1. 上皮細胞と上皮幹細胞

上皮細胞は、身体内の「表面」にある細胞の総称です。具体的には、からの表面を覆っている表皮、腸などの臓器の表面部分を構成する「上皮」が中心です。さらに、外分泌腺を形成する腺房細胞、内分泌腺を形成する腺細胞、そして肝細胞、尿細管上皮などの物質を吸収する、分泌する細胞も上皮に含まれます。

上皮細胞が形成する組織は上皮組織と呼ばれます。ただし、上皮組織には、上皮細胞以外の細胞も含まれる場合があります。上皮組織に分類される組織は、体全体の表面(体表面)、管になっている臓器(消化管、呼吸器、泌尿器、生殖器など)、体腔(心膜腔、胸膜腔、腹膜腔)であり、細胞が積み重なって層状の構造をしています。

典型的な特徴としては、細胞同士が密着して並んでいることです。細胞と細胞の間の細胞間質と呼ばれる部分がごくわずかで、上皮組織を構成巣細胞はこの密着した環境で、複雑な細胞間相互作用を行って機能しています。

上皮幹細胞は、ある程度分化の方向性が決まっています。例えば、腸の上皮幹細胞は情の上皮細胞、精巣の上皮幹細胞は精巣の上皮幹細胞に分化するとされています。しかしこれは体内の中での現象を観察して得られた知見であり、精巣上皮幹細胞は精巣にあるから精巣上皮細胞に分化するだけであり、他の組織に移植すれば別の上皮細胞に分化するのではないかと考える研究者もいます。

2. 再生医療と上皮幹細胞

上皮幹細胞を使った再生医療において、現在研究が進行しているのは腸管上皮細胞と、角膜上皮細胞です。また、上皮細胞の細胞シートを人工的に作製すると、その細胞群の中に上皮幹細胞、上皮前駆細胞が含まれ、再生医療に応用可能である事もわかってきています。

上皮幹細胞は、人工培養による培養条件によって、腸管から採取した上皮幹細胞でも他の組織、器官の上皮細胞の性質を持つ細胞に分化させるという技術が確立されつつあり、今後、上皮幹細胞を使った再生医療は大きく飛躍することが期待されています。

また、iPS細胞から上皮細胞を作製する時にも、目的の組織に合致した上皮幹細胞にいったん分化させて移植し、体内で最終分化型の細胞に分化させるような技術も確立されつつあります。

ここでは、上皮幹細胞を使った再生医療の代表例である、腸管上皮幹細胞、角膜上皮幹細胞、そして人工的な上皮幹細胞培養による再生医療へのアプローチを解説します。

3. 角膜上皮幹細胞

角膜は、眼に光を取り入れる役割を持ち、光を屈折させることによって水晶体と共にピントを合わせる機能も持っています。角膜は血管を持たない組織で、必要な酸素、栄養は、表面を覆っている涙から取り入れています。この角膜が損傷を受けたり、機能しなくなる、また血管が入り込むことによって透過性が失われると、視力の低下、失明をまねきます。

角膜の疾患には、角膜上皮幹細胞が失われるものがあり、角膜上皮幹細胞の枯渇は、上に挙げたような症状を起こすことがあります。この解決策として、角膜移植が以前から行われてきましたが、ドナーの絶対数の不足、拒否反応のリスクなど、いくつもの問題を抱えていました。さらに、移植した角膜は拒絶反応などによってそれほど長期間機能を保つことができないことも大きな問題です。

この解決策として、iPS細胞で角膜上皮細胞のシートを作製し、患者に移植する方法が開発されています。iPS細胞を使って角膜上皮細胞に分化させ、その角膜上皮細胞を使ってシート状の細胞の集団構造を作ると、細胞集団の中には角膜上皮幹細胞が含まれ、角膜上皮細胞が枯渇してしまった患者に上皮幹細胞を供給できると考えられています。

細胞は、単体の場合と、細胞群、つまり細胞集団を使った場合を比べると、細胞集団での細胞の挙動は複雑です。これは複数の細胞同士が隣り合わせになる事によって、細胞間相互作用が起こるからだと考えられています。角膜上皮細胞はiPS細胞から分化させますが、この細胞を集団にしることによって細胞間相互作用が起こり、角膜上皮幹細胞、または角膜上皮前駆細胞が出現するのではないと考えられています。

4. 腸管上皮幹細胞

消化管の疾患は多種多様ですが、その中で、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患、上皮再生成不全をまねく疾患、そして内視鏡を使った粘膜切除後の粘膜損傷など、上皮再生が治癒のためには必須である疾患はかなりの割合を占めます。

腸管上皮細胞は、粘膜のバリアを構築することで、腸内細菌と腸管上皮組織を分けており、免疫担当細胞にシグナルを与えて腸管免疫系を制御する重要な細胞です。腸管上皮幹細胞は、この腸管上皮細胞の供給には必須の細胞です。腸管上皮細胞は頻繁に交換、また損傷が出た場合はすぐに補充しなければなりません。

また、腸管は腸内細菌という非自己の生物が住んでいる場所です。消化、吸収、薬物代謝においてこの腸内細菌は非常に重要な役割を果たしており、腸内細菌が全くなくなると人間の身体の機能は大きな被害を受けることになります。

しかし、役に立つと言っても腸内細菌はやはり非自己であり、そのままにしておくと免疫系の攻撃を受けてしまいます。腸管上皮細胞は、他の細胞と連携して免疫系を制御し、腸内細菌が攻撃を受けて壊滅しないように調節しています。

腸管上皮細胞は、情感上皮幹細胞からTA細胞(Transit-amplifying細胞)を経由して分化し、腸管上皮細胞になります。腸管上皮細胞は1種類の細胞ではなく、吸収上皮細胞、杯細胞、Paneth細胞、腸内分泌細胞、タフト細胞、M細胞に分けられます。細胞寿命はおおよそ数日から1週間とされており、このことからも腸管上皮細胞は常に供給されなければならないことがわかります。

腸管上皮細胞は、数日から1週間で入れ替わる、「ターンオーバーが早い」と表現される細胞です。「ダイナミック」という表現も使われる事がありますが、とにかく腸管上皮幹細胞は次々と上皮細胞を産み出さなければならないので、かなり忙しい組織と言えます。

そのため、腸管上皮細胞、腸管上皮幹細胞に影響が出る疾患は、身体に大きなダメージを与えます。クローン病、潰瘍性大腸炎、非特異性多発性小腸潰瘍症など、国の難病に指定されている腸管関連の疾患はかなりの数になります。

こうした背景もあって、上皮幹細胞の中でも、腸管上皮幹細胞は深く研究され、医療への応用が急がれている幹細胞なのです。

5. 細胞工学的なアプローチ

上皮幹細胞は、細胞工学的なアプローチでも研究されています。人工培養した、口腔粘膜上皮細胞をシート状にすると、細胞群の中に上皮幹細胞、上皮前駆細胞が出現することが明らかになっています。

このシートを患部に貼り付けることによって、上皮組織の修復を期待する治療方法の研究が現在進行しています。実際に、角膜の治療に、この口腔粘膜由来細胞を使った細胞シートが有効である事が明らかになっています。つまり、上皮細胞の中で、異なる組織から採取された細胞でも、人工的な培養によって分化方向性のコントロールが可能であり、口腔内の上皮細胞でも角膜などの他の組織の治療に使えるということになります。

患者の体から採取した幹細胞を使った治療方法は、かなりの分野で実用化されています。この自己幹細胞を使うと、拒絶反応のリスクが大きく減ぜられるので、、かなり有効であると考えられています。

しかし、最近はHLA(ヒト白血球抗原)の異なるタイプの幹細胞を準備することによって、その患者に適合した細胞を選び、分化させて治療に使うということも実現されつつあります。上皮幹細胞も、今後は自己上皮幹細胞と人工的な上皮幹細胞を両方使った治療が行われると考えられますが、コスト的に有利な人工培養の方へシフトしていくのではないかと予想されています。

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