幹細胞培養上清とは?培養液の医療への応用や注意点を解説

この記事の概要
  • 幹細胞培養上清の中には幹細胞から様々な物質が分泌される
  • 幹細胞を培養した培養液、培養上清を使った医療についてはそれほど規定が厳しくないため、一般的にクリニックでも医療に使うことが可能

近年、美容業界でも注目されている幹細胞ですが、化粧品に含まれるものは幹細胞ではなく「幹細胞培養上清」と呼ばれる幹細胞の培養液です。

この記事では、幹細胞培養上清とは何なのか?注意点に関して解説します。

目次

01. 幹細胞培養上清とは

幹細胞を人工培養する時には、細胞を培養液に浸して育てます。この培養液の中には細胞の成長に必要な成分が含まれており、幹細胞は培養液中から必要な成分を取り入れて成長します。一方で、幹細胞から様々な物質が分泌されます。この物質は主に、細胞同士の相互作用のために分泌されます。

幹細胞の中には「シグナル伝達細胞」としての働きをもつ細胞があります。他の細胞などからシグナルを幹細胞が受け取り、その幹細胞が物質を分泌することによって他の細胞にそのシグナルを伝達するという機能を持つ細胞です。代表的な分泌物として、成長因子、サイトカインが挙げられます。

成長因子は、特定の細胞の分裂(細胞増殖)、細胞分化を誘導する物質です。代表的な成長因子として、上皮成長因子(EGF:Epidermal growth factor)、インスリン様成長因子(IGF:Insulin-like growth factor)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF:basic fibroblast growth factor)などが挙げられます。また、サイトカインはインターロイキン、インターフェロンなどを含み、周囲の細胞に影響を与えます。

サイトカインは発見、解析の歴史が比較的浅い分子であり、現在も未解明の部分が多くあります。これまでに、健康、疾患どちらのケースにおいても重要な分子であることは明らかになっていますが、詳細な分子メカニズムは解明途中です。

特に、感染に対する宿主応答、免疫反応・応答、炎症、外傷治癒、敗血症、がん、生殖においては必要不可欠である事が明らかになっています。

また、最近では幹細胞が分泌する「エクソソーム」にも注目が集まっています。エクソソームは、それ自体が生理活性を持つわけではなく、生理活性物質を輸送する「運搬者」です。

幹細胞から分泌されるエクソソームには、miRNA(マイクロRNA、それ自体が生理活性を持つ最近発見された分子)などを輸送するものもあり、医療に使える可能性が広がっています。

エクソソームが引き起こす細胞応答は非常に強力であり、組織損傷、疾患時の再生作用の媒介能力もかなり高くなっています。エクソソームによって活性化し、疾患などの治療に有効な現象を誘導するシグナル伝達経路はここ数年で次々と明らかになっており、医療に応用するための開発が盛んに行われています。

幹細胞を人工培養するとこれらの物質が培養液中に分泌されます。幹細胞を培養した時の培養液は、幹細胞培養上清と呼ばれますが、この培養上清にはこれらの物質が含まれています。

幹細胞培養上清の医療応用

培養上清に含まれている成長因子、サイトカインなどの物質は、多くの生命機能に関わります。その中に抗酸化作用などの「老化」に関わる機能があります。

活性酸素による酸化ストレスは老化を進める原因とされ、抗酸化作用を持つ物質によってこの酸化ストレスを抑制すれば、老化の速度を緩やかにすることが可能です。

「幹細胞そのものを使った医療」は、設備などの面で非常に厳しい規定があります。

そのため、規模の小さな医療機関、一般的なクリニックでは幹細胞そのものを使った医療は、大きな医療機関、研究機関と共同でなければ不可能です。かなり高レベルな設備、その設備の準備、維持のためにはコストもだいぶかかります。

しかし、幹細胞そのものを使わずに、幹細胞を培養した培養液、培養上清を使った医療についてはそれほど規定が厳しくないため、一般的にクリニックでも医療に使うことが可能です。

そして培養上清に含まれる物質の特性から、アンチエイジングなどの分野に使われる事が多く、美容クリニックなどで培養上清を使った医療が多数行われています。

03. 幹細胞培養上清を使った医療の注意点

幹細胞そのものを使うよりも規定が緩やかではありますが、幹細胞培養上清を使った医療も、十分な注意を払わないと思いもかけないことになります。

まず、幹細胞を培養した培養上清を回収しますが、この培養上清をそのまま医療に使えるわけではありません

細胞の培養に必要な成分と、医療に必要な成分は別ですので、医療に使おうとする成分をこの培養上清から分離、精製しなければなりません。

この分離・精製ステップはクリニック、医院内ではまずできません。

分離・精製作業には大学、研究機関レベルの設備が必要です。もし、自家幹細胞(患者自身から取り出した幹細胞)の培養上清を使った治療を行うとすれば、流れは以下のようになります。

  1. クリニックで患者から幹細胞が含まれている血液、脂肪細胞などを採取する。
  2. 採取したものを設備が整っている機関に送り、幹細胞を分離・精製して培養を行う。
  3. 培養した容器から培養液のみ(これが培養上清です)を回収する。
  4. 培養上清から治療に使う成分を分離・精製する。

これらの作業は、設備、スタッフが十分信頼がおける所で行うことが必要です。治療に使う成分以外のものが含まれている場合はその成分が健康被害の原因となる可能性がありますし、有効な成分まで除去してしまうと治療自体の効果がなくなります。

治療を受けるクリニックが、信頼のできる施設を使って治療に使う培養上清を準備しているかどうかは、一般の方には判断が難しいところです。

どのクリニックでも「我々は信頼のおける施設を使って準備をしている」としていますが、現在の所、そのことを一般の方が確認する方法はありません。

治療を受けた第三者の情報などを収集して対策とするしかなさそうです。

04. 培養上清内の有効成分には副作用の可能性はある

培養上清から有効成分を分離・精製するステップがほぼ完全だった場合でも、培養上清を使った医療にはリスクがあります。

一般的に処方される薬にも副作用、または副作用の可能性があると同様に、培養上清を使った医療にも副作用の可能性があります。「もともとは身体の中にあった、つまりヒト由来の物質だから副作用の心配がない」ということはまずありません。副作用が必ず起きるわけではありませんが、副作用の可能性はあります。

先に述べましたが、幹細胞の分泌物の中には「細胞応答を強力に引き起こす物質」も含まれています。つまり、幹細胞の分泌物の中には細胞に対して強く働きかける物質も含まれています。

こういった物質の作用は必ずしも良い作用だけに限定されるわけではありません。例えば、免疫応答は身体に異物が侵入した時には必要不可欠なものですが、その免疫応答は強ければ強いだけ良いわけではないのは容易に想像がつきます。鎮痛剤は服用すると痛みを抑えてくれますが、飲み過ぎると身体に悪い作用が出てきます。

幹細胞分泌物の中に含まれている成長因子、サイトカインにも同じ事が言えます。抗酸化作用、アンチエイジングの作用に働いたとしても、その作用が強すぎてしまったりした場合は予想外の副作用が出る可能性があります。

また、培養上清の中の有効成分が分離・精製されたとしても、その精製のレベルも問題になる事があります。

それは、分離・精製した培養情勢の中に、有効成分以外のものが全く混じっているかいないかの問題です。成長因子、サイトカイン共に、いくつもの種類がありますが、分離して精製する時に「完璧な100%の純度」を確保するのはかなり難しいことです。どうしても微量の他の物質が混じってしまう可能性が高くなります。

説明上は「影響のないレベルで他の物質が混ざっている可能性がある」という表現を使うことがありますが、医療においては、「影響のないレベルというものは一般的なレベルであって、実際は反応には個人差があるため、100%影響がないとは言いきれない」ということはほぼ常識です。

こういった副作用などによる健康被害を防ぐためには、培養上清を使った治療を受ける前に、十分な説明と、確認できる情報はなるべく確認してから治療に入ることが必須です。副作用の可能性についてきちんと説明してくれるクリニックは、その点においては信頼のおけるクリニックです。治療前には必ず説明を求めましょう。

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