1. 幹細胞を使った慢性疼痛治療

お茶の水セルクリニックは、関節痛などへの幹細胞治療をメインにしているクリニックです。

このクリニックが、2021年9月から、慢性的な痛みの解決に幹細胞を使うことを発表しました。

この慢性的な痛みは、“疼痛”と呼ばれるもので、日本では国民の4人に1人が抱えている問題で、“慢性疼痛”という名で呼ばれることもあります。

疼痛は多くの先進国で、医師を受診する理由の最上位です。

ケガのみならず、多くの疾患につきものであり、なおかつ重大な症状でもあります。

ヒトの身体機能を妨げるだけでなく、それによる生活の質(QOL: Quality of life)を下げる大きな問題でもあります。

安楽死の議論においても、「痛みは、終末期の人々の安楽死を正当化する十分な理由になる」と述べている有識者もいます。

国際疼痛学会(IASP: International Association for the Study of Pain)は、疼痛の定義を、「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは、進行性の悲がん性疼痛に基づく痛み」としています。

おおよそ、3ヶ月以上続く痛み、とされており、日本では国民の約23%がこの痛みを抱えていると予想されています。

痛みを抱えている年代も、若い世代から高齢者まで幅が広く、痛みの原因の特定が困難である事から、適した治療の選択が困難です。

用いられている治療方法としては、鎮痛剤などを使った薬物療法、神経ブロック療法、そして認知行動療法、リハビルを実施し、痛みを解消するというよりは、痛みを和らげるという治療が一般的です。

慢性的な痛みが長期間にわたって継続すると、生活の質の低下が顕著となります。

食欲減退に伴う体重減少、この結果疲労を感じやすくなった、運動する気力の低下が起こり、痛みが別の疾患の原因になる可能性があります。

さらに、痛みは睡眠障害を誘導するケースも見られ、生活、身体に様々な悪影響を及ぼします。

この対策は、なるべく早く痛みを緩和する、改善することが重要ですが、根本的な解決ができる治療方法は開発が困難であり、現在も確立されていません。

急激な痛み、つまり急性痛はなんらかの傷害などで体表面、身体の内部で起こりますが、この痛みは身体への警告信号であり、診断・治療方法が確立されている場合がほとんどです。

しかし慢性疼痛は、原因を特定できない場合も多く、なおかつ痛みの原因が治癒した後にも痛み自体は残存するというケースが多く見られます。

現代の科学では、人体の全てを把握しているわけではないので、未解明の部分が原因となった場合、例えば神経の可塑的変化、神経炎症などによる痛みの可能性もありますし、心理社会的要因をキッカケとして、中枢神経系の変化が生まれて慢性疼痛が発生している場合もあります。

2. 幹細胞を使った疼痛治療

獨協医科大学は、神経因性疼痛、つまり神経の何らかの変化によって疼痛を発生するモデルマウスを作製し、脂肪由来間葉系幹細胞を移植して効果があるかどうかを試験しました。

マウスが自発痛関連行動をするかしないかでデータを取ったところ、脂肪由来間葉系幹細胞を移植した場合のマウスで痛みの改善を示す行動が確認されました。

このような研究は、他の研究機関でも行われており、これらの知見を実際にヒトに応用した治療方法がこの幹細胞治療になります。

お茶の水セルクリニックは、関節などの靱帯における機能的な部位の“痛み”を専門にしています。

この痛みに対して、クリニックは幹細胞を用いた治療を行っています。

痛みに対しての幹細胞治療の有効性については、獨協医科大学などで効果が確認されています。

使う細胞は、自己脂肪由来幹細胞で、自分の身体由来の幹細胞を使うことによって拒否反応を防ぎ、移植した細胞の定着効率を高めます。

治療の対象となる患者は、他の標準治療を3ヶ月間行っても、効果が見られない場合の選択肢としています。

今後、臨床データが充実してきた場合は、中心的な治療になる可能性がありますが、現時点では標準治療でも改善が見られない慢性疼痛に限って、幹細胞治療を用います。

幹細胞には、傷ついたところに集まり、損傷した部分の血管の新生、欠損した部分の修復を行うという習性があります。

慢性疼痛の治療にはこの習性を使うのですが、痛みの原因がはっきりしない場合が多いので、全身循環が期待できる点滴による体内投与を行います。

この方法によって、慢性疼痛の原因部位が正確にわかっていなかったとしても、もして疼痛の原因がいずれかの組織、部位の損傷であれば、その部分に幹細胞が集結し、欠損部の補修を行います。

この補修がある程度のレベルに行くと、疼痛が改善されるという期待のもとに行われる治療がこの慢性疼痛に対する幹細胞治療です。

3. 自己脂肪由来幹細胞の採取はどうやって行うのか?

この治療は自分の幹細胞を使うことによって拒否反応を防ぐことができると先に述べましたが、自己脂肪由来幹細胞はどのように採取するのでしょうか?

採取のために手術という事になると、身体への負担も大きくなってしまいます。

ここでは、自己脂肪幹細胞の採取方法の一例を解説します。

大まかな部分では同じですが、細かい部分はクリニックによって、また患者の状態によって異なります。

使う細胞は、皮下脂肪の細胞群に含まれています。

ターゲットとする脂肪は、下腹部のケースが多く、採取時には約5 mm程の切開が必要です。

切開後、ここから脂肪を採取しますが、米粒2粒程度の脂肪が採取できれば、自己脂肪幹細胞採取の第一ステップは終了です。

米粒2粒程度の脂肪に含まれる脂肪由来幹細胞をそのまま治療に使うわけにはいきません。

治療に使う幹細胞はかなり多量であり、脂肪からそのまま採取して使うとなると、かなりの量の皮下脂肪を採取しなければならず、大きな手術になってしまいます。

そのため、ごく少量の脂肪を採取し、そこから脂肪由来の細胞を単離します.

単離された脂肪由来幹細胞は、培養施設で人工的に培養されます。

この培養は増殖させることが目的で、数週間かかります。

数週間かけて脂肪由来幹細胞を増殖させる時に、幹細胞単離の際に混入している他の細胞などを除去し、少しずつ幹細胞の純度を上げていきます。

最終的には、含まれている細胞がほぼ全て脂肪由来幹細胞である細胞溶液が完成します。

完成した幹細胞溶液は、人体への投与に適した成分に調整され、点滴、また患部がある程度特定されている時には関節への注射などで人体に投与されます。

多くのスポーツ選手が行っている多血小板治療(PRP治療)に似た治療ですが、PRP両方の場合は血小板を人工的に濃縮するのに対して、この幹細胞治療では、幹細胞が自己増殖できるという性質を使って、投与に十分な量を確保します。

幹細胞の特徴の1つに、細胞分裂による自己増殖があるため、この性質を利用して幹細胞を人工的に増やして投与量を確保することができます。

さらに、脂肪から採取した幹細胞は、凍結保存しておくことができます。

もし、1回目の治療で効果が得られない、効果が弱かった場合、保存している自分の幹細胞を解凍して再度増殖させ、前回よりも多くの幹細胞を使って高濃度の細胞溶液を作成して治療に使うことも可能です。

自分の幹細胞を凍結保存しておき、必要な時に解凍して使うという方法は、将来的には疼痛治療に限らず、自己由来幹細胞を使う治療方法全般で一般的な方法として定着することが考えられます。

また、現時点では幹細胞治療による慢性疼痛治療は、標準治療を3ヶ月続けて行い、効果が出なかった患者のみとされていますが、今後の研究の進展で、疼痛メカニズムの理解度の進み具合では、幹細胞による治療が標準治療になる可能性も考えられます。