神経線維腫症と幹細胞治療|神経機能を支える再生医療の考え方

目次

神経線維腫症とは

神経線維腫症は、遺伝子の変化によって神経や皮膚などにさまざまな病変が生じる遺伝性疾患です。主に神経線維腫症1型(NF1)と神経線維腫症2型(NF2)に分けられますが、両者は原因遺伝子や現れやすい症状が異なります。

NF1は、レックリングハウゼン病とも呼ばれます。17番染色体にあるNF1遺伝子の病的な変化によって、細胞の増殖を抑えるニューロフィブロミンというタンパク質が十分に働かなくなることが原因です。

NF1では、皮膚に現れるカフェ・オ・レ斑や、皮膚または神経にできる神経線維腫が代表的な症状です。神経に沿って大きく広がる叢状神経線維腫のほか、骨の変形、視神経の腫瘍、学習や発達に関する問題などがみられる場合もあります。

患者の半数以上は、両親から遺伝したものではなく、本人に新たな遺伝子変化が生じたことで発症するとされています。そのため、家族内に同じ病気の人がいなくても、神経線維腫症と診断されることがあります。(難病情報センター)

NF2は、近年「NF2関連神経鞘腫症」と呼ばれるようになりつつある病気です。左右の聴神経にできる前庭神経鞘腫を特徴とし、脳や脊髄、末梢神経に神経鞘腫や髄膜腫などが多発する場合があります。

前庭神経鞘腫が大きくなると、難聴、耳鳴り、ふらつきなどが現れます。腫瘍の位置によっては、顔面神経麻痺、手足のしびれや運動障害などにつながることもあります。(難病情報センター)

神経線維腫症では、症状の種類や程度、病気が進む速さに大きな個人差があります。皮膚症状が中心となる人もいれば、神経にできた腫瘍によって痛みや感覚障害、運動障害を抱える人もいるため、複数の診療科による継続的な管理が重要です。

腫瘍ごとに治療を選ぶ標準治療と、その限界

神経線維腫症の治療は、病型や症状、腫瘍の場所、大きさ、増殖速度などに応じて選択されます。原因となる遺伝子の変化を全身から取り除く治療ではなく、現れている病変や症状に個別に対応することが基本です。

NF1の皮膚にできた神経線維腫では、見た目や痛み、衣服との摩擦などが問題となる場合に、外科的な切除が検討されます。ただし、神経線維腫は数が多いことがあり、すべてを一度に取り除くことが難しい場合もあります。

深い場所にある神経線維腫や叢状神経線維腫は、重要な神経や血管を巻き込んでいることがあります。そのため、腫瘍を切除することで神経機能が損なわれたり、大きな出血につながったりする可能性がある場合には、手術が困難と判断されます。

症候性で手術不能な叢状神経線維腫に対しては、MEK阻害薬のセルメチニブが治療選択肢となります。国内では2022年に小児への使用が承認され、2025年8月には成人に対する用法・用量も追加承認されました。(alexionpharma.jp)

セルメチニブは、細胞増殖に関係するMEK1およびMEK2の働きを阻害し、叢状神経線維腫の増殖を抑える薬です。ただし、すべての神経線維腫に使用できるわけではなく、対象となる病変や患者の状態を専門医が判断する必要があります。

また、NF1では、神経線維腫の急速な増大、痛みの悪化、硬さの変化などがみられた場合、悪性末梢神経鞘腫瘍への変化を疑って早期に詳しい検査を行うことが重要です。悪性腫瘍が疑われる場合には、再生医療よりも先に、腫瘍に対する専門的な診断と治療が必要です。(日本皮膚科学会)

NF2では、腫瘍の大きさや聴力の変化をMRIや聴力検査で定期的に確認し、必要に応じて手術や放射線治療が検討されます。腫瘍を取り除くことができても、聴力や顔面神経などの機能を完全に守ることが難しい場合があります。

腫瘍が多発する神経線維腫症では、一つの病変を治療しても、別の場所にある腫瘍への対応が必要になることがあります。複数回の手術や長期的な検査が続き、患者や家族が身体的、精神的な負担を抱えることも少なくありません。

骨髄由来MSCから神経を支える環境を考える

間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄、脂肪、臍帯などに存在する細胞です。さまざまな細胞へ分化する能力に加え、成長因子やサイトカイン、細胞外小胞などを分泌し、炎症や免疫反応、組織修復に関わる環境を調整する働きが研究されています。

当機構では、なかでも骨髄由来MSCを、神経系の疾患に対する再生医療を考えるうえで有望な細胞の一つと捉えています。骨髄由来MSCは長年にわたって研究されており、その分泌成分が神経細胞の保護や炎症反応の調整に関わる可能性が検討されています。

ただし、神経線維腫症におけるMSCの位置づけは、腫瘍そのものを縮小させたり、原因遺伝子を修復したりする標準治療ではありません。特に活動性のある腫瘍や悪性化が疑われる病変については、MSCや培養上清液を検討する前に、腫瘍専門医による評価が必要です。

神経線維腫症では、腫瘍による神経の圧迫や、手術後の神経障害などによって、痛み、しびれ、筋力低下といった症状が残る場合があります。当機構が注目しているのは、こうした神経組織を取り巻く炎症や損傷環境に対し、MSCが持つ分泌作用を活用できる可能性です。

骨髄由来MSCの培養上清液は、MSCを培養した際に得られる液体成分です。MSCそのものは含まれていませんが、細胞が分泌した成長因子、サイトカイン、細胞外小胞などを含む可能性があります。

国内では、骨髄由来MSCの培養上清液を用いた医療を自由診療として提供している医療機関があります。しかし、神経線維腫症に伴う腫瘍を治療するものとして国の承認を受けているわけではありません。

当機構では、腫瘍に対する手術や薬物治療と再生医療を混同せず、現在の病状と治療目的を明確にしたうえで選択肢を整理することが重要だと考えています。

治験を待つだけでなく、現在の状態に合う選択肢を整理する

神経線維腫症について調べると、遺伝子治療やiPS細胞、分子標的薬など、さまざまな研究情報が見つかります。しかし、患者や家族にとって重要なのは、現在抱えている症状に対して何を相談できるのかを知ることです。

iPS細胞を用いた研究は、神経線維腫症の病態を再現し、腫瘍が生じる仕組みや治療薬の候補を調べるために進められています。一方、移植治療として利用する場合には、未分化細胞の混入や腫瘍化を防ぐための品質管理など、慎重に確認すべき課題があります。

当機構は、iPS細胞だけを再生医療の主軸とは考えていません。実際の治療につなげる観点から、長年の研究蓄積がある骨髄由来MSCと、その培養上清液に注目しています。

ただし、神経線維腫症は腫瘍性病変を伴う疾患です。そのため、再生医療を検討するときには、腫瘍の種類や活動性、悪性化の可能性を確認し、適応を慎重に判断する必要があります。

海外では、他家MSCを用いた細胞治療が、移植後合併症や神経疾患など複数の領域で実施されています。健康な提供者の骨髄に由来する他家MSC製品が承認されている例もありますが、神経線維腫症そのものに対する治療として承認されたものではありません。(Reuters)

国際幹細胞普及機構は、治験を紹介するだけの機関ではありません。患者の診断内容、腫瘍の場所と状態、現在の治療、困っている症状を確認し、実際に相談可能な再生医療の情報を整理することを重視しています。

治療を検討する際には、神経線維腫症1型と2型のどちらなのか、現在どのような腫瘍があるのか、痛みや神経症状は腫瘍の圧迫によるものか、最近急速に増大した病変がないかを確認する必要があります。

特に、腫瘍が急に大きくなった、痛みが急激に強くなった、硬くなった、手足の動かしにくさが進んだといった変化がある場合には、再生医療の相談より先に主治医へ連絡してください。

治療方針や効果は個々の状態により異なります。現在受けている定期検査や腫瘍に対する治療を自己判断で中断せず、当機構への相談とあわせて主治医にもご相談ください。

当機構では、骨髄由来MSCや培養上清液について、何を目的に検討するのか、病状に照らして確認すべき点は何かを整理します。腫瘍への標準治療を土台としながら、神経症状や生活上の悩みに対する追加の選択肢を検討することが大切です。

神経線維腫症の治療をご検討の方へ

神経線維腫症は、腫瘍の数や場所、進行の速さが人によって異なり、外見の変化や痛み、神経症状、将来の病状について患者と家族に長期的な不安をもたらす病気です。

「腫瘍がこれから増えたり、大きくなったりしないか不安」

「手術や薬以外に、神経症状へ向き合う方法を知りたい」

「再生医療について情報を知りたい」

そういった方に対して、治療の選択肢や情報を整理することは非常に重要です。

再生医療は、神経線維腫症の原因遺伝子を修復したり、すべての腫瘍を取り除いたりする治療ではありません。治療方針や効果は個々の状態により異なるため、現在の検査や治療を自己判断で中断せず、主治医にもご相談ください。

当機構では、再生医療に関する情報提供および相談対応を行っております。
ご相談をご希望の方は、下記お問い合わせフォームよりご連絡ください。

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