この記事の概要
  • 幹細胞研究の起源は「第二次世界大戦」
  • 幹細胞は3種類!体性幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)
  • 体性幹細胞は治療で使われ始めている
  • 日本で進んでいるのは「オルガノイド研究」

みなさんも、一度は「幹細胞」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
様々な分野で注目されている「幹細胞」ですが、その実用化に向け、今もなお研究が進められています。

注目を集める「幹細胞」。
それはある日突然やってきたものではありません。長い歴史の中で、研究に研究を重ね、その実態が少しずつ明らかになってきたのです。

今回の記事では、幹細胞に関する研究の歴史について、振り返っていきたいと思います。

1.幹細胞研究の起源

幹細胞研究の起源を辿ると、公表されているデータでは「造血幹細胞の移植研究」が、幹細胞研究の始まりと言われています。

造血幹細胞は、血液がんや免疫不全などの患者さんの治療に用いられています。造血幹細胞の移植研究は、第二次世界大戦中のアメリカでのマンハッタン計画が発端となっています。マンハッタン計画とは、原子力爆弾の開発・製造に関するプロジェクトで、科学者や技術者により研究や開発が極秘で進められ、原子力爆弾が製造されたというものです。その研究・開発の中で造血幹細胞の移植に関するヒントが見つけ出されたとされています。

つまりはその歴史を辿ると、もとは軍事目的で開発された原子力爆弾の副産物だったといえます。

1960年代始めに、ジェイムズ・ティルとアーネスト・マカロックは、マウスに放射線を照射して骨髄細胞を死滅させ、再度、骨髄細胞を注射するという研究を始めました。

研究に取り組む中で、大量の放射線を受けたマウスは、造血幹細胞の働きが障害され、血液をうまく作り出すことができなくなって死んでしまいましたが、他のマウスの骨髄細胞を移植することで、その命を救えるということがわかってきました。

研究を進める中で、1つの細胞が赤血球や白血球など様々な細胞に分化すること(分化能)、また、自分と同じ細胞を作り出す能力(自己複製能)があることを証明しました。この研究によって、「幹細胞」という概念が確立されました。

1960年代後半、エドワード・ドナル・トーマスらにより、白血病患者に対する骨髄移植による治療が開始され、その手法が確立されていきました。これが幹細胞を用いた初めての臨床治療となります。

2.3つの幹細胞とその歴史

「幹細胞」は、分化の状態や由来などによって、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、体性幹細胞(adult stem cell)の3つに大きくは分類されます。

2-1.胚性幹細胞(ES細胞)の歴史

胚性幹細胞(以下、ES細胞)とは、「胚」からつくられる多能性幹細胞です。

精子と卵子が受精した「受精卵」は、細胞分裂を繰り返し、やがて胎児へと成長します。この初期の段階である胚盤胞期の胚から内部細胞塊を取り出してES細胞は作られます。

ES細胞は、イギリスの科学者であるマーチン・エバンスらによって開発されました。1981年、マウスの胚盤胞から多能性を持つ幹細胞を分離させ培養に成功したことを発表したのです。マウスから作られたES細胞は、あらゆる細胞に分化できる能力(多能性)を持っていて、シャーレの中で簡単に培養できたため、シャーレ上で遺伝子を操作し遺伝子の組み変えを行うことが可能でした。

1989年には、ある特定の遺伝子を壊し、遺伝子が欠損したマウス(ノックアウトマウス)を作ることに成功しました。このマウスと、通常のマウスを比較することによって、壊した遺伝子がどのような働きをしているのか、また既に機能が知られている遺伝子を壊すことによって、病気と遺伝子がどのように関係しているのかなどを研究するためのモデル動物をつくること可能になりました。ノックアウトマウスの開発により、2007年、マーチン・エバンスと共同研究者のマリオ・カペッキ、オリバー・スミシーズはノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

1998年にアメリカのジェームズ・トムソンらにより、ヒトの胚からES細胞を作ることに成功しました。これによりES細胞を試験管内で色々な細胞へ分化することができれば、再生医療に応用することができるのではないかと大きな期待が寄せられました。しかし、残念ながら、現時点でES細胞の実用化には至っていません。その理由として、免疫拒絶反応や倫理的問題が挙げられます。

2-2.人工多能性幹細胞(iPS細胞)の歴史

人工多能性幹細胞(以下、iPS細胞)は、誘導多能性幹細胞とも言われています。私たちの身体は、「受精卵」という1つの細胞からはじまります。受精卵が細胞分裂を繰り返しすことで、様々な臓器などに分化していきます。

皮膚の細胞は、細胞分裂をしても皮膚の細胞にしかなれません。しかし、受精後間もない細胞は、あらゆる細胞に分化できる能力をもっています。その能力を残したままシャーレの中で培養することを可能にしたのがES細胞ですが、皮膚の細胞などからES細胞と似た性質の細胞を人工的に作り出したものがiPS細胞です。

2006年京都大学の山中教授が、皮膚の細胞に4つの遺伝子を入れるだけで、ES細胞のようにあらゆる細胞に分化できると能力をもった細胞をつくり出すことに成功しました。この細胞がiPS細胞と名付けられました。

iPS細胞は患者さん自身の皮膚の細胞から作り出すことができるので、ES細胞が抱える倫理的問題や拒絶反応の問題を解決できる可能性が高く、その役割に大きな期待が寄せられています。ただ現在も実用化に至っておらず、実用化までには相当な年月がかかると言われています。

2-3.体性幹細胞の歴史

体性幹細胞は、成体幹細胞とも言われていますが、ES細胞やiPS細胞のようにどんな細胞にでもなりうる能力を持ち合わせてはいません。分化する能力は持っていますが、分化できる細胞の種類が限定されています。

例えば、血液系の細胞を作るのは造血幹細胞、神経系の細胞を作るのは神経幹細胞といったように、体性幹細胞はその役割が限られていると考えられていました。しかし、様々な研究を通し、体性幹細胞の中でも「間葉系細胞」は様々な臓器や組織に分化できる細胞であり、皮膚や脂肪、骨髄などあらゆる場所に存在していることがわかりました。ES細胞やiPS細胞に比べると、分化できる細胞は限られますが、培養には自分自身の細胞を用いることができ、すでに実際の治療に用いられているものもあります

3.現在日本で行われている幹細胞研究

多能性幹細胞により、試験管内で様々な細胞に分化させることができるようになりましたが、最近では、世界でもオルガノイドの研究が急速に進んでいます。

オルガノイドとは、本来、体の中にあって観察できない組織や器官などを、体の外(試験管など)で観察できるように人工的に作られた小さな臓器のことです。日本でも、脳や肝臓、腎臓など様々な臓器のオルガノイド作製法が開発されており、オルガノイドを用いた病気の解明や再生医療の開発が進められています。また、体細胞に特定の遺伝子を導入することで、心筋、神経、肝細胞などのさまざまな分化細胞変化させることができるということがわかってきました。

これを「ダイレクトリプログラミング」といい、その技術は、線維芽細胞を心筋細胞へ変化させることで、心筋梗塞後のマウスの心臓機能を改善させる成果が得られています。これらの研究は今後の進展が期待される研究として注目されています。

4.まとめ

「幹細胞」の歴史を振り返ると、その可能性に古くから注目していた研究者たちがいることがわかりますね。その研究の成果は素晴らしいものです。しかし、幹細胞はその実用化に向け、一部を除いて、ほとんどが研究段階であることも事実です。

現在、幹細胞が実際に活用されている治療はごくわずかです。さまざま細胞に分化できる機能をもったES細胞やiPS細胞は、たくさんの可能性を秘めていますが、実際の治療として取り入れられるようになるには、さらなる研究が必要でしょう。

もし、ES細胞やiPS細胞による治療が確立されるようになれば、これまで治療が難しかった病気を治すことができるかもしれません。また、新たな研究が実を結び、更なる可能性が拡がる日がやってくるかもしれません。

今後、これらの研究が、私たちに明るい未来を与えてくれることを期待したいですね。

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