この記事の概要
  • 脊髄は脳から連続する神経で、非常にやわらかいため、硬い背骨(脊椎)に守られている
  • これまでは脊髄を一度損傷するともとに戻ることはなく、根本的な解決策は存在しないとされていたが幹細胞治療が期待されている
  • 国内では骨髄由来の間葉系幹細胞治療の「ステミラック注」が2018年12月28日から治療が使われている

脳梗塞や心筋梗塞、脊髄損傷などの病気をご存じでしょうか。

これらの病気は、なんらかの原因により発症し、組織や神経などがダメージを受けることによりさまざまな症状を引き起こします。皮膚の細胞は損傷を受けても、もとに戻ろうとする再生機能を持っていますが、脳や心臓、神経などは、一度損傷を受けてしまったら、元には戻らないと言われていました。しかし、近年の再生医療の進歩で、再生できる可能性が広がってきています

今回の記事では、脊髄損傷にスポットを当て、脊髄損傷における幹細胞治療についても詳しく解説していきたいと思います。

1. 脊髄とそのはたらき

脊髄は、背骨(脊椎)の中を通っている神経の束で、背骨の間から脊髄神経が枝のように伸びています。

ヒトの神経系は中枢神経末梢神経の二つに分けられます。中枢神経は体に命令を出すはたらきをする脳と脊髄、末梢神経は脳から出る脳神経と脊髄から出る脊髄神経に分かれ、中枢神経からの命令を筋肉に伝えたり、感覚を中枢神経に伝えるはたらきをしています。

2. 脊髄損傷とは

脊髄は非常にやわらかいため、硬い背骨(脊椎)に守られていますが、スポーツや交通事故、外傷等により脊髄が損傷を受けると、脳からの命令を体に伝えることができなくなったり、感覚を脳に伝えることができなくなったりします。損傷を受けた部位や程度により症状は様々ですが、麻痺、しびれ、筋力の低下などを引き起こす可能性があります。

また、脊髄損傷は、損傷の程度や損傷を受けた部位によって「完全損傷」と「不完全損傷」の二つに分けられます。「完全損傷」とは、脊髄の機能が完全に失われた状態、「不完全損傷」とは、脊髄の機能の一部が失われた状態のことを言います。

3. 脊髄損傷の部位と症状

脊髄を囲んでいる脊椎は、7個の頸椎、12個の胸椎、5個の腰椎、5個の仙椎から成り、その中を通る脊髄も部位によって頚髄、胸髄、腰髄、仙髄の4つの領域に分けられていて、それぞれ手足や内臓など全身に伸びる末梢神経に枝分かれしています。

それらの領域は、頚:C(Cervical)、胸:TまたはTh(Thoracic)、腰:L(Lumbar)仙:S(Sacral)とアルファベットで表記されることがあります。枝分かれした末梢神経は出ている場所により、上からC1~C8、T1~T12、L1~5、S1~5と番号が振られています。

脊髄の損傷部位と障害の程度は以下の通りです。

損傷部位 障害の程度
C2~C5間 呼吸に使われる筋肉と四肢の部分または全筋肉の麻痺。

人工呼吸器を使用しない限り、通常は致死的。

C5~C6間 脚、胴体、手、手首の麻痺。

肩と肘を動かす筋肉の低下。

C6~C7間 脚、胴体、手、手首の一部麻痺。

肩や肘は正常に動く。

C7~C8間 脚、胴体、手の麻痺
C8~T1間 脚、胴体の麻痺。

指や手を動かす筋肉の筋力低下。

ホルネル症候群(まぶたの下垂、瞳孔の収縮、顔の片側の発汗が減少する。)肩やひじはおそらく正常に動く。

T2~T4間 脚、胴体の麻痺。乳首より下の感覚喪失。方や肘は正常に動く。
T5~T8間 脚、胴体下部の麻痺。胸郭から下の感覚喪失。
T9~T11間 脚の麻痺。へそより下の感覚喪失。
T11~L1間 股関節と脚の麻痺および感覚喪失。
L2~S2間 異なるパターンの足の筋力低下としびれ。

(損傷の正確な位置に依存)

S2~S5間 会陰部のしびれ。

引用元:MSDの名称

さらに脊髄損傷では、運動・知覚障害の他に、排尿・排便障害や自律神経調整機能の障害、性機能障害が引き起こされる場合があります。また、呼吸に使われる筋肉(横隔膜など)が麻痺したり、働きが弱くなることにより、肺炎や呼吸不全等の呼吸器に関する合併症を引き起こす可能性が高くなります。

4. 脊髄損傷の治療

これまで、脊髄を一度損傷するともとに戻ることはなく、根本的な解決策は存在していませんでした。一般的には、症状の進行を食い止めるための手術やリハビリテーションを早く行えるようにする目的での手術や、痛みやしびれの症状を緩和するための薬物療法などが行われてきました。さらに残された機能を最大限に生かし、その機能を衰退させないよう、長期的なリハビリテーションが治療の基本となります。しかし、いずれの治療法も、損傷された脊髄を改善させるための治療法ではありません。

脊髄損傷における有効な治療法は現在も確立されていませんが、注目を集めているのが幹細胞治療です。わが国では、脊髄損傷の「脊髄損傷に伴う神経症候及び機能障害の改善」を効能・効果とするステミラック注(一般的名称:ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞)が2018年12月28日に条件及び期限付承認を取得しています。

条件及び期限付承認とは、重篤な疾患等に対する医薬品をいち早く承認することが目的として導入された制度で、申請後は優先的に審査され、審査機関も短くなります。ステラミックは投与した患者さんすべてについて安全性や有効性などの報告し、そのデータにより7年後に本格的に承認となるかどうかが決まるという条件のもと承認を受けました。

5. 脊髄損傷と幹細胞治療

ステラミックは骨髄由来の間葉系幹細胞で、患者さん自身の脊髄から間葉系幹細胞を採取・培養し、点滴により注入するといった方法で使用されます。骨髄液の採取は、脊髄損傷受傷後31日以内をめどに行うという条件があります。さらに、対象者は外傷性の脊髄損傷で、ASIA機能障害尺度が A、B 又は C の患者さんに限られています。

外傷性の脊髄損傷における神経障害や機能障害の再生や抗炎症作用などにより、麻痺やしびれ、排尿・排便障害などの改善にも効果が期待されています。他の治療法同様、効果には個人差があり、劇的な効果が期待できるものでありませんが、拒絶反応や副作用も少ないとされています。薬価は一回分で1495万7755円、保険診療の対象となります。

もっと詳しく

「ASIA機能障害尺度」
A:仙髄節 S-4~S-5 に運動・知覚機能がまったくないもの。完全麻痺
B:S-4~S-5 を含む神経学的損傷レベルより下に何らかの知覚機能を残しているが、運動機能がないもの。神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存
C:神経学的損傷レベルより下位に何らかの運動機能は残っているもの

※ AISAによる重症度分類
A(完全):仙髄領域(S4~S5)に知覚または運動機能がまったくない。完全麻痺。
B(不全):仙髄領域(S4~S5)を含む神経学的損傷レベルより下に知覚は残っているが、運動機能がない。
C(不全):神経学的損傷レベルより下位に運動機能は残っているが、主要筋群の半分以上が筋力3未満であるもの。
D(不全):神経学的損傷レベルより下位に運動機能は残っていて、主要筋群の半分以上が筋力3以上である。
E(正常):知覚・運動機能は正常である。

6. まとめ

以前は、脊髄損傷の根本的な治療法はありませんでした。日々進歩し続ける医療技術により、脊髄損傷の患者さんにも希望の光が見え始めてきました。まだ、確実な治療法としては確立されていませんが、再生医療により症状の改善が見られた方もいらっしゃいます

現在も幹細胞治療の研究が進められています。ES細胞やiPS細胞の研究にも注目が集まっていますが、実用化には至っておらず、脊髄損傷の治療として国の認可を受けているのは、骨髄由来間葉系幹細胞の「ステラミック注」だけです。

これからも、その発展が脊髄損傷の後遺症に苦しむ患者さんにとって、大きな希望となるのではないでしょうか。幹細胞による治療の開発がすすめられ、ひとりでも多くの患者さんが、これまでと同じような生活を送ることができる日がくることを期待したいですね。

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