- GMPの原理原則を解説
- 再生医療における3つの柱「GMP」「QMS」「GCTP」
- 国の予算に頼らず、産業化して経済として動かすことが必要
再生医療では、「幹細胞(自家・他家に関わらず)」「iPS細胞」などが製品となります。どんな製品であっても、安全性については製品自体、そして製造段階で、一定の品質保証については品質管理で保証する事が必要です。
幹細胞などの再生医療関連製品は、医療に関わる製品ですので、人の生命にダイレクトに影響するものが多く、安全性、品質確保と管理が注意深く行われなければなりません。そのために日本ではいくつかの法律によって幹細胞を製造する方法、過程、そして品質管理について管理されています。
この記事では、この製造・品質管理などの柱となる「GMP」と、「QMS」「GCTP」について解説します。
1. GMPとは
GMPは、Good Manufacturing Practiceの略で日本語では「適正製造基準」と訳されます。ただし、もともと医薬品に関する基準なので、「医薬品適正製造基準」とも呼ばれます。
このGMPは、次の原則から成り立っています
- 人為的ミスを最小限にする事
- 汚染及び品質低下を最低限にする事
- 信頼性の高い品質保証システムを構築する事
- すでに確立した製品と同等品質の製品を恒常的に作る事
具体的には、製造業者、製造販売業者に適正製造規範を求める事です。適正製造規範とは、製造管理・品質管理基準を意味します。
医薬品の場合の品質管理は、
- 医薬品原材料の入手に伴う検品
- 医薬品の製造
- 商品として包装する業務
- 出荷管理
- 製品を保管する業務
- 製品を回収処理
- これらに関わる業務
を指します。
国内の製造業者・製造販売業者だけでなく、日本に輸入されるのであれば、海外の業者にも適用されます。医薬品製造では、「医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法または薬機法)」が基となって医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GMP省令)を守る事が必要です。
省令とは、省の長である大臣が定める命令のことを指します。国の行政機関の長は、それぞれその機関の権限に関する事項について命令を発する権限を持っています。(国家行政組織法12条、13条)
このGMPは日本国内の基準ではなく、アメリカ食品医薬品局(FDA)の医薬品、連邦食品、化粧品法内にある、薬品の製造規範が基礎になっています。
これは国連で採用勧告され、日本では1980年にGMP省令が出されました。1994年には医薬品製造業の許可要件になっており、医薬品製造業者はGMP省令を遵守する事が定められています。
この適用は、製造業者のみならず、臨床試験を行う医療機関にも適用されます。科学技術の進歩に伴い、法律は整合性がとれない部分も出てくるので、その時の医療状況に合わせてたびたび改訂されています。
1-1. 製造所がやらなければならないこと
製造所の施設は、品質を維持することを目的とし、「清掃」「キャリブレーション(校正)」「定期点検」を適切に行う必要があります。また、厚生労働省からの省令である、薬局等構造設備規則の遵守、他にも生物由来医薬品、無菌医薬品、原薬の製造と管理、品質の管理についての規定があり、遵守が求められます。
製造所は、製造部門と品質管理部門を独立体制に置き、製造管理者が監督しなければなりません。これらの部門の業務を行うにあたって、製造分門は標準作業手順書や製造指図書に従って、品質管理部門は品質管理監督システム基準書などに従って業務を行わなければなりません。
2. 再生医療における「3つの柱」
再生医療においては、GMP、QMS、GCTPという3つの柱で高品質の製品を流通させようとしています。
QMSは、Quality Management System(品質管理システム)の略語です。似たようなものにISO13485がありますが、それとほとんど同じものです。医薬品業界では、ISO13485よりも、QMSへの対応が求められています。
GCTPは、Good Gene, Cellular and Tissue-based Products Manufacturing Practiceの略語です。再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準を定めたものです。これは省令として出されています。(再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令:平成26年度厚生労働省令第93号)
現時点で再生医療、幹細胞、iPS細胞を用いた医療は、完全に確立されたものではなく、試験段階にあるものが非常に多いのが特徴です。ここまで説明したGMP、QMS、GCTPは、製品の製造管理、品質管理について規定を定めたものです。
治験段階にある製品に対しては、2015年の日本再生医療学会総会において、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の再生医療製品等審査部担当者が以下のように説明をしています。
「再生医療の治験製品は、有効性及び安全性が確立されていません。また試験段階ですので、マニュアルによって行われる事が多く、臨機応変に方法が変わる事があります。治験製品と市販後製品の違いは、製造上の違い、すなわち規格や製造方法が確立していないことが根本にあるという事を認識しなければなりません。」「そのため、開発段階、治験段階での品質の確立は発展途上であり、通常の製造方法、製品管理と同レベルにGCTPの運用は不合理となります。そのため、この段階では科学的でリスクに基づいた運用が求められます。」
「開発、治験段階が進むに従って求められる品質、安全性レベルは上昇していくので、柔軟に対応する事によって品質レベルを維持していく事が求められます。」
「これらの事柄は、再生医療研究の進歩に伴って、細目が変更されていくものと考えられますが、根本は変わらないと予想されています。」
3. リスクに即応できる再生医療を
再生医療に関わる規制は、特にバリデーションに着目されている印象があります。
バリデーションとは医薬品、医療機器を製造する方法やステップが正しいかどうかを検証する業務です。行われている業務について、科学的根拠と科学的な妥当性があるかどうかを調査します。
そのためGMP省令では、「製造所の構造設備、ならびに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法が期待される結果を与える事を検証し、これを文章化すること」と定められています。
新たに起こる、または予想されるリスクに対して柔軟性をもって対応するためには、リスクが発生したときの手順を予め決めておく必要があります。特に医療品、医療機器は「個体差」が存在する人間の身体に対しての製品のため、工業的な製品(車、家電など)とは異なった規定が必要となるために策定されたものです。
4. まとめ
再生医療が一般化されると、それに伴い再生医療に必要な薬品、細胞の製造が産業化されます。幹細胞の保存、iPS細胞の作製、保存は統一された基準で行われないと安心して治療を受ける事ができません。
将来の産業化を見越して、今のうちから法律を整備しておく事は重要であり、その法律は状況に即したものでなければなりません。状況に即したものでなかった場合、せっかくの先端医療を受けることができない、受けるまでに時間がかかるという事態が生じかねません。
また、大規模製造を可能としておかないと、治療のために必要な薬品、細胞の単価が高くなり、高額な医療となることで治療を断念する人が出てくるかもしれませんし、高額医療費制度による国の負担が増大します。
国の負担だけならば我々国民には直接の影響はないように思えますが、国の予算内にあるものは、その時々の政策方針によって削減されてしまったりする事があります。それを避けるためにも、産業化して経済として動かすことが必要になります。
現在、幹細胞、iPS細胞を扱う施設は、多くがGMP準拠を明記しています。「患者が安心してその医薬品(幹細胞、iPS細胞を含む)を使えるために、医薬品製造所が行うべきこと」と「誰が作業しても、いつ作業しても、高い品質かつ同じ品質の製品を必ず作る必要がある。そのために行うべきこと」がGMPを含む、様々な再生医療についての規定の柱です。
概念的に解釈すると、
- ルールを決めて書類化する
- 書かれた内容を守って業務を行う
- 内容を見直し、改善すべき点を見つける、抽出する
- 実際に改善する
このサイクルを再生医療について定めたものがGMPと関連する省令になります。規制というと再生医療の進歩を抑制するように思えますが、安心して受けられる医療の確立のために必要不可欠な事柄なのです。