この記事の概要
  • 培養上清とは、細胞を培養するときの培養液を指す
  • 幹細胞の培養上清には、必ずサイトカインが含まれる
  • 培養上清に対する法律は未だ確立されておらず、扱いも曖昧である

研究室で培養細胞を育てるとき、培養液の中で培養を行います。その培養液を培養上清と呼びますが、培養上清には培養細胞から分泌された様々な成分が豊富に含まれており、医療や美容の分野で注目を集めています。

この記事では、幹細胞の培養上清の可能性と、医薬品としての扱いについて徹底的に解説します!

1. 培養上清の生成

研究室で培養細胞を育てるとき、毎日、または数日おきに培養上清を交換します。培養液には細胞からの老廃物などが混ざり、pHが酸性側にかたよるなど、細胞に悪影響を及ぼすからです。

しかし、培養皿の底面に付着する細胞を育てている場合、ほとんどは培養上清を全て交換はしません。10mlの培養上清で育てていたら、5mlの培養上清を捨てて、5mlの新しい培養上清を加えます。これは、古い培養上清には細胞が分泌した成長因子などの物質が混ざっているからです。

培養上清を全部交換すると、この成長因子などが全て取り除かれてしまうため、細胞の生育が悪くなります。そのために、ある程度古い培養上清と成長因子などを培養皿に残しておいて、新しい培養上清を加えます。

細胞密度が低い状態で細胞を育てると、なかなか分裂してくれない事があります。これは、細胞分裂を刺激する分子の濃度が低い事が考えられます。細胞が少なければ分子も少なくなる、結果的に細胞分裂が進まない、という悪循環です。

細胞を培養している培養上清には、細胞から分泌される様々なものが存在します。がん細胞の場合はがん細胞しか分泌しないタンパク質なども混ざっているため、新しいがんマーカーの探索研究に使われる事もあります。

2. 幹細胞の培養上清

幹細胞の培養上清は、通常の細胞を培養したときの上清とは異なる物質が含まれています。細胞同士は、相互作用によって生命活動を行っているので、他の細胞と分泌する物質を通じて刺激をする、刺激を受ける、というステップを経由して活動を変化させたり維持したりしています。

どんな物質がどれだけ分泌されているのか?については、培養されている幹細胞の環境によって変わってくるので、一概に言う事はできません。一般的に細胞を培養したときに上清に含まれる成長因子などは含まれています。

また、サイトカインという物質は必ず含まれています。サイトカインは細胞から分泌される低分子のタンパク質のことで、細胞間相互物質に作用する生理活性物質の総称です。つまり、サイトカインとは1種類の物質を指すのではなく、細胞から分泌される物質の総称と考えて下さい。

サイトカインに含まれる物質の機能は、細胞の増殖、細胞の分化、細胞死(アポトーシス)の誘導、または抑制、細胞機能の発現など多岐にわたります。

がん細胞を例に取りますと、がん細胞は体内で分裂して細胞塊を作ります。この細胞塊はがん細胞がただ増えただけなので、血管を持っていません。血管がないと、細胞塊の内部細胞に、酸素、栄養などを行き渡らせる事ができなくなります。そのため、がん細胞は血管を自分に引き込む物質を分泌します。この物質に対して血管を構成する細胞が反応し、がん細胞内に血管網を作ります。

がん細胞の場合は人間の身体に不利益になりますが、これが幹細胞ですと、人間の身体を構成する細胞に対して利益となる物質を分泌するのではないかと考えられています。

ネットで検索すると、幹細胞上清に含まれているサイトカインを使った治療を行っているクリニックが出てきます。あるホームページに掲載されている幹細胞上清に含まれている物質は、確認されている物質を挙げますと、上皮増殖因子、血管内皮増殖因子、肝細胞増殖因子、インシュリン増殖因子、血小板由来増殖因子などを挙げています。

3. 幹細胞上清の注意点

ここで注意しなければならないのは、幹細胞上清は医薬品として扱われているのか、どういう規制の下に製造され、作られているのか?ということです。

令和元年6月、国会で国民民主党の源馬議員が、「細胞が含まれていないヒトの幹細胞上清液を用いた治療法は再生医療等安全性確保法の対象になるのか」、「細胞が含まれていないヒトの幹細胞上清液を特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品に配合することは、再生医療等の安全性の確保等に関する法律及び医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に合致しているのか。」と、この2点について質問書を提出しています。

この質問に対しては、内閣総理大臣安倍晋三の名前で答弁書が公開されています。内容を以下にまとめます。

まず、「細胞が含まれていない」「幹細胞上清」などの意味するところが明らかでないので回答が困難という前提で回答に入っています。

「一般に、人等の細胞に培養その他の加工を施したものを用いない医療技術は、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(平成二十五年法律第八十五号)第二条第二項に規定する再生医療等技術に該当するものではなく・・・以下略」

つまり、再生医療のために定められているGMPなどを基にした厚生労働省の省令に該当しない、と答えています。実際に、培養上清には細胞は含まれていないので、この回答は妥当と言えます。

質問では、幹細胞上清の特定成分を濃縮した錠剤、カプセル形態の製品と言っていますが、それに対する回答は、「また、仮に御指摘の「細胞が含まれていないヒトの幹細胞上清液を特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品に配合」されたものが、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第一項に規定する医薬品に該当する場合、その製造販売をしようとする者は、医薬品の製造販売についての厚生労働大臣の承認を受ける等の同法の規定に従う必要がある。」

つまり、現時点で幹細胞上清に対する法適用は曖昧であるということです。例えばクリニックが「当医院が安全と認めた研究所からの培養上清」としたとしても、その安全のレベルがどの規制に準じたものなのかが現在では明確にしなくても問題にならないのです。規定された医薬品として認められれば、上に示した品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の下で製造、使用される事になります。

4. 幹細胞上清は効果があるのか?

幹細胞上清に、いくつかの症状に対する有効成分が含まれているのはほぼ確実でしょう。しかし、細胞は培養条件、環境によって分泌する物質の種類、量を変えます。さらに、有効成分が存在するとしても、その成分の含有量がわからなければ、有効量を含んでいるのかどうかがわかりません。

再生医療に関わる幹細胞という言葉は、それだけで「何か役に立つ」という印象を与えます。現在使われている幹細胞、iPS細胞は厳しい規制の下に準備されたもので、製造、保存は厳しく管理され、品質の管理も法律に従って行われています。

幹細胞上清についても、今後は何らかの制度に組み込まれると考えられます。研究の現場では、細胞培養上清にどんな培養条件ならどういう成分が含まれているのか、その成分濃度はどのくらいか、という研究は行われていますので、そのノウハウが応用されるのも遠くないと予想されます。

効果がある、ということであれば、どのくらいの濃度で効果があるのか、今から使う上清にはどのくらいの量が含まれているのか、他にどんな成分が含まれているのか、という情報が医薬品には求められます。今後法律が整備され、その法律の下に準備された幹細胞上清であれば、安心して治療が受けられるようになると思われます。

5. まとめ

効果がある、とされている食品、医薬品などは治療に使うそのものの含有成分を明らかにし、含有量を明示します。それは利用者の安全を守るためです。法規制の下で製造された医薬品の「安全」「効果」は、厳しい管理と治験から数字などのデータとして判断されたものです。

培養上清は、色んな意味で宝の山とされています。研究においては細胞間相互作用のなぞを解くための物質が含まれている可能性が高いですし、医療応用ではがんの発見につながるがんマーカーの探索、再生医療に応用できる物質の探索など、今後新たな発見が期待されています

今後、議論の俎上にのることはほぼ間違いないと思います。科学的エビデンスに基づいて、幹細胞上清に含まれる成分にはどんな効果があるのかが明らかになれば、再生医療の進歩につながりますし、再生医療から別の方向へも医療が発展することが考えられます。

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