原発性胆汁性胆管炎とは、胆管が少しずつ傷つく自己免疫性の病気
原発性胆汁性胆管炎は、肝臓の中にある小さな胆管が、長い時間をかけて壊れていく慢性の肝疾患です。以前は原発性胆汁性肝硬変と呼ばれていましたが、現在は病名が変更され、原発性胆汁性胆管炎という名称が使われています。英語名はPrimary biliary cholangitisで、略してPBCと呼ばれます。
胆管は、肝臓で作られた胆汁を流す管です。PBCでは、自己免疫反応によって小葉間胆管が攻撃され、胆汁が流れにくくなります。その結果、血液検査でALPやGGTなどの胆道系酵素が上昇し、進行すると肝線維化や肝硬変、肝不全へ進むことがあります。
難病情報センターによると、PBCは中年以降の女性に多く、男女比は約1対4です。20歳以降に発症し、50〜60歳代に多くみられます。2018年の調査では全国で約37,000人と推定され、令和5年度末の特定医療費受給者証所持者数は16,344人です。
無症候性の段階では自覚症状が乏しいこともありますが、皮膚のかゆみ、黄疸、疲労感、食道胃静脈瘤、骨粗鬆症、脂溶性ビタミン不足などが問題になることがあります。患者さんにとっては、症状が見えにくい時期から長く付き合う必要がある病気です。
標準治療は、胆汁うっ滞を抑え、長期予後を守ることを目指す
原発性胆汁性胆管炎の第一選択薬は、ウルソデオキシコール酸です。一般にUDCAと呼ばれる薬で、胆汁うっ滞を改善し、胆道系酵素を下げることを目的に使われます。PBC診療ガイドライン2023年では、UDCAが胆道系酵素の低下だけでなく、肝組織像の改善、肝移植・死亡までの期間延長効果を示す薬剤として位置づけられています。
日本では、成人で通常1日600mgを3回に分けて投与し、効果が不十分な場合には900mgまで増量できるとされています。日本人PBC患者にUDCA 600mg/日を48〜132週間投与した臨床試験では、「改善」以上の改善率が81.8%と報告されています。治療の目的は、症状を一時的に抑えるだけでなく、肝疾患の進行リスクを下げることにあります。
UDCAで十分な生化学的治療反応が得られない場合には、ベザフィブラート併用が検討されます。ガイドラインでは、生命予後が良好でないと予想される例に対し、ベザフィブラート併用を検討するとされています。ただし、日本ではベザフィブラートは脂質異常症に対して保険適用がありますが、PBCそのものには保険適用外です。
進行して胆汁うっ滞性肝硬変となり、内科的治療で病気の進展を抑えられない場合には、肝移植が検討されます。黄疸、難治性腹水、肝性脳症、静脈瘤破裂、強い皮膚掻痒による著しい生活の質低下などが判断材料になります。
既存治療の限界は、すべての患者に十分な反応が得られないことにある
UDCAはPBC治療の中心ですが、すべての患者さんで十分な反応が得られるわけではありません。治療開始後のALPやビリルビンの値は、長期予後を予測する重要な指標とされています。つまり、薬を飲んでいるかどうかだけでなく、血液検査でどの程度反応しているかを見る必要があります。
無症候性PBCは、無症候性のまま経過する限り予後がよいとされています。一方で、難病情報センターでは、約10〜40%、5年間で約25%が症候性PBCへ移行すると説明されています。黄疸期になると進行性で予後不良となり、総ビリルビン値の上昇は重要な注意サインになります。
症状面でも課題があります。皮膚のかゆみや疲労感は、血液検査の数値だけでは十分に評価しにくいことがあります。骨粗鬆症や脂溶性ビタミン不足、シェーグレン症候群や甲状腺疾患などの合併症にも注意が必要です。長期管理では、肝臓だけでなく全身の状態を見ていく必要があります。
このように、PBCには有効性が確認された標準治療がある一方、UDCA不応例や進行例、症状が強い例に対する新しい治療選択肢が求められています。幹細胞治療への関心も、このアンメットニーズから生まれています。ただし、現時点では研究段階であり、標準治療を置き換えるものではありません。
幹細胞治療が注目される背景には、免疫調整と肝修復への期待がある
原発性胆汁性胆管炎に対する幹細胞治療研究では、主に間葉系幹細胞が検討されています。間葉系幹細胞は、骨髄や臍帯などに由来し、炎症を調整する作用や、傷んだ組織環境を支える作用が研究されている細胞です。PBCでは胆管周囲の慢性炎症や線維化が問題になるため、免疫調整と肝修復の両面から注目されています。
mRNAの観点では、現時点でPBCに対する幹細胞治療として承認されたmRNA医薬は確認できません。一方、MSC由来エクソソームには、mRNAやmicroRNAが含まれ、受け手の細胞で炎症性サイトカイン、線維化、細胞死、免疫細胞の働きに関わる経路を調整する可能性が研究されています。microRNAは、mRNAの働きを抑えたり調整したりする小さなRNAです。
PBCの病態では、自己免疫反応により胆管上皮細胞が傷つき、T細胞や炎症性サイトカインが関与すると考えられています。MSC研究では、制御性T細胞を増やし、炎症性T細胞の過剰な反応を抑える可能性が報告されています。こうした免疫調整の一部に、MSCが分泌する細胞外小胞やRNA分子が関わる可能性があります。
ただし、これらのmRNAやmicroRNAの作用は、主に基礎研究やレビューで検討されている段階です。PBC患者において、特定のmRNA経路を調整することで臨床効果が確実に得られると確認されたわけではありません。記事では、研究段階の知見として慎重に扱う必要があります。
国内外の臨床試験は進むが、確立した治療には届いていない
海外では、PBCに対する間葉系幹細胞治療の臨床試験が登録されています。NCT01440309では、UDCA抵抗性の原発性胆汁性肝硬変患者を対象に、同種骨髄由来間葉系幹細胞の安全性と有効性を評価する第I相試験が登録されています。予定被験者数は20例です。
NCT01662973では、臍帯由来間葉系幹細胞をPBC患者に投与する第I/II相相当の研究が登録されています。関連論文では、少数例でALPやGGT、疲労、かゆみなどの改善が報告されています。ただし、探索的な研究であり、治療効果を一般化するには十分ではありません。
NCT03668145では、UDCAに反応しないPBC患者を対象に、MSCとUDCAの併用をUDCA単独と比較する二重盲検、多施設、ランダム化、プラセボ対照試験が設計されています。予定登録数は140例とされ、3回のMSC投与を行う設計です。2026年7月時点で、標準治療化につながる確定的な主要結果は確認できませんでした。
日本国内では、PBCを効能・効果とする承認済みの幹細胞治療・再生医療等製品は確認できませんでした。また、jRCTで明確にPBCに対する幹細胞治療を対象とする国内試験も確認できませんでした。研究は進んでいますが、患者さんが通常診療として受けられる段階ではありません。
期待される効果は限定的で、安全性と長期評価が課題になる
PBCに対する幹細胞治療で期待されているのは、胆管の完全な再生ではなく、免疫反応の調整、炎症の軽減、肝線維化の抑制、肝機能指標の改善です。臨床研究では、ALP、GGT、ALT、AST、総ビリルビン、IgM、T細胞バランスなどが評価されてきました。これらは病勢を考えるうえで重要な指標ですが、長期予後を示すにはさらに検証が必要です。
特にPBCでは、治療効果を短期間で判断しにくい面があります。肝硬変や肝不全への進行は長い時間をかけて起こります。そのため、数か月の血液検査改善だけで、肝移植回避や生存期間延長につながるとは判断できません。長期追跡と比較試験が必要です。
安全性も大切です。MSCは免疫調整作用が期待される一方、細胞の由来、培養方法、投与量、投与間隔、品質管理によって結果が変わる可能性があります。点滴で投与する場合でも、感染、免疫反応、血栓、肝疾患患者特有の合併症リスクを確認する必要があります。
本記事で紹介する幹細胞治療の多くは現在研究段階にあり、すべての患者さんに同様の効果が確認されているわけではありません。実際の治療選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。とくに自由診療や海外治療を検討する場合は、承認状況、臨床試験データ、費用、長期フォロー体制を慎重に確認することが重要です。
未来展望は、標準治療の先にある免疫と再生の研究に向かう
原発性胆汁性胆管炎の治療は、UDCAを中心に長く発展してきました。今後も、まず重要なのは早期診断、UDCAによる適切な治療、治療反応の評価、合併症管理です。そのうえで、UDCA不応例や進行例に対する新しい治療が求められています。
幹細胞治療は、その候補の一つとして研究されています。MSCが免疫細胞のバランスを整え、炎症性サイトカインを抑え、肝臓の修復環境を支える可能性は、基礎研究と一部の臨床研究で示されています。一方で、胆管上皮がどこまで守られるのか、線維化がどの程度抑えられるのか、肝移植や死亡までの期間に影響するのかは、まだ明確ではありません。
mRNAやmicroRNAの解析は、今後の研究で重要になる可能性があります。PBC患者の免疫反応や胆管上皮細胞の傷害を、RNAレベルで理解できれば、どの患者さんが治療反応を示しやすいかを見分ける手がかりになるかもしれません。患者由来iPS細胞をmRNAリプログラミングで作製し、胆管上皮モデルや免疫研究に使うことも、創薬基盤として期待されます。
患者さんにとっての希望は、未確立の治療を急ぐことではなく、標準治療を受けながら、確かな研究の進展を見守ることにあります。原発性胆汁性胆管炎は長く付き合う病気ですが、血液検査、画像検査、合併症管理、治療反応評価を積み重ねることで、よりよい治療選択につながります。再生医療研究も、その未来の選択肢を広げるために進められています。
[出典]
- 難病情報センター:原発性胆汁性胆管炎(指定難病93)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/93 - 難病情報センター:原発性胆汁性胆管炎(指定難病93)概要
https://www.nanbyou.or.jp/entry/252 - 難病情報センター:特定医療費(指定難病)受給者証所持者数 令和5年度
https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/2025/02/koufu20241.pdf - 厚生労働省:令和8年4月時点の指定難病(告示番号1〜348)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_53881.html - 原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン(2023年)
https://www.kanen.jihs.go.jp/guidelines/images/PBCguideline.pdf - ClinicalTrials.gov:NCT01440309
https://clinicaltrials.gov/study/NCT01440309 - ClinicalTrials.gov:NCT01662973
https://clinicaltrials.gov/study/NCT01662973 - ClinicalTrials.gov:NCT03668145
https://clinicaltrials.gov/study/NCT03668145 - A pilot study of umbilical cord-derived mesenchymal stem cell transfusion in patients with primary biliary cirrhosis / DOI: 10.1111/jgh.12029
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgh.12029 - Allogeneic bone marrow mesenchymal stem cell transplantation in patients with UDCA-resistant primary biliary cirrhosis / DOI: 10.1089/scd.2013.0500
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24835879/ - Potential mesenchymal stem cell therapeutics for treating primary biliary cholangitis / DOI: 10.3389/fcell.2022.933565
https://www.frontiersin.org/journals/cell-and-developmental-biology/articles/10.3389/fcell.2022.933565/full - Mesenchymal stem cell-based treatment in autoimmune liver diseases / DOI: 10.1186/s13287-021-02173-4
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7887681/ - From signaling pathways to clinical trials: mesenchymal stem cell transplantation in liver diseases / DOI: 10.1186/s13287-025-04535-8
https://link.springer.com/article/10.1186/s13287-025-04535-8


