広範脊柱管狭窄症と再生医療|神経圧迫をめぐる研究の現在地

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広範脊柱管狭窄症とは、複数の場所で神経の通り道が狭くなる病気

広範脊柱管狭窄症は、頚椎、胸椎、腰椎の広い範囲で脊柱管が狭くなり、脊髄や神経が圧迫される病気です。脊柱管とは、背骨の中を通る神経の通り道です。この通り道が狭くなると、手足のしびれ、痛み、歩きにくさ、感覚障害、排尿・排便障害などが起こります。

指定難病としての広範脊柱管狭窄症では、頚椎部、胸椎部、腰椎部のうち、2か所以上の狭窄による神経症状で日常生活が大きく影響されることが診断上の条件になります。単なる腰部脊柱管狭窄症よりも病変の範囲が広く、どの部位が主な症状に関わっているかを慎重に見極める必要があります。

難病情報センターによると、男女比は2対1で男性に多く、中年以降、とくに60歳代に多くみられます。2か所以上の狭窄部位では、頚椎部と腰椎部の合併が7割を占めるとされています。令和5年度末の特定医療費受給者証所持者数は4,805人です。

原因は完全には解明されていませんが、加齢に伴う椎間板や椎間関節の変性、黄色靱帯の肥厚などが関わると考えられています。症状が進むと生活動作への影響が大きくなるため、早い段階で病態を把握し、適切な治療につなげることが重要です。

標準治療は、症状を抑えながら神経圧迫を見極めることから始まる

広範脊柱管狭窄症の治療は、症状の強さ、神経障害の程度、狭窄部位、生活への影響によって選択されます。まずは局所の安静、固定装具、消炎鎮痛薬、ビタミンB12製剤、プロスタグランジン製剤、プレガバリンなどの薬物療法が行われます。痛みが強い場合には、神経ブロックが選択されることもあります。

これらの保存療法は、痛みやしびれを軽くし、生活機能を保つことを目的とした対症療法です。脊柱管の狭窄そのものを広げる治療ではありませんが、症状の波を見ながら生活を支えるうえで重要です。症状が安定している場合には、急に活動を制限しすぎる必要はないとされています。

一方で、脊髄麻痺が明らかな場合や、保存療法でも効果がみられない場合には手術療法が検討されます。頚椎部では後方からの椎弓形成術、胸椎部では椎弓切除術、腰椎部では椎弓切除術や拡大開窓術などが行われます。必要に応じて、金属と骨移植を併用した固定術が選択されることもあります。

治療の目的は、神経への圧迫を減らし、痛み、しびれ、歩行障害、手足の使いにくさ、排尿・排便障害などの進行を防ぐことにあります。重度の麻痺に進んでからでは、手術を行っても回復が十分でないことがあるため、症状の変化を見逃さないことが大切です。

既存治療の限界は、変性した組織を十分に戻せないことにある

現在の治療は、神経の圧迫を減らすことや、痛みを軽くすることに重点が置かれています。手術で狭い部分を広げることは重要ですが、変性した椎間板や靱帯、関節、神経周囲の環境を元の状態に戻す治療ではありません。特に広範囲に狭窄がある場合、どの部位をどこまで治療するかの判断が難しくなります。

また、手術には限界があります。すでに重い脊髄麻痺が起きている場合、神経の回復が十分でないことがあります。固定術を行えば安定性を得られる一方、隣接する椎間への負担や再手術の課題もあります。保存療法だけでは症状を抑えきれない患者さんもいます。

腰部脊柱管狭窄症では、椎間板ヘルニアを併発している場合に、手術で椎間板を摘出した後の空洞や椎間板変性が問題になることがあります。椎間板は血管が少なく、栄養供給に乏しいため、自然再生しにくい組織です。そのため、摘出後の組織修復をどう支えるかが研究課題になっています。

こうした背景から、間葉系幹細胞やバイオマテリアルを用いた再生医療研究が進められています。ただし、ここで対象となる研究の多くは、広範脊柱管狭窄症全体ではなく、腰部脊柱管狭窄症や椎間板変性に関連する領域です。疾患名と研究対象を混同しないことが重要です。

幹細胞治療が注目される理由は、椎間板環境の修復にある

広範脊柱管狭窄症そのものに対する幹細胞治療は、現時点で標準治療として確立していません。一方で、関連する腰部脊柱管狭窄症や椎間板変性に対して、間葉系幹細胞とバイオマテリアルを組み合わせる研究が進められています。特に注目されるのが、椎間板摘出後の空洞部分をどのように修復するかという課題です。

AMEDと北海道大学病院の発表では、腰部脊柱管狭窄症に併発した椎間板ヘルニアを摘出した後に、高純度同種間葉系幹細胞RECと硬化性ゲルを埋植する医師主導治験が紹介されています。RECは、骨髄由来の間葉系幹細胞を特定の表面マーカーで高純度に分離した細胞です。硬化性ゲルは、移植した細胞をその場にとどめる足場として使われます。

mRNAの観点では、幹細胞やエクソソームが椎間板細胞に与える影響が研究されています。mRNAは、タンパク質を作るための設計図の役割を持つ分子です。MSC由来エクソソームには、mRNAやmicroRNAが含まれ、炎症性サイトカイン、細胞外基質分解酵素、アポトーシス、酸化ストレスなどに関わる経路を調整する可能性が報告されています。

ただし、これらは椎間板変性や腰部脊柱管狭窄症に関連する基礎研究・臨床研究の段階です。幹細胞やエクソソームによって、広範囲の脊柱管狭窄が解除されるわけではありません。神経圧迫を機械的に取り除く必要がある場合、手術療法の役割は依然として重要です。

国内外の研究は進むが、承認済み治療ではない

国内では、jRCT2013210076として、高純度同種間葉系幹細胞RECと硬化性ゲルを用いた腰部脊柱管狭窄症に対する無作為化パイロット試験が登録されています。対象は、腰部脊柱管狭窄症の診断で手術適応のある20歳以上75歳以下の患者さんです。椎弓形成術に続く椎間板ヘルニア摘出後に生じた空洞部へ、RECと硬化性ゲル、硬化性ゲルのみ、または何も埋植しない群を比較する設計です。

この研究は、広範脊柱管狭窄症全体を対象にしたものではありません。しかし、椎間板変性や術後の組織修復という観点では、脊柱管狭窄症に関連する重要な再生医療研究です。BMJ Openには、RECとdMD-001を用いる多施設共同、前向き、二重盲検、無作為化比較試験のプロトコールが掲載されています。

また、jRCTb050220120では、腰部脊柱管狭窄症に対する脂肪組織由来幹細胞移植試験が登録されています。ClinicalTrials.govにも、脊柱管狭窄症や椎間板変性に関連する幹細胞研究が登録されています。ただし、いずれも広範脊柱管狭窄症の標準治療として承認されたものではありません。

国内外を確認した範囲では、広範脊柱管狭窄症を効能・効果とする承認済みの幹細胞治療・再生医療等製品は確認できませんでした。研究段階の情報を読む際には、対象疾患、投与部位、細胞の種類、評価項目、結果の有無を分けて確認する必要があります。

期待される効果は、神経圧迫の解除ではなく組織修復の補助にある

幹細胞治療に期待される効果は、狭くなった脊柱管を直接広げることではありません。脊柱管狭窄は、骨、靱帯、椎間板、関節などの構造変化によって神経の通り道が狭くなる病態です。強い神経圧迫がある場合、機械的な圧迫を取り除く治療が必要になることがあります。

一方で、間葉系幹細胞やバイオマテリアルの研究では、椎間板摘出後の組織修復、椎間板変性の抑制、炎症の軽減、細胞外基質の維持などが注目されています。MSC由来エクソソームやmicroRNAは、椎間板細胞の炎症反応や細胞死、基質分解に関わる経路を調整する可能性が研究されています。これは、神経圧迫そのものではなく、椎間板環境を支える研究です。

残された課題は多くあります。細胞をどの部位に投与するのか、どの患者さんに適するのか、投与した細胞がどの程度残るのか、長期的に安全か、痛みや歩行機能の改善にどこまで関わるのかを確認する必要があります。椎間板や脊柱管の病態は患者さんごとに異なるため、一つの細胞治療で全体を説明することはできません。

本記事で紹介する幹細胞治療の多くは現在研究段階にあり、すべての患者さんに同様の効果が確認されているわけではありません。実際の治療選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。特に未承認治療や自由診療を検討する場合は、承認状況、臨床試験データ、費用、長期フォロー体制を慎重に確認することが大切です。

未来展望は、手術と再生医療をどう組み合わせるかにある

広範脊柱管狭窄症の治療では、神経圧迫の部位を正確に見極めることが第一です。頚椎、胸椎、腰椎の複数部位に狭窄がある場合、画像上の狭さだけでなく、症状と一致する責任病変を判断する必要があります。そのうえで、保存療法、手術療法、リハビリテーションを組み合わせます。

再生医療の未来は、手術を置き換えることではなく、手術後の組織修復や椎間板環境の維持を支える方向にあると考えられます。たとえば、椎間板ヘルニア摘出後の空洞部に細胞とゲルを組み合わせて埋植する研究は、従来の除圧手術に再生医療の発想を加えるものです。これは、神経を圧迫する構造を取り除いた後の修復環境を整える試みといえます。

今後は、細胞そのものだけでなく、バイオマテリアル、エクソソーム、microRNA、炎症制御、画像評価、歩行機能評価を組み合わせた研究が進む可能性があります。mRNAやmicroRNAの解析は、椎間板変性の進行や治療反応を理解する手がかりになるかもしれません。

患者さんにとって大切なのは、現在受けられる標準治療を正しく理解しながら、研究段階の情報を過度に期待しすぎず見守ることです。広範脊柱管狭窄症では、症状の進行を放置すると回復が難しくなる場合があります。再生医療の情報を知ることは重要ですが、実際の治療判断は、整形外科や脳神経外科の専門医と相談し、神経症状の変化を踏まえて行う必要があります。


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