1. 活性酸素を分解する酵素

活性酸素は、体内で酸素分子が反応性の高い化合物に変換されたものです。

一般的に活性酸素は身体、細胞にとって毒性を持つとされており、DNAの損傷などに関わっていることが明らかになっています。発がん、生活習慣病などの疾患の原因として、また老化と密接な関係があると言うことも明らかになっています。

生命の維持に酸素を必要とする生物(ヒトも含む)は、細胞内のミトコンドリアで生命活動のエネルギー生産のために酸素を消費し続けています。この酸素の一部は代謝経路において活性酸素に変換されることがあります。そのため、どうしても活性酸素が体内、細胞内で発生することは避けられません。

この活性酸素を分解する酵素がスーパーオキシドディスムターゼ(SOD:Superoxide dismutase)です。

一般的に体重に対して消費する酸素の量が多い動物種ほど寿命が短くなる理屈になります。ヒトのように発達した脳を持っていると、その脳は常に新鮮な酸素を必要とし酸素消費量も多くなるため、個体としての体重あたりの酸素消費量は他の動物種と比べて多くなります。

酸素消費量が多くなると、活性酸素の発生量も増えるため、ヒトのような酸素消費量が多い動物は寿命が短くなるはずですが、実際はヒトは動物の中ではかなり寿命が長い動物種になります。

これは、SODが活性酸素を分解しているからであり、ヒトを含む霊長類は、他の動物種と比べてSODの活性が非常に高く、多量の酸素消費量の割に寿命が長い原因の1つは、このSODの活性の高さだとされています。

活性酸素は、紫外線、排気ガス、化学物質、食品添加物、酸化した油脂、さらにはストレスなどによって増加すると言われています。これらにさらされ続けているヒトは活性酸素を発生させる要因が常に身体に入ってきているわけですが、それでも寿命が長いのはSODの高活性が1つの原因です。

また、疲労を感じる原因は乳酸が蓄積されることであり、乳酸は疲労物質であると長い間言われてきましたが、実は乳酸ではなく活性酸素の蓄積が疲労の原因ではないかと考えられています。

血中乳酸濃度は疲労の原因を示すものではなく、高ければ高いほど筋力運動が行われている証明であり、疲労物質は別の物質であることが証明されており、新しい疲労物質の候補の1つとして活性酸素が挙げられています。

このように、ヒトは活性酸素が蓄積しやすい環境で生活していますが、その中でSODはせっせと活性酸素を分解し続けているのです。活性酸素は、「酸化ストレス」という言葉で表されることもありますが、この酸化ストレスをSODは抑制している、という言い方もできます。

2. SODはどんな酵素?

SODは「酸化還元酵素」に分類される酵素です。スーパーオキシドアニオンを酸素と過酸化水素に変換する機能を持ち、その分子は銅イオン、亜鉛イオン、またはマンガンイオン、鉄イオンのように、II価、またはIII価の金属イオンを含んでいます。

SODは細胞内の、細胞質、ミトコンドリアに多く存在しています。ヒトを含む哺乳類、そして多くの脊椎動物は3種類のSODを持っています。銅と亜鉛を含むSOD1は細胞内の細胞質に存在し、マンガンを含むSOD2はミトコンドリアに、存在しています。また、SOD1と同様に銅と亜鉛を含んでいるSOD3は細胞の外に存在しています。

SODと活性酸素の研究によって、がん細胞では高いレベルで活性酸素が産生されていることがわかっています。現在、このSODと活性酸素をターゲットとした抗がん剤についての基礎研究がされています。これはSODの阻害、機能促進によって表れるがん細胞の変化にヒントを得たアイデアです。

3. SODと幹細胞の関係は?

幹細胞を人工的に培養すると、細胞は培養液に様々な物質を分泌します。この分泌される物質の中に、SODが含まれています。幹細胞そのものを使うのではなく、幹細胞を培養した培養液から抽出した物質をアンチエイジングなどに使う場合、分泌物質に含まれているSODには大きな期待がかけられています。

現時点では、培養液中に含まれているSODが、抽出ステップを経て皮膚表面に塗布された場合に酵素としての活性を持つかどうか、活性酸素の分解に作用するかどうかという科学的な確証は得られていません。コスメとして使った場合に、皮膚の細胞に入って効果を出すためには、SODが経皮吸収をされなくては作用することができません。

幹細胞から分泌される、SODや他の有効成分を皮膚の細胞に届けるために、近年ではリポソームという技術に注目が集まっています。リポソームは分子によって小さなカプセルを作る技術で、中に物質を閉じ込めることができます。そしてリポソームは細胞に吸収されるという性質を持っているため、多くの疾患治療薬で、患部に有効成分、薬物などを届けるために利用されています。これを使ってSODを含む幹細胞由来の有効成分を経皮吸収させられないか、というアイデアが生まれています。

しかし、内服する、点滴、注射などを行う医薬品とは異なり、コスメ、化粧品は「皮膚に塗布」で効果を誘導しなければなりません。こういった点を考えると、リポソームには化粧品などに向かない点が以下に挙げるような理由で存在していました。

  • リポソームによるカプセルは、構造を保ったまま化粧品などの製品に配合することが困難です。
  • 水溶性の有効成分(その成分が水に溶けやすい場合)は、カプセルの中に閉じ込めるのは難しい。
  • それまでのリポソーム技術では、アミノ酸の成分変質が起きてしまう。SODは酵素、つまりタンパク質でアミノ酸から成り立っているので、SODは確実に変質、酵素としての活性を失う。

これらの問題点を解決するリポソームは、近年開発競争が激しく、様々なアイデアが生まれ、製品化されています。幹細胞から分泌されている物質群は、医療、健康、美容に有用である可能性が明らかになったあたりから、それらの物質を体内、そして細胞内に輸送する方法の開発競争が始まり、最近それらの成果が製品化されつつあります。

そのうちのいくつかが化粧品に使われ、SODなどの幹細胞由来有効成分を経皮吸収させるために、それらの成分と共に化粧品に配合されています。この技術によって、有効成分は化粧品中で数年間、活性を保ったまま製品として使い続けることができるようになりました。化粧品に設定されている使用期限は、成分の変性、物質の安全性がその期限の根拠ですが、SODのような成分の活性保持期間から設定されている面もあります。

4. 医療におけるSODと幹細胞

医療の分野では、SODは「幹細胞が環境に対応して正常な分化するために必要な分子」という位置づけが主です。SODの活性が不十分であると、活性酸素の蓄積によって細胞がダメージを受けます。また、活性酸素が直接細胞毒性を発揮しない場合でも、活性酸素の蓄積によって細胞自体が脆弱になり、他のストレスにさらされた時、細胞が本来持っているストレス抵抗性が発揮されずに細胞死が誘導される場合もあります。

幹細胞のように、大きな変化(分化など)を必要とする細胞は、分化時、細胞増殖時に様々な部分(DNAの複製など)で一時的に脆弱な部分がでてきます。この時、SODは活性酸素の蓄積を抑制し、酸化ストレスから幹細胞を守る役割があると考えられています。不妊の原因となる精原細胞、卵母細胞の分化異常、発がん、がんの抗がん剤獲得など、SODが関与していると予測され、基礎的な研究が進んでいる分野は多々あります。

今後、SODの解析はさらに進み、今後SODに関与する、またはSOD事態をターゲットとした医薬品、治療方法、また幹細胞を人工的に分化される方法などが開発されると予測されています。

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