ハイブリドーマとは?有用性や作製方法を解説!

目次

1. ハイブリドーマとは

ハイブリドーマ(Hybridoma)とは、複数の細胞が融合した細胞です。

複数の細胞、一般的には2つの細胞が融合して1つの細胞になり、細胞の中の核も融合します。

培養細胞が培養中に融合してハイブリドーマになることもありますが、融合頻度が低いため、ハイブリドーマが必要な時には人工的な方法で融合させます。

融合方法は、ポリエチレングリコールを使うポリエチレングリコール法(PEG法)、または電流を使った電気融合法が現在主流です。

 

2つの細胞が融合、さらに核も融合するため、染色体数はいったん倍になります。

ヒトの細胞の場合、染色体は2倍体ですので、融合直後は4倍体になります。

4倍体になった染色体は、培養しているうちに安定化され、2種類の細胞の性質を持った1つの細胞になります。

 

このハイブリドーマは、現在、医療、研究においてなくてはならない技術になっています。

細胞自体も重要ですが、ハイブリドーマを培養した培養液の上清も非常に重要です。

2. ハイブリドーマの有用性

抗体は、異物が体内に入ると、その異物と特異的に結合して排除する役割を持ちます。

我々の体内では、異物に対して抗体が作られ、体を防御するために使われていますが、その他にも抗体は研究などで様々な用途があります。

そのため、医学、生命科学関連のメーカーでは、抗体を人工的に生産しています。

 

抗体産生をする細胞に抗体を作らせて、その抗体を精製して製品化しますが、抗体を産生する細胞は分化した細胞のために自律的な増殖能力が弱い、またはない場合が多く、抗体産生細胞をそのまま使うと、抗体産生能力が効率的ではありません。

 

もし抗体産生細胞が自律的細胞増殖能力を持てば、細胞は抗体を産生しながら細胞増殖するため、抗体の産生能力が増加し、効率的に抗体を人工生産できます。

この用途に融合細胞であるハイブリドーマは使われています。

 

抗体産生を行うB細胞は、リンパ球の1種であり、人工的な抗体を作るために使われますが、自律的な増殖能力を持ちません。

つまり、B細胞の細胞寿命が来ると抗体生産が停止し、抗体産生効率を考えると、かなりの細胞数を確保しなければならなくなります。

そのため、自律増殖能力をもつ骨髄腫細胞をB細胞と融合させ、抗体産生能力と自律増殖能力をもつ細胞を融合細胞として作製します。

 

骨髄腫細胞は、B細胞から作られる形質細胞ががん化した細胞です。

つまり、骨髄腫細胞は、もともとB細胞なのです。

がん化したとはいえ、骨髄腫細胞とB細胞は、もとは同じ細胞ですので、ハイブリドーマを作る際には、融合しやすい、安定化しやすいという利点があります。

 

医学、生命科学に詳しい方の中には「細胞を使わずに、動物に抗原を注射して抗体を作らせれば良いのではないか。」と考える方がいらっしゃるかもしれません。

その方法は、確かに人工的に細胞で抗体を作るよりは効率が良さそうですが、動物を使って作った抗体には欠点があります。

 

動物を使って抗体を作る場合は、抗原を動物体内に注射、または注入し、一定期間を過ぎた後に採血します。

その血清から、中に含まれている抗体を精製しますが、その抗体は抗原が持ついくつかの抗原決定基(エピトープ)を認識して作られるため、抗原のパターンが統一された1種類ではなく、それぞれの抗原決定基に依存した複数の種類になってしまいます。

 

このような抗体は使えないことはないのですが、抗原決定基が互いに異なる抗体分子の混合抗体となってしまうため、品質などにばらつきが生じてしまいます。

同じタンパク質の抗体であっても、抗原決定基によっていくつかの種類の抗体分子ができてしまうわけです。

このような方法で作られた抗体は、ポリクローナル抗体と呼ばれます。

 

一方で、ハイブリドーマから産生される抗体は、用いる抗原の抗原決定基を1種類にすることができるので、1つの抗原決定基から作られた1種類の抗体のみが産生されます。

この抗体は、抗原特異性も単一で一定のため、定量性が必要な研究などに適した抗体になります。

この抗体は、ポリクローナル抗体に対して、「モノクローナル抗体」と呼ばれています。

 

この方法は、1975年にドイツのジョルジュ・J・F・ケーラー博士とアルゼンチン出身のセーサル・ミルスタイン博士(後にイギリスに帰化)によって開発され、1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

特にミルスタイン博士は、モノクローナル抗体の有用性を早くから予見し、商用利用するための研究も行い、組み換えDNA技術を用いたモノクローナル抗体の医療用薬品としての可能性を予言していました。

3. モノクローナル抗体の作製ステップ

ハイブリドーマに生産させたモノクローナル抗体を製品化するためには、培養液の培養上清が非常に重要です。

モノクローナル抗体の作製ステップを見てみましょう。

 

まず、抗体産生細胞と自律的細胞増殖能力を持つ細胞を融合させてハイブリドーマを作ります。

このハイブリドーマの中から、目的の抗原特異性を持つハイブリドーマのみを選別します。

このステップはスクリーニングという方法で行います。

そしてスクリーニングで選別したハイブリドーマを培養します。

 

このハイブリドーマは目的の抗体を産生しますが、抗体は細胞中に維持、蓄積されるわけではありません。

ハイブリドーマによって作られた目的抗体は、分泌物としてハイブリドーマの細胞外、培養液中に分泌されます。

 

ある程度の時間ハイブリドーマを培養した後、細胞を除いた培養液を回収します。

この培養液中にモノクローナル抗体が含まれていますが、この段階では他の分泌物も含まれているために、抗体の純度が低く、製品レベルではありません。

 

この培養上清からモノクローナル抗体を精製していくのですが、この精製ステップは効率よく、かつ高純度で精製すればするほど商品価値が高くなるので、各メーカーで技術開発競争が激しい部分になっています。

ここでは、一般的な原理を紹介しましょう。

 

まず、抗体が結合するタンパク質などを付着させたビーズを、カラム(筒状のもの)に充填します。

そこへ、回収した培養上清を流し込みます。

培養上清は、カラムの中を通過しますが、このときに培養上清に含まれたモノクローナル抗体は、ビーズに付着しているタンパク質によって捕捉されるために、カラムから流れ出しません。

カラムから流れ出すのは、培養上清の液体成分と、ビーズに捕捉されなかったタンパク質などの文句ローなる抗体以外の不純物です。

 

モノクローナル抗体は捕捉されているため、液体を流してもカラムから流れ出しません。

これを利用して、洗浄目的の試薬で何度もカラムを洗浄します。

このステップで、カラム内のモノクローナル抗体以外の不純物はカラム外に排出され、カラム内にはビーズとタンパク質に捕捉されたモノクローム抗体だけになります。

そしてビーズのタンパク質とモノクローム抗体が分離する条件を持った試薬を流し込むと、モノクローム抗体はビーズから離れて、流れ出します。

この流れ出した液体を回収すれば、それが高純度のモノクローナル抗体が手に入ります。

この原理は、幹細胞の培養上清から有用成分を抽出する時にも使われています。

4. ハイブリドーマの未来

医学、生命科学の分野で、革命的と言われている技術はいくつかあります。

iPS細胞の樹立はその典型的な例ですが、ハイブリドーマの作製方法開発と、モノクローナル抗体生産方法の確立も革命的な技術でした。

 

ハイブリドーマの作製によって、複数の細胞が持つ性質を1つの細胞に集約させるという技術は、今後の医療技術の発展の鍵を握る技術の1つです。

当然、幹細胞と別の細胞を使ってハイブリドーマを作り、幹細胞の性質と別の細胞の性質を持つ細胞を作るということも今後行われていくでしょう。

そして、それらの細胞に有用な物質を作らせて、培養液の上清からその物質を回収するという、細胞を工場として使う方法は今後増加していくと考えられています。

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