この記事の概要
  • 新型コロナウイルスはACE2と呼ばれる受容体たんぱく質を媒介して細胞内に取り込まれる
  • 新型コロナウイルスは自己増殖せず、ヒトの細胞メカニズムを使い増殖する
  • 幹細胞投与による自然免疫の向上が新型コロナウイルス治療に対しても期待されている

猛威を振るっている新型コロナウイルスですが、新型コロナウイルスの正体は一体なんなのか?そして幹細胞をつかった新型コロナウイルスの治療に関する情報をお伝えします。

新型コロナウイルスとは?

コロナウイルスは、1本鎖プラス鎖RNAウイルスに分類されるRNAウイルスです。1960年代に、ヒトコロナウイスル229と、ヒトコロナウイルスOC43が発見されています。「重症急性呼吸器症候群(SARS)」や2012年以降発生している「中東呼吸器症候群(MERS)」はコロナウイルスの一種です。

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DNAは、2本の線が螺旋状に連なりますが、RNAは1本の螺旋構造をしています。また、DNAとRNAの違いとして、RNAの糖が、DNAの糖(デオキシリボース)より酸素分子が1つ多い違いがあります。また塩基の種類が、DNAはA・G・C・Tですが、RNAはA・G・C・Uとなります。

コロナウイルスは、体内に侵入するとコロナの膜状にあるスパイクタンパク質が、ヒトの細胞表面上に存在するACE2と呼ばれる受容体たんぱく質に結合し、細胞内に取り込まれます。この侵入したヒト細胞内でコロナウイルスは増殖しますが、コロナウイルスは自らが増殖するために必要な情報をRNAで持っています。つまり、コロナウイルスの表面にあるたんぱく質が、ヒトの細胞にくっつき細胞の中に取り込まれるということです。

ヒトなど、多くの動物種では遺伝情報はDNAが保持していますが、コロナウイルスはDNAを持たず、遺伝情報は全てRNAに存在します

細胞内に侵入したコロナウイルスは、細胞内に自分のRNAを放出します。このRNAはヒトの細胞に存在するアミノ酸鎖合成からタンパク質合成システムを借りて、自らのタンパク質を合成します。つまり、コロナウイルスは自分自身で増殖することは出来ませんが、粘膜などの細胞から入り込んで増殖するというように、ヒトの細胞のメカニズムを使って自分のタンパク質を作るウイルスです

このコロナウイルスのタンパク質は、ウイルス独自のタンパク質合成システムに利用され、コロナウイルスのRNA、マイナス鎖を合成します。このマイナス鎖をもとにしてプラス鎖RNAを合成し、そのプラス鎖からコロナウイルスのタンパク質を合成します。

また、プラス鎖のRNAはコロナウイルスのNタンパク質によって保護され、コロナウイルスの殻が形成されるとそれに取り込まれます。これでヒトの細胞内で新しいコロナウイルスが生まれます。そして細胞外に放出され、新たな侵入ターゲットを探します。

今回、新型として発見されたコロナウイルスは、正式名称はSARSコロナウイルス-2(サーズコロナウイルス・2、SARS-CoV-2: Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)が正式名称です。遺伝子配列は、コウモリのコロナウイルスと、遺伝子配列が約96%の一致が見られます。

ニュースなどで流れているCOVID-19は、Corona Virus Disease 19の略で、COVID-19と略されています。19は2019年の19、Diseaseは疾患を意味します。つまり、COVID-19は新型コロナ感染症と訳すのが正確であり、COVID-19が指すものはウイルスそのものでなく、ウイルス感染によって起こる疾患を指します。

この新型コロナウイルスに感染した場合、無症状のケースもありますが、症状が出る場合は、風邪と同様に様々な症状が見られます。割合として多いのは、発熱、咳、倦怠感・だるさ、味覚障害・嗅覚障害が上げられます。

重篤化する場合は、気管支炎、肺炎を経て呼吸不全を起こすケースが多く見られます。既往症がある場合はこの限りではなく、身体の様々な場所に様々な症状が出てきます。

2. 新型コロナの治療方法

新型コロナウイルス(COVID-19)に対する治療薬、抗ウイルス薬としてはいくつか候補が挙がっています。

レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として開発されていた薬です。エボラウイルスはコロナウイルスと同じ1本鎖マイナス鎖RNAウイルスですが、レムデシビルは1本鎖プラス鎖RNAウイルスに対しても活性がある事が確認されています。ただし、現時点では統計解析においては効果が認められるという結果は出ていません。

ファビピラビルは、ニュースなどではアビガンと呼ばれている治療薬です。元々は抗インフルエンザ薬です。新型インフルエンザが流行したときに備えて国が備蓄する薬ですので、COVID-19流行初期には市場には流通していませんでした。

その他にも治療薬はいくつか候補に挙がっていますが、一方でワクチン開発も進められています。ただし、ワクチンは感染症の予防が主な目的です。従来使われている方法ですと、製造途中のウイルス変異によって有効性低下が考えられるため、アメリカではmRNAワクチンの開発を行っています。

3. 新型コロナの治療と幹細胞

幹細胞を使った治療は、基本的に組織、臓器、細胞の欠損を補うため、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)とは関係がないように思われますが、実際は幹細胞を使った治療も開発が進行中です。

2020年4月に、胎盤由来の造血幹細胞から免疫細胞の1つであるNK細胞を作製し、新型コロナウイルス(COVID-19)の治療に用いる臨床試験に対して、アメリカ食品医薬局(FDA)が許可を出したと報じられました。

胎盤には造血幹細胞と、間葉系幹細胞が含まれており、胎盤に付着している臍帯(へその緒)の血液、つまり臍帯血には造血幹細胞が多く含まれています。造血幹細胞は、赤血球、白血球、血小板などに分化しますが、その中には免疫に関与するNK細胞も含まれます。つまり、造血幹細胞から免疫細胞であるNK細胞を作製することができるのです。

NK細胞は、正式にはナチュラル・キラー細胞(Natural Killer Cells)と呼ばれ、血流に乗って体内をパトロールし、がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃します。

ここで注意しなければならないのは、NK細胞はウイルスそのものを攻撃するのではなく、ウイルスが感染した細胞に攻撃を加えるということです。ウイルスに感染し、抗体産生などを通じて身体を守るT細胞とは異なり、NK細胞は抗体などの情報を必要としません。

ヒトの身体は、大まかに2段階の免疫システムで守られています。ワクチンなどで抗体を作って、ウイルスなど敵の情報を身体に覚え込ませ、その情報を基に攻撃をする獲得免疫というシステムと、敵が侵入した、またはこの細胞は敵であるというセンサーで攻撃をする自然免疫です。

自然免疫は昆虫からヒトまで、幅広い動物種が持っている免疫システムです。NK細胞を身体に投入することによって自然免疫を強化し、新型コロナウイルス(COVID-19)に対抗するのがこの治療方法の狙いです。

ウイルスが感染している細胞を攻撃して殺してしまえば、その細胞内で増殖しようとしているウイルスもまとめて殺すことができます。つまりは、コロナウイルスが増殖しようと準備している場所を潰してしまうのがこのNK細胞です。

がん細胞やウイルスが感染した細胞は、細胞表面に健康な細胞とは異なったシグナルを出します。このシグナルをNK細胞は感知します。

アメリカの企業が開発したNK細胞は、必要なときにすぐ使えるように準備されたNK細胞です。これは細胞製剤に分類されます。造血幹細胞から分化させたNK細胞を保存し、必要なときにすぐに投与できるように準備されたものです。

この細胞製剤を新型コロナウイルス(COVID-19)患者に投与した場合に有効かどうか臨床試験をする認可がアメリカ食品医薬局から下りたため、現在臨床試験が進行中です。

4. NK細胞による治療方法の注意点

NK細胞を使った治療方法は新型コロナウイルス(COVID-19)が最初ではありません。がんの治療方法として、すでに行っている機関があります。

しかし、この治療方法は発展途上の治療方法で、有効性、安全性が科学的に証明されていないものも多数あります。このためにアメリカでは臨床試験を行う、と考えて間違いはありません。効果が認められていない治療方法は保険診療として認められず、自由診療で行われているケースも多々見られます。

この治療を受ける際は、臨床試験、治験になどの公的制度、研究ステップに詳しい医師に意見を求めることが必要です。少なくとも、現時点で造血幹細胞から作製されたNK細胞による新型コロナウイルス(COVID-19)への有効性は試験中であり、効果があるともないとも言えません。

このような状況下では、効果の是非についての議論が不十分な事象がいくつか起きます。BCGの接種効果がSNSなどで広まった時には、BCG接種希望者が増え、本来接種しなければならない子供への接種ができなくなるかもしれない、という状況になりました。

ビジネスチャンスとして、似たような動きをする機関はいくつかあるかもしれません。健康、生命の維持は非常に重要かつセンシティブなものですので、多少不安があってもそこに飛びついてしまう人は少なくないでしょう。

しかしそういった行動は、思いもかけない不利益を患者にもたらすことがあります。有効性・安全性を臨床試験で確認するのは、そういった不利益を受ける患者をゼロに近い状態にまで減らそうとするものです。

とはいえ、造血幹細胞由来のNK細胞を使った治療は、大きな期待が寄せられている治療方法の1つです。今後の臨床試験の結果が期待されます。

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