増殖因子(グロスファクター)とは?主な増殖因子を紹介!

目次

1. 増殖因子(Growth Factor)とは

増殖因子(グロースファクター、英: Growth factor)とは、生体内において、特定の細胞の増殖や分化を促進する内因性のタンパク質の総称です。

成長因子、細胞増殖因子(さいぼうぞうしょくいんし)などともいう。

様々な細胞学的・生理学的過程の調節に働いており、目的とする標的細胞の表面の受容体タンパク質に特異的に結合することにより、細胞間のシグナル伝達物質として働く。

増殖因子(または成長因子)とサイトカインは、発見の経緯が異なるがしばしば同義語のように扱われる。すなわち、サイトカインは造血系や免疫系での体液を介した細胞間情報伝達の実体として明らかにされ、増殖因子は固形組織の研究から明らかにされたが、実態として多くのサイトカインは増殖因子としての側面があります。

ホルモン(成長ホルモン、インスリン、甲状腺ホルモンなど)との違いは、ホルモンが特定の臓器(下垂体、膵臓、甲状腺など)から産生され、血流を介して全身的に作用するのに対し、増殖因子は様々な細胞で分泌され、その分泌細胞の近くあるいは局所で作用することです。しかし、明確に区別できない場合もあります。

2. 主な増殖因子

主な増殖因子の略称、名称、産生細胞及び作用を下表に示します。

増殖因子

各増殖因子について臨床応用の現状などを含めて解説します。

 2-1. 血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor; PDGF)

PDGFは血小板内の顆粒に貯蔵されている液性因子であり、血管平滑筋細胞や線維芽細胞の増殖因子として発見された。動脈硬化や創傷治癒などに関与するとされていたが、PGDF-Bはサル肉腫ウイルスの癌遺伝子v-sisと92%の相同性を有することが明らかになっており、現在ではがんと深く関与していると考えられています。

PDGFはチロシンキナーゼ関連型であるPDGF受容体(platelet-derived growth factor receptor; PDGFR)を介してその生理作用を発現されます。

この受容体の変異による発癌が知られており、受容体チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブメシル酸塩製剤(商品名:グリベック)は、慢性骨髄性白血病 (CML)、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病 (Ph+ALL) 、KIT (CD117) 陽性消化管間質腫瘍 (GIST)に対する治療薬として用いられています。

2-2. 上皮増殖因子(epidermal growth factor; EGF)

EGFは様々な細胞で増殖促進作用、胚発生で上皮増殖とケラチン化(角化)を促す。損傷を受けた上皮の修復にも関与。極めて多様な生理作用をもちます。

上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor; EGFR)は、細胞の増殖や成長を制御する上皮成長因子 (EGF) を認識し、シグナル伝達を行う受容体です。EGFRの発現は多様な細胞でみられ、細胞膜上にあるこの受容体に上皮成長因子 (EGF) が結合すると、受容体は活性化し、細胞を分化、増殖させます。

正常組織において細胞の分化、発達、増殖、維持の調節に重要な役割を演じているが、このEGFRに遺伝子増幅や遺伝子変異、構造変化が起きると、発癌、および癌の増殖、浸潤、転移などに関与するようになります。

EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤(ゲフィチニブ;イレッサ)が非小細胞肺癌治療に用いられています。まれに副作用として急性肺障害や間質性肺炎が現れることがあります。

2-3. インスリン様増殖因子(Inslin-like growth factor; IGF)

IGF-I(ソマトメジンC)とIGF-II(ソマトメジンA)の2種類があります。互いによく似ており、インスリンと相同性のある一本鎖ポリペプチド、IGF-Iは成長ホルモン(GH)依存性に肝臓で合成され血液中に分泌されます。細胞増殖、骨成長促進作用をもつ。成人の主要な成長因子であるインスリン様成長因子I(IGF-1)とは対照的に、IGF-IIは胎児の主要な成長因子であると考えられています。

血中IGF-I値はGH分泌不全症(小児期では低身長症となり、成人では体組成の異常などがみられる)の、より簡便な診断法として用いられています。GHの分泌は脈動的であり、一回の測定では判断できないため、安定的に血中に存在する血中IGF-I値を性別・年齢別基準値を比較対照としてGH分泌不全症の診断に用いられています。

IGF-1の産生またはIGF-1への応答ができない希少疾患では、各疾患に特有の成長不全がみられる。このような疾患の1つであるラロン症候群では、成長ホルモン受容体が欠損しているため、成長ホルモン療法による効果は全く見られません。アメリカ食品医薬品局(FDA)はこれらの疾患をsevere primary IGF deficiency(重症原発性IGF欠損症)と呼ばれる疾患へ分類しています。

通常これらの疾患の患者は、正常または高い成長ホルモンレベル、標準身長から-3SD以下の低身長、-3SD以下のIGF-1レベルという特徴を有します。ラロン症候群に対して、IGF-I製剤(一般名:メカセルミン)による治療が承認されています。

先端巨大症は、脳下垂体前葉で過剰量の成長ホルモンが産生されることで発症する疾患である。成長ホルモンの産生の増加が引き起こされる障害には多くの種類があるが、最も一般的なのは成長ホルモン産生細胞に由来する下垂体腺腫によるものです。成長ホルモンレベルとIGF-1レベルの双方の上昇によって、解剖学的変化と代謝異常が引き起こされます。

2-4. 繊維芽細胞増殖因子(Fibroblast growth factor; FGF)

線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor; FGF)は、最も強力でかつ血管内皮細胞に直接作用する血管新生因子として広く知られ,血管新生が病気そのものの原因や進行と密接に関わっていることから、その産生機構や作用機構の研究が盛んに行なわれています。

FGFは血管新生の盛んな組織にかなり多量に存在するのに、何故か血管新生を必要とする時にのみ作用します。

受容体の変異による先天性の骨形成異常症(頭蓋骨早期癒合症、軟骨形成不全症)が多く知られています。腫瘍で受容体の過剰発現がみられます。

2-5.血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor; VEGF)

血管周囲で産生され、傍分泌により血管内皮に特異的に作用し増殖を促進する(血管形成誘導因子)腫瘍血管の形成抑制を目的にVEGF中和抗体(ベバシズマブ;アバスチン)による癌治療が試みられています。

2-6. 神経増殖因子 (Nerve growth factor; NGF)

神経栄養因子(ニューロトロフィン)として知られます。神経細胞、筋細胞の傍分泌により神経終末に取り込まれニューロンのシナプス形成に関わります。

チロシンキナーゼ型とTNFファミリーに属するものの二種の受容体があります。

2-7. 肝細胞増殖因子 (Hepatocyte growth factor; HGF)

多くの上皮に作用し、増殖、細胞運動を促進。アポトーシスを抑制する。器官形成、組織傷害の再生修復に必須。劇症肝炎、心筋伷塞で血中濃度が異常高値。肝疾患、腎不全、癌で高値を示し、患者予後と負の相関を示します。

2-8. エリスロポエチン(EPO)

主に腎臓尿細管近傍間質細胞でつくられ、赤芽球前駆細胞の分化増殖を促進する糖タンパク質。貧血、低酸素でHIF-1(低酸素誘導因子)が活性化され、EPOの遺伝子発現が亢進します。様々な貧血(特に腎性貧血)の治療、血液ドーピングに利用されます。

2-9. 顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)と顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)

造血幹細胞の顆粒球、マクロファージ、好酸球、好塩基球への分化増殖を促進します。

GCSFは好中球前駆細胞の分化増殖を促進させます。好中球減少症の治療に用いられる。幹細胞因子(SCF)造血の初期に作用する。末梢血の造血幹細胞の自家移植にG-CSFと併用して用いる試みがなされています。他のサイトカインと相乗効果が期待できます。

2-10. 血小板産生刺激因子(トロンボポエチン;TPO)

肝臓、骨髄で産生され、巨核球前駆細胞の分化を促進し、血小板を増加させます。EPOと相同性があり、受容体はc-mplと呼ばれています。

化学療法後の血小板減少症の治療に応用されています。

2-11. マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)

単球、マクロファージ系前駆細胞の分化・増殖を促進します。

末梢血の単球・マクロファージにGM-CSF, G-CSF産生を刺激する。骨髄移植後、抗癌剤治療に伴う顆粒球減少の治療に使われています(ミリモスチム;ロイコプロール®)。

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