網膜色素変性症におけるMSC治療|神経保護から考える新たな可能性

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網膜色素変性症とは

網膜色素変性症は、目の奥にある網膜の視細胞が徐々に障害され、視機能が低下していく遺伝性・進行性の病気です。国内では指定難病の一つに定められています。

網膜には、暗い場所での見え方や視野の広さを担う杆体細胞と、中心視力や色の識別を担う錐体細胞があります。網膜色素変性症では、多くの場合、最初に杆体細胞の機能が低下するため、暗い場所で見えにくくなる「夜盲」や、見える範囲が狭くなる「視野狭窄」が現れます。

進行すると錐体細胞にも影響が及び、視力低下や色覚異常、まぶしさを強く感じる羞明、光がない場所でも光を感じる光視症などが生じることがあります。ただし、進行の速さや症状の現れ方には大きな個人差があり、生涯にわたって比較的良好な中心視力を保つ人もいます。(難病情報センター)

原因となる遺伝子は一つではありません。さまざまな遺伝子変異が関係し、遺伝形式も常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性などに分かれます。家族に同じ病気の人がいない場合でも発症することがあるため、家族歴だけでは判断できません。

診断では、視力・視野検査に加え、眼底検査、光干渉断層計による網膜の観察、網膜電図などが行われます。治療方針を検討するうえでは、原因遺伝子を調べる遺伝学的検査が重要になる場合もあります。

網膜色素変性症は、病名が同じでも原因や残されている視細胞の状態が異なります。そのため、再生医療を含む治療の選択肢についても、現在の視力だけでなく、視野、網膜の構造、進行速度、原因遺伝子などを総合的に確認することが重要です。

現在の治療で守れる視機能と、残されている課題

網膜色素変性症では、すべての患者に共通して病気の進行を止められる標準治療があるわけではありません。現在は、定期的な眼科検査によって状態を確認しながら、残された視機能を活用し、日常生活への影響を軽減する取り組みが中心となります。

遮光眼鏡を使ってまぶしさを抑える方法や、拡大読書器、音声読み上げ機器などを活用するロービジョンケアは、生活の質を保つうえで重要です。白内障や黄斑浮腫などを合併している場合には、それぞれに対する治療が検討されます。

一方、原因遺伝子が両アレル性のRPE65遺伝子変異であり、十分な生存網膜細胞が残っている患者には、遺伝子治療薬のボレチゲン ネパルボベク(製品名ルクスターナ)が国内で承認されています。正常なRPE65遺伝子を網膜色素上皮細胞へ届ける治療ですが、対象となるのは遺伝学的検査などの条件を満たす一部の患者です。(日本陸上競技連盟)

網膜色素変性症には多数の原因遺伝子があるため、RPE65以外の変異を持つ多くの患者は、この遺伝子治療の対象になりません。また、原因遺伝子が特定されても、それに対応する承認治療がまだ存在しない場合があります。

患者や家族にとって大きな負担となるのは、視野や見え方が少しずつ変化するなかで、将来の生活を具体的に予測しにくいことです。「以前は歩けた暗い道が不安になった」「人や物にぶつかることが増えた」「仕事をいつまで続けられるか分からない」といった悩みは、検査数値だけでは表せません。

現在の眼科診療や生活支援を継続しながら、残っている視細胞をどのように守るか、障害された網膜の環境へどのように働きかけるかが、次の治療を考えるうえで重要な課題となっています。

骨髄由来MSCと培養上清液から網膜を守る環境を考える

間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄や脂肪組織、臍帯などに存在する細胞です。さまざまな細胞へ分化する能力だけでなく、成長因子やサイトカイン、細胞外小胞などを分泌し、炎症や免疫反応、組織修復に関わる環境を調整する働きが研究されています。

網膜色素変性症に対するMSC研究では、投与した細胞がそのまま新しい視細胞へ置き換わることだけを目的としているわけではありません。MSCが放出する成分によって、残されている視細胞を保護し、炎症や細胞死に関わる反応を調整できる可能性が検討されています。

近年の臨床研究や総説では、網膜色素変性症に対して骨髄由来を含むMSCを用いた治療が検討されています。ただし、細胞の由来や投与経路、投与量、評価方法が研究ごとに異なるため、すべての患者に共通する効果が確立された段階ではありません。(PubMed)

当機構では、神経系の組織である網膜に対して、骨髄由来MSCが持つ抗炎症作用や免疫調整作用、神経保護に関わる働きに注目しています。特に、完全に失われた視細胞を直ちに作り直すという考え方ではなく、残されている細胞が機能しやすい環境を整えるアプローチが重要だと考えています。

骨髄由来MSCの培養上清液は、MSCを培養した際に得られる液体成分です。細胞そのものではなく、MSCが分泌した成長因子、サイトカイン、細胞外小胞などを含む可能性があります。

国内では、骨髄由来MSCの培養上清液を用いた医療を自由診療として提供している医療機関があります。しかし、培養上清液は網膜色素変性症に対する国の承認治療ではなく、製造方法や品質、含有成分は一律ではありません。

厚生労働省も、幹細胞培養上清液やエクソソームなどを用いる医療について、国内外で有効性・安全性が示され、薬事承認を得た医薬品は現時点で存在しないと周知しています。そのため、治療を検討する際には、品質管理や投与方法、説明体制などを十分に確認する必要があります。(厚生労働省)

当機構は、現在受けている眼科治療や定期検査を中断し、培養上清液だけに切り替えることを勧める立場ではありません。主治医の診療を継続しながら、追加の選択肢として検討できるかを整理することが重要です。

治験を待つだけでなく、現在検討できる治療を整理する

網膜色素変性症の再生医療について調べると、遺伝子治療、網膜前駆細胞、iPS細胞由来網膜細胞、MSCなど、さまざまな研究情報が見つかります。しかし、その多くは研究や臨床試験の段階にあり、自分が実際に受けられる治療かどうか判断しにくいのが現状です。

iPS細胞は、視細胞や網膜色素上皮細胞を作製する技術として研究されています。一方で、未分化細胞の混入や腫瘍化を防ぐための品質管理、移植した細胞を網膜へ定着させる方法、免疫反応など、慎重に確認すべき課題があります。

当機構は、iPS細胞研究だけを再生医療の中心と捉えていません。長年にわたる研究の蓄積があり、細胞から分泌される成分によって炎症や神経組織の環境へ働きかける可能性を持つ骨髄由来MSCを、有望な選択肢の一つと考えています。

海外では、他家MSCや網膜前駆細胞などを用いた網膜色素変性症の臨床研究が行われ、一部では長期的な経過も報告されています。ただし、研究結果は使用する細胞や投与法によって異なり、海外で実施されていることだけを理由に、効果や安全性が保証されるわけではありません。(フロンティアズ)

国際幹細胞普及機構は、治験を紹介するだけの機関ではありません。患者の診断内容や現在の視機能、治療歴、希望を整理し、実際に相談可能な医療の情報へつなぐことを重視しています。

再生医療を検討する際には、使用する細胞や培養上清液の由来、製造方法、品質検査、投与方法、想定されるリスク、費用、治療後のフォロー体制などを確認する必要があります。眼への直接投与なのか、点滴などによる全身投与なのかによっても、期待される作用や注意点は異なります。

また、見え方が急激に変化した場合は、網膜色素変性症の進行だけでなく、白内障、黄斑浮腫、網膜剝離など別の眼疾患が関係している可能性もあります。急な視力低下や視野の変化を感じた場合は、再生医療の相談より先に眼科を受診してください。

治療方針や効果は個々の状態により異なります。当機構への相談とあわせて、主治医にもご相談いただき、現在の検査結果や治療方針を踏まえたうえで選択肢を検討することが大切です。

網膜色素変性症の治療をご検討の方へ

網膜色素変性症は進行の速さを予測しにくく、見え方の変化だけでなく、仕事や移動、家族との将来についても患者と家族に大きな不安をもたらす病気です。

「この先、視野や視力がどのように変化するのか不安」

「現在の治療以外に検討できる選択肢を知りたい」

「再生医療について情報を知りたい」

そういった方に対して、治療の選択肢や情報を整理することは非常に重要です。

再生医療は、すべての網膜色素変性症の患者に同じ変化が期待できる治療ではありません。治療方針や効果は個々の状態により異なるため、現在の眼科診療や検査を自己判断で中断せず、主治医にもご相談ください。

当機構では、再生医療に関する情報提供および相談対応を行っております。
ご相談をご希望の方は、下記お問い合わせフォームよりご連絡ください。

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