大塚製薬がiPS細胞由来他家細胞の治療作製技術を導入

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大塚製薬がiPS細胞由来他家CAR-T/TCR-T遺伝子細胞治療製剤の作製技術を導入

大塚製薬は、リバーセル株式会社とiPS細胞由来他家CAR-T/TCR-T遺伝子細胞治療製剤を作成する技術について、独占的な商業用ライセンスを取得する契約を締結したことを発表しました。

この契約は、複数の治療分野、そして全世界を対象とした契約であり、大塚製薬の独占契約と見ることができます。

この商業ライセンス契約締結によって、大塚製薬はリバーセル社からiPS細胞由来他家CAR-T/TCR-T遺伝子細胞治療製剤の作成技術について、独占的通常実施権を許諾され、リバーセル社に対して契約一時金と、開発の進展と製品の売上高に応じたロイヤルティを支払うことになります。

大塚製薬では、自家細胞を用いたCAR-T/TCR-T療法の基礎研究と臨床研究開発が進行中であり、今回の契約で入手できた作成技術を用いて、研究開発がさらに加速すると予想されます。

2. 大塚製薬とリバーセル社

大塚製薬は、医薬品、食料品の製造と販売を行っている企業で、大塚ホールディングスの完全子会社であり、大塚製薬、大鵬薬品、大塚化学、大塚倉庫、大塚食品、アース製薬などから構成される大塚グループの中核企業です。

本社は東京、本部として大阪府と徳島県に拠点を持っています。

CM、広告を多く出しているので世間的な認知度は高い企業で、創業は1921年で、戦前から活動をしています。

創業が徳島県ということから、一太郎を開発したジャストシステム、発光ダイオードの日亜化学と並んで、徳島県が生み出した世界企業徒呼ばれており、1953年のオロナイン、1963年のオロナミンCドリンク、1980年のポカリスエット、1983年のカロリーメイトなどで認知度を上げてきました。

2022年には、大阪に創薬系の研究所設立を予定しており、医療分野の研究開発にも力を入れている企業です。

リバーセル株式会社は、京都大学ウイルス・再生医科学研究所再生免疫学分野の河本宏教授によって開発された、iPS細胞などの多能性幹細胞から免疫を担当するT細胞を作成する技術を柱として、がんの免疫療法の臨床実用化を目指すベンチャー企業です。

2019年設立され、本社は京都府、代表取締役は、血液がん治療のために使われる造血幹細胞移植法の確立、骨髄バンクの設立に実績をもつ佐治博夫博士が務めています。

京都府の赤十字血液センターで研究部長兼技術部長、公益財団法人のHLA研究所で、所長、理事長を歴任しており、治験などについて豊富な経験を持っています。

リバーセル社は、「抗原特異的T細胞受容体遺伝子を有する多能性幹細胞の製造方法」、「抗原特異的CD8陽性T細胞を誘導する方法」、「外来抗原レセプター遺伝子導入細胞の製造方法」という3つの特許を保有しています。

また、奥羽大学歯学部の小玉博明博士から、OP9細胞についての全ての権利を承継しています。

OP9細胞は、骨津いに由来する間質細胞(ストロマ細胞)で、ES細胞iPS細胞などの多能性幹細胞を、様々な細胞に分化する際に、共培養する細胞です。

OP9ストロマ細胞は、多能性幹細胞を分化誘導するときに必要な細胞であり、例を挙げると、ES細胞を血液系の細胞に分化させるために必要な細胞として知られています。

この承継によって、OP9細胞とこの細胞の遺伝子改変体を商業利用するときには、リバーセルからライセンスを受ける必要があります。

現在、リバーセル社は、河本宏教授が開発した汎用性即納型キラーT細胞製剤を治療法として臨床応用することを目指しています。

汎用性即納型キラーT細胞を薬剤として供給することが、リバーセル社の大きな目標です。

大塚製薬とリバーセル社、この2社の関係は、河本宏教授の研究室と大塚製薬がiPS細胞由来CAR-T作製技術に関して共同研究を実施することから始まっています。

その後、リバーセル社が設立された後にも共同研究は続き、今回の契約締結前にも、iPS細胞由来CAR-T/TCR-Tの作製技術に関する研究用途に限ったリサーチライセンス契約を締結しています。

3. どのような技術か?

まず、多能性幹細胞は、よく知られているiPS細胞とES細胞があります。

ES細胞は胚性幹細胞とも呼ばれ、受精した後に発生が進んだ胎児から得られる細胞です。

ES細胞の場合、倫理的な問題が非常に大きいために、人工的に幹細胞を作成する技術が望まれていましたが、これを可能にしたのが京都大学の山中教授による人工多能性幹細胞、iPS細胞です。

この2つの細胞は、分裂の繰り返し、増殖することを可能とする自己複製能力と様々な細胞に分化する能力を持ち、免疫担当細胞の欠陥に起因する免疫疾患の治療にも用いられています。

今回の契約で中心となる免疫担当細胞は、胸腺での細胞選択を経て分化、成熟したリンパ球の一種であるT細胞です。

T細胞には、ヘルパーT細胞キラーT細胞などがあります。

ヘルパーT細胞は、キラーT細胞の活性化、また抗体を産生するB細胞の活性化機能を持つことが知られています。

そしてキラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞、がん化した細胞を攻撃、破壊して排除する機能を持っています。

これらT細胞の表面に存在するのが、T細胞受容体(TCR)で、今回の技術の大事な部分になります。

T細胞受容体は、T細胞膜表面に存在し、糖タンパク質に分類されます。

T細胞ががん細胞のがん抗原などを認識するために作用し、T細胞が機能を活性化するためには非常に重要な分子です。

そして今回の技術で重要なもう一つの分子、キメラ抗原受容体(CAR)は、特定の膜タンパク質に結合するように、人工的に合成された受容体です。

大まかな治療の流れは以下のようになります。

  1. がん患者からT細胞を採取する。
  2. 採取した細胞に、がん細胞を特異的に認識するT細胞受容体遺伝子、そしてがん細胞特異的な膜タンパク質に結合するキメラ抗原受容体遺伝子を融合した遺伝子を導入する。
  3. 導入されたT細胞は、形質が転換され、がん細胞を特異的に認識し、強力ながん細胞攻撃能力を得る。
  4. この細胞を増殖させ、必要量が確保できたら患者に輸注する。

この方法ですと、自家細胞を使うために拒否反応リスクが少なく、効率的な治療が可能となります。

実際にこの治療方法は確立され、臨床で使われていますが、遺伝子改変による形質転換、理想通りに細胞が増殖するかなどの問題を抱えています。

また、コストが高くなることも問題で、患者はこの治療方法を選択するか否かを、経済的な状況からも判断しなくてはなりません。

今回の技術は、がん細胞認識、攻撃能力に特化した細胞を、CAR-T/TCR-T遺伝子T細胞として、iPS細胞から樹立しようというものです。

さらに、このiPS細胞を自分の細胞ではなく、他人の細胞から構築し、iPS細胞由来他家CAR-T/TCR-T遺伝子T細胞を作り、臨床での効果を確認できれば、iPS胞由来他家CAR-T/TCR-T遺伝子細胞を大量に生産してストックしておき、治療が必要なときに供給するという方法を採ることができます。

4. この技術が産み出すもの

この治療方法が確立された場合、患者は自分のT細胞からCAR-T/TCR-T遺伝子T細胞を作成する、または自分の細胞からiPS細胞を構築してiPS細胞由来自家CAR-T/TCR-T遺伝子細胞を作成する必要がなくなります。

この作成の時間を節約することによって、患者はより早く治療に移行することができます。

また、iPS細胞由来他家CAR-T/TCR-T遺伝子細胞の大量生産と備蓄によって、必要に応じて治療に必要な細胞を供給、また治療コストの大幅な軽減が実現されます。

がんという疾患は、時間との戦いであり、がんの発見後は速やかにそのがん自体を排除する治療方法に入れることが理想です。

iPS細胞由来他家CAR-T/TCR-T遺伝子細胞の技術は、この速やかな治療に移行すること可能とするもので、大きな期待が寄せられています。

さらに、がんの治療方法の進歩によって多くの治療方法が確立されてきましたが、その多くは、「確立当初は治療コストが高い」ということが問題になっています。

しかし、この技術が臨床応用されれば、治療コストが軽減されることは確実であり、多くの人ががん治療を受けることができる状態を確立することができます。

リバーセル社のようiPS研究発のベンチャー企業はこれまで多くの臨床技術を産み出してきました。

今回の大塚製薬との契約締結も、実用化に向けての大きな一歩である事が確実であり、近い将来の治療方法確立が期待されています。

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