自家末梢血幹細胞移植、ペグフィルグラスチムの国内フェーズ2が開始

目次

1. 持続型G-CSF製剤、ペグフィルグラスチムとは

協和キリンは2021年9月、持続型G-CSF製剤のジーラスタ(一般名:ペグフィルグラスチム)の適応拡大を目的とした国内フェーズ2試験を開始することを発表しました。

ペグフィルグラスチムは、キリン・アムジェン社より導入し、協和キリンが販売している遺伝子組み換えによって作られる持続型G-CSF製剤です。

G-CSF(Granulocyte Colony Stimulating Factor:顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤は、骨髄の中にある顆粒球系、特に好中球の分化と増殖を促進する作用と、好中球の機能を亢進する作用、好中球がアポトーシスによって細胞死誘導されることを抑制する作用で、好中球の減少に対して効果のある薬です。

好中球は白血球の一種ですが、ペグフィルグラスチムは好中球を選択的に増加させて機能を亢進させるので、主に抗がん剤投与の患者に使われます。

抗がん剤を使った、がん化学療法の副作用として、発熱性好中球減少症があります。

好中球減少症は、血液中の好中球が減少し、程度によっては細菌、真菌の感染症に罹るリスクが増大し、好中球減少症の患者が感染症を起こした場合は重症になる傾向にあります。

多くの抗がん剤はこの好中球減少症が副作用として発症する可能性が高いため、ペグフィルグラスチムのようなG-CSF製剤を投与して、好中球の減少を抑制します。

2. ペグフィルグラスチムの適応拡大第1段階

このペグフィルグラスチムの適応について、2021年3月に協和キリンは、同種末梢血幹細胞移植のための造血幹細胞の末梢血中への動員に関する適応拡大申請を厚生労働省に行いました。

同種末梢血幹細胞移植は、患者に移植する造血幹細胞をドナーから採取することが必要です。

現在、この造血幹細胞をドナーから採取するためには、連日投与型のG-CSF製剤をドナーに1日1回、または2回の皮下投与を連日行います。

多くの場合、投与を始めてから4日から6日目にアフェレーシスという血液成分分離装置を用いた血球成分の分離と採取が行われます。

G-CSF製剤は、末梢血中における造血幹細胞の増加を誘導するので、この製剤を投与して採血すれば、その血中には通常よりも多くの造血幹細胞が含まれるため、製剤を投与しない場合よりも少量の採血で必要量の造血幹細胞を確保できます。

しかし、G-CSF製剤の効果を維持するためには、毎日投与しなければならないので、ドナーに負担をかけることになります。

しかし、ペグフィルグラスチムは持続型のG-CSF製剤のため、連日投与が必要ありません。

一度投与すれば、その効果は持続するので、ドナーの投与負担が少なくなります。

この目的のためにペグフィルグラスチムを使うことを、協和キリンは3月に厚生労働省に「適応拡大申請」として提出しています。

3. ペグフィルグラスチムの適応拡大の第2段階

そして今回発表されたペグフィルグラスチムの適応拡大のために行う臨床試験は、ドナーから患者に造血幹細胞を移植する治療方法のためではなく、患者自身から採取した造血幹細胞を移植する治療に使うための試験です。

この方法は、自家末梢血幹細胞移植と呼ばれ、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍に対する治療方法として使われています。

多発性骨髄腫は、形質細胞のがんであり、がん化した異常な形質細胞が骨髄などで制御が外れた状態で増殖する疾患です。

骨の痛み、骨折が典型的な症例で、腎臓機能の障害、免疫機能の低下による感染症、筋力低下なども見られます。

化学療法として、コルチコステロイド、プロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブ)、免疫調節剤(レナリドミド、サリドマイド、ポマリドミド)、そしてモノクローム抗体(ダラツマブ、エロツズマブ)が使われ、コルチコステロイドと他の薬剤を併用する形で投与する方法が行われます。

また、パノビノスタット(商品名ファリーダック)という非選択的ヒストン脱アセチルか酵素阻害薬も併用されることがまれにありますが、副作用が非常に強くなるため、誰にでも使える化学療法ではありません。

悪性リンパ腫は、白血球の中のリンパ球ががん化したものです。

リンパ球は、B細胞、T細胞、ナチュラルキラー細胞などに分類され、これらががん化することによって無制限増殖し、自分自身を攻撃します。

非ホジキンリンパ腫であれば、放射線療法、抗がん剤を使った化学療法が大きな効果を挙げることがわかっています。

他のリンパ腫の場合は、進行度合いなどを判断して、外科的治療(手術)を含めた治療が検討されます。

これら2つに共通するのは、どちらも血液のがんに分類されることです。

そのため、治療ではがん化した血球成分を取り除き、正常な血球成分を補給することが柱になります。

そのため、健常なドナーからの造血幹細胞の移植、または自分の正常な造血幹細胞を移植することが効果的になります。

拒否反応を考えれば、自分の正常な造血幹細胞を移植した方が治療の成功可能性が上がります。

そのためには、まず患者自身から造血幹細胞を採取する必要があります。

現在使われているのは、同種末梢血幹細胞移植に使われているものと同じ連日投与型G-CSF製剤です。

投与パターンはいくつかあり、連日投与型G-CSF製剤を単独投与、連日投与型G-CSF製剤とケモカイン受容体のCXCR4に対する受容体拮抗薬であるプレリキサホルを併用投与する方法が主に使われ、末梢血中に造血幹細胞を動員して、血液成分分離装置を使ったアフェレーシスで血球性分を分離・採取します。

この場合も、連日投与型のG-CSF製剤は、毎日投与するという負担を患者に与えることになります。

協和キリンは、持続型G-CSF製剤のペグフィルグラスチムを使うことによって、この負担を軽減しようという狙いから、今回の臨床試験を行っています。

4. 臨床試験の詳細

まず試験名は、「多発性骨髄腫及び悪性リンパ腫患者を対象とした KRN125 による造血幹細胞の 末梢血中への動員に関する臨床試験」となっています。

KRN125は、ペグフィルグラスチムをペグ化した製剤です。

ペグ化という処理は、ポリエチレングリコールを化学的に結合させる処理です。

ペグ化したものは、体内での分解が抑制される、また体外への排出が減少するため、薬剤が比較的長期間体内に残るため、薬剤の作用時間を延伸させることが可能になります。

対象は、多発性骨髄腫及び、悪性リンパ腫患者で、目標の被験者を64名に設定しています。

試験の評価は、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫患者にKRN125を投与し、設定したアフェレーシス期間に採取されるCD34陽性細胞(造血幹細胞と判断される細胞)の数が、予定数を越えるかどうかで判定します。

そして試験終了は、約1年後の2022年10月を予定しています。

行う施設は1つに限定せずに、多施設共同試験として行います。

さらに、単回投与した場合、つまり患者の投与負担を最小限にした場合の有効性、安全性を調査します。

5. 患者の負担を最小限にするがん治療の開発

がんの治療は、放射線療法、抗がん剤を使った化学療法に見られる副作用、そしてがんの除去を目的とした手術による治療など、いずれも患者の身体、精神状態に大きな負担をかける治療です。

その負担を少しでも軽減しようとする研究が現在注目されており、患者に負担をかける「侵襲性のある治療」の対極として、「非侵襲性の治療(または“より非侵襲性”という比較による表現)」が注目されています。

幹細胞、または幹細胞の研究で得られた知見は、この患者負担の軽減において非常に有用なものであり、国からの研究費の他にも、民間の研究助成金など、多くの研究資金が投入されています。

そしてこのG-CSF製剤のように、厚生労働省に認可されていた適応以外に効果が見つかった場合は、積極的な適応拡大の申請、試験がされていくものとして期待されています。

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