- 幹細胞をクリニックが扱うには第1種、第2種、第3種再生医療技術の何れかが必要
- 幹細胞のアンチエイジング施術を受ける場合、認可をうけているかの確認が大切
幹細胞はアンチエイジングに効果があると思っている方も多いのではないでしょうか?もちろん、幹細胞はアンチエイジングに効果はありますが、まだまだ実用化の事例が少ないのも事実です。
今回は幹細胞をつかったアンチエイジングの取り巻く現状について解説します!
1. アンチエイジングとは
アンチエイジングは、日本語に訳すと「加齢に抗う」という意味になります。つまり、加齢による現象に抵抗することを指します。とはいえ、生命体が加齢に抵抗したとしても、細胞レベルから個体レベルまで年齢は重ねていきます。加齢を止めることはできないので、ニュアンスとしては「抗老化」が近い意味になります。
「若返る」「歳を取らない」という言葉がアンチエイジングでは使われますが、これらはあくまで商業的な目的で使われる言葉です。古くから「不老不死」にとりつかれた秦の始皇帝が、徐福に仙人を探してくるように命じた話は有名です。
こう書くと、アンチエイジングはオカルトのようないかがわしいものに感じられるかもしれませんが、抗老化という意味をとると、抗老化医学という積極的予防医学の分野にアンチエイジングは組み込まれます。
生活習慣などによって、身体が実際の年齢よりも老化している現象はよく見られます。例えば、日本における糖尿病の患者の平均年齢は、一般的な人と比べて10年から15年短くなります。白内障などは加齢によって起こりますが、血糖が高い人ではこの症状が起こる年齢は健康な人と比べて早く、かつ進行が早くなります。
こういった老化現象の治療において、幹細胞が使われるケースが最近見られます。
2. 幹細胞とアンチエイジングを取り巻く現状
幹細胞の性質上、この細胞を使えば「自分の老化した細胞を作りかえることができるのではないか」と考えてしまうのは当然です。美容分野で「アンチエイジング」を宣伝しているクリニックはネット上にたくさん存在します。こういった状況から、幹細胞を扱っているクリニックの治療に興味を持ったときに注意しなければならないことがあります。
幹細胞を使った治療を行う場合、そのクリニックは主に、第1種再生医療技術、第2種再生医療技術、第3種再生医療技術、いずれかの認可が厚生労働省から必要になります。
第1種から3種までの区分は、治療内容、リスクによって分けられており、第1種、第2種は認定再生医療等委員会で有識者(法律、再生医療技術の専門家)によって決議することで認可を受けることができます。第3種の場合は、1種、2種よりも治療におけるリスクが低くなり、認定再生医療等委員会の審査のみで治療を開始することができます。
全てに共通するのは、承認された後に、厚生労働大臣宛に治療計画書の提出が必要になることです。これらを経た上で、初めて治療を開始することができます。
クリニックのホームページ上にはその承認についての詳細を掲載しているクリニックがいくつもあります。表記されている内容は、医療のタイトル(例:動脈硬化症の進展予防を目的とした自己脂肪由来間葉系幹細胞治療など)、再生医療等の分類(第1種、第2種、第3種のいずれか)、そして承認時に与えられた計画番号です。
アンチエイジングで幹細胞治療を利用する場合は、クリニックがこの情報を公開しているかどうかを確認しましょう。また、クリニックに計画詳細を問い合わせ、書類などで保管しておくことをおすすめします。
2. アンチエイジングに使われる幹細胞治療
まず頭に入れておかなければならないのは、「幹細胞も老化する」ということです。組織に存在する幹細胞は、分裂を繰り返して分化した細胞を各組織に供給し、並行して幹細胞を複製することによって、体内の幹細胞を維持しています。しかし、この幹細胞も次第に分裂能力を失い、新たな細胞が供給できなくなります。このことは、ヒトの身体が老化する大きな原因と考えられています。
つまり、幹細胞を使えばなんとかなるとも限らないのです。実際、国内では幹細胞を使った「アンチエイジング」の治療は、実用化されている(厚生労働省が安全性、有効性を認めたもの)ものは非常に少なく、実用化にいたっていないと言っても過言ではない状況です。
老化が顕著に表れる組織である眼は、比較的研究が進んでいる治療方法です。iPS細胞から作成した角膜上皮細胞シートに大きな期待が寄せられています。
また、歯も老化の影響が顕著に出る部分です。歯については、「神経を抜く」、つまり歯髄を除去する治療を受けた歯はもろくなります。これは、歯髄を除去することによって「歯が一気に老化した」ととれる状況になるためです。
この改善方法として、歯髄幹細胞を用いた歯髄再生が研究されています。歯髄除去によって失われたエナメル質への物質供給を、歯髄再生によって復活させることができれば、歯髄除去に伴う歯の急速な老化現象を、食い止めることができます。
こういった技術は現時点では研究、開発段階であり、今すぐに治療を行うことはできません。しかし、眼、歯の再生はQOL(生活の質:Quality of life)の向上に大きく貢献するものであり、今後の発展が期待されています
肌のアンチエイジングは、様々な製品が売り出され、テレビでも頻繁にCMが流れるくらい関心の高い分野です。肌の維持に必要な、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸は年齢と共に細胞からの分泌量が低下し、肌のくすみ、皺などを生む結果となります。
コラーゲンなどの真皮成分の分泌は、主に繊維芽細胞が行っています。この繊維芽細胞が減ることがコラーゲンなどの分泌減少の原因の一つであるため、繊維芽細胞を供給すれば相対的に真皮成分は増えます。
しかし、この繊維芽細胞を補充するために、幹細胞からの分化を期待して幹細胞を注入したとしても、必ずしも肌の繊維芽細胞が補充されるとは限りません。幹細胞の分化は、組織を指定して分化させることは出来ず、損傷の大きい組織や生命維持に重要な組織への分化が優先されるためです。そのため、皮下に直接注入する方法が取られていることが多く、承認を受けているクリニックの多くは、第2種の再生医療として許可されているようです。
ただし、自由診療のケースが多いので、治療費が高額になることを予め考えておく必要があります。治療を受ける際にはクリニックの担当医とよく相談してから行う必要があります。
3. 幹細胞の培養液を使う治療
幹細胞を皮下に注入する以外に、幹細胞の培養液を治療に使うというクリニックがあります。
幹細胞を培養すると、様々な物質を細胞外に分泌して周囲の細胞の増殖を活性化させたりします。この成分を使うことによって、肌などの細胞を活性化させることが「アンチエイジング」とされているケースもあります。
幹細胞の培養液を用いたアンチエイジングにについては、以下の記事で解説しています。
4.まとめ
アンチエイジングとして幹細胞は期待されていますが、幹細胞や培養液の治療を行ったとしても必ず綺麗になるとはいえません。現状では、自由診療のケースも多く、またクリニックによっては治療計画書を国に提出していない可能性も考えられます。
必ず入念に下調べをしたうえで治療を受けることが何よりも大切でしょう。