考え、幹細胞培養上清は使われています。

 

幹細胞であれば、手術による移植、点滴、注射による細胞注入などが行われていますが、幹細胞培養上清ですと多様な方法で使用することができます。

培養上清そのものではなく、培養上清中に含まれている分泌物質を使いたいわけですから、培養液は排除し、有効な成分を取りだして化粧品、育毛剤などに配合することもできます。

この方法ですと、培養液中では不安定であり、他の細胞に刺激を与えた後にすぐに壊れてしまう物質でも、長期保存ができる加工を施して製品に配合することも可能になります。

 

こういった製品の場合、主に皮膚、頭皮への塗布が投与方法になります。

注射、点滴と比べると比較的手軽にできますし、医療機関にわざわざ行く必要がない場合が多いので便利です。

しかし、治療ターゲットによっては、塗布では対応できない場合があります。

そうした場合、注射、点滴で血管から直接体内に幹細胞培養上清成分を注入するケースがあります。

2. 幹細胞培養上清点滴の実例

実例をいくつか挙げましょう。

幹細胞の違いで目的が異なる場合もありますので、点滴による治療を考えている場合は、医師に自分の目的をハッキリ伝えることが必須です。

 

まず、ベビーサイトカイン点滴と呼ばれているものがあります。

これは、ヒト乳歯髄幹細胞の培養上清を使ったものです。

ヒトの乳歯が生え替わりのために抜ける時、抜けた乳歯から歯髄幹細胞が採取できます。

歯髄は歯の内部に存在するため、周辺がエナメル質で守られているような形になり、外部物質の影響を受けにくくなっています。

遺伝変異物質との接触もほとんどないため、「良質」ともいえる幹細胞が採取できるとされています。

そのため、この乳歯髄幹細胞から分泌される物質も効果があると期待されおり、この上清に含まれるサイトカイン(ベビーサイトカイン)抗炎症作用、血管新生、体内幹細胞の誘導に期待ができるとされています。

 

最も一般的に用いられているのは、ヒト脂肪由来幹細胞の培養上清です。

脂肪幹細胞は、皮下脂肪を採取した時にある程度の細胞数が採取できるため、培養に必要な肝細胞数を揃えやすく、採取もそれほど難易度が高くありません。

 

クリニックなどのホームページでは、この上清中に含まれている物質、特に成長因子、サイトカインによって、抗炎症作用、老化抑制の効果が期待できるとあります。

 

3. 幹細胞を培養した培養液をそのまま使うわけではない

ここで注意しなければならないのは、培養上清を医療、美容に使う場合、幹細胞を培養している培養液を回収してそのまま使うわけではないということです。

点滴で体内に注入する場合ですと、なおさら培養液そのものを使うことは危険です。

 

幹細胞はヒト由来であるとはいえ、人工的に培養するため、ある意味で特殊な環境を整えなければなりません。

そのため、人体そのものには害のある物質、毒性のある物質が培養液に入っている場合があります。

例を挙げると、培養液中のおおよそのpHを色によって示すために、フェノールレッドという物質が入っている培養液があります。

細胞の培養でフェノールレッド入りの培養液を使う事は一般的で、この色によって細胞のメンテナンスの時期を見計らったりします。

このフェノールレッドは人体に刺激などの害を与える可能性が高いため、フェノールレッド単体で扱う時には手袋などをする必要があります。

 

培養液は基本的に研究するための試薬なので、研究の都合で様々なものが配合されています。

細胞を成長させるものは当然入っていますが、その物質は人体に対しては危険であるというものも入っています。

そのため、培養上清の中に含まれている幹細胞分泌成分を使おうと考えた場合、まずは培養液中の危険な物質の除去、または必要な成分のみを培養上清から抽出して精製するというステップが必要になります。

4. 幹細胞培養上清を点滴で安全に使うために

点滴で培養上清を体内に注入するということは、培養上清はいきなり体内の血液と接触します。

幹細胞は無菌環境で培養されているため、細菌などが混入している可能性は高くありません。

しかし、培養上清を採取し、点滴に用いるための加工を施しているステップ中に細菌などが混入してしまった場合(コンタミネーション)、培養上清の点滴によって細菌が直接血液中に注入されることになります。

 

多くの場合、血液中に入り込んだ細菌は免疫系によって除去されますが、免疫機能が低下している場合などでは、細菌を排除しきれずに増殖してしまうケースがあります。

血液の中に細菌が存在する状況を「菌血症」と言います。

このことによって、血液中で増殖する、または全身の様々な部位に蓄積して増殖することがあります。

この結果、敗血症、髄膜炎、心膜炎、感染性関節炎などを引き起こし、生命が危険にさらされる可能性が高くなります。

 

このように、点滴に用いる培養上清は、製造過程が非常に重要です。

細菌などが入り込まないこと、培養液に使われている人体に害のある物質を除去すること、さらに幹細胞が分泌する物質の中でも身体に悪影響のある物質がないわけではありませんので、こういった物質の除去も必要になります。

 

点滴に使う「輸液」は、製造している会社が複数集まって、輸液製剤協議会という団体を作り、自主基準を決めています。

この協議会には、大塚製薬、テルモ、ニプロファーマ、扶桑薬品などの大手企業が参加しており、点滴に使う輸液のほとんどはこの競技会に参加している企業によって製造されています。

培養上清を使った点滴のための輸液は、これらの企業が製造していることは現時点で確認できません。

幹細胞が分泌する物質を含んでいる輸液は存在する可能性はありますが、「幹細胞の培養上清を使った輸液」をこれらの企業が製造しているという情報はありません。

 

そのため、点滴に使われる培養上清の点滴は、クリニックと契約している施設などで製造しているケースが多数です。

品質維持、安全管理については万全を期していると思われますが、安全性の確保、品質の維持について医師への相談は必須です。

また、多くの場合は保険がきかない診療となります。

幹細胞そのものを使う診療と比べると安いとはいえ、やはり一般的な感覚からすると高い医療費になりますので、この点も注意が必要です。

 

こういった治療で注意しなければならない点で他に挙げるとすれば、副作用の種類、そのリスクがあります。

しかし、幹細胞培養上清を使った医療行為の歴史が新しいため、長期的な副作用についてはいまだに不明な点が多くなっています。

短期的な副作用としては、腫れ、熱感、痛みを伴う場合があります。

ほとんどの場合は1週間ほどで治りますが、長期にわたる場合はすぐに医師への相談が必要です。

 

このような新しい技術が一般的に普及する際、初期はどうしても玉石混淆であり、きちんとしてくれるクリニックと、どうも変だなというクリニックが存在してしまいます。

きちんとしたクリニックであれば、患者が説明を求めた際には丁寧に説明してくれますので、遠慮なく相談しましょう。