【国内初】新型コロナ治療に幹細胞を活用!ロート製薬が治験計画を発表

  1. この記事の概要
  • ロート製薬がコロナウイルスに感染した患者に幹細胞を投与する治験計画を発表
  • 新型コロナウイルス感染症によるサイトカインストームの抑制への効果が期待されている
  • ロート製薬は2011年から再生医療に関する研究開発に着手しており、幹細胞分野の技術と経験を持っている

ロート製薬は2020年6月10日、コロナウイルスに感染した患者に幹細胞を投与する治験計画を医療品医療機器総合機構(PMDA:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)に申請し、大阪大学医学部附属病院で治験を行うことを発表しました。

対象は、コロナウイルスに感染した重症の肺炎患者(人工呼吸器を装着するレベル)です。

本計画では、コロナウイルスに感染した重症患者に他人の脂肪からつくった幹細胞を治療で使う点でも注目されています。

旧来的には、他人の幹細胞を投与すると、拒絶反応が起こると考えられておりましたが、他人の幹細胞による治療や治験は、世界的に主流となりつつあります。

本記事では、その発表内容、なぜ幹細胞がコロナウイルス治療に有効と考えられるかについて詳しく解説します!

目次

1. ロート製薬がコロナ治療のための幹細胞治療法を治験に

ロート製薬は2020年6月10日、コロナウイルスに感染した患者に幹細胞を投与する治験計画を発表しました。

内容は、他人の脂肪から採取した「脂肪間葉系幹細胞」を、週1回、4週にわたって1億個ずつ点滴で患者に投与し、効果、有効性を調べるというものです。ターゲットは、コロナウイルス感染に伴う肺炎で起こるサイトカインストームの抑制にあります。

この情報は、ロート製薬のホームページ、記者会見などで発表されたものでなく、国会議員有志によって開かれた会合(勉強会に類似するもの)で発表されたものです。

2. ターゲットとなるサイトカインストームとは?

細胞は、ウイルスに感染するとサイトカインという物質を放出して、免疫細胞に自分が異物に感染したことを知らせます。コロナウイルスの場合も例外ではなく、コロナウイルスが侵入した細胞はサイトカインを分泌します。

そのサイトカインを目印に、免疫細胞が集まって感染した細胞を攻撃します。免疫細胞は感染細胞が分泌したサイトカインによって活性化します。ウイルスに感染した細胞をその免疫細胞が破壊することによって、ウイルスが増殖する細胞という場所を奪ってしまうのです。

サイトカインは、感染した細胞だけでなく、免疫細胞も分泌します。感染した細胞からのサイトカインは「緊急警報」、免疫細胞のサイトカインは「緊急警報かつ援軍を求めるお知らせ」、と解釈すればわかりやすいかと思います。

次々と駆けつけた援軍の免疫細胞は、ウイルスが感染した細胞だけでなく、健常細胞にも傷害を与え始めます。これが肺で起きた場合、肺の血管細胞などが傷害を受け、ダメージを受けた細胞が増えると、呼吸困難に陥ります。

サイトカインストームは、コロナウイルス感染だけでなく、他の疾患、感染が原因でも起こります。サイトカインストームは正確にはサイトカイン放出症候群と呼ばれています。

移植片対宿主病(GVDH:Graft-Versus-Host Disease)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS:Acute Respiratory Distress Syndrome)、エボラ出血熱、敗血症、天然痘、鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染、全身性炎症反応症候群(SIRS:Systemic Inflammatory Response Syndrome)などがサイトカインストームを引き起こす疾患です。

サイトカインストームは、免疫細胞、そして免疫システムの暴走と表現されます。コロナウイルス感染では、サイトカインストームによる免疫の暴走で血栓症が起こる可能性も指摘されています。

血栓症とは、血管で血が突然固まることによって血栓ができ、血流が阻害される疾患です。血流の早い動脈で起こる動脈血栓症、血流が遅い静脈で起こる静脈血栓症に分類されます。脳梗塞、心筋梗塞などは動脈血栓症に分類され、肺塞栓などは静脈血栓症に分類されます。

血栓症は、突然発症する可能性が高いこと、血流が阻害されるために不可逆な機能障害が身体に残ることが多いことから、非常に危険な疾患とされています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、肺炎に伴うサイトカインストームが注目されていますが、コロナウイルス感染によるサイトカインストームは、肺だけでなく全身で起こる可能性が示唆されています。

つまり、コロナウイルスに感染した場合、サイトカインストームが起こるリスクは肺だけでなく全身にある、つまり血栓症が起こるリスクも全身にあるということになります。

ロート製薬は、脂肪間葉系幹細胞を点滴で投与する予定ということですので、血管を通じて幹細胞は全身に行き渡り、有効性があれば全身に有効である可能性があります。

この治験で使われる脂肪間葉系幹細胞は、脂肪由来の間葉系幹細胞です。ヒトの脂肪には、ある程度の幹細胞が含まれています。脂肪を採取すると、その中には幹細胞が含まれています。

しかし、数はそれほど多くないため、脂肪の様々な細胞が混じった中から幹細胞を単離し、人工培養によって治療に必要な数を確保します。

他人の幹細胞を使うことで、事前に人工培養することが可能であり、新型コロナウイルスに抗体を持つ幹細胞を患者に投与できる可能性があります。そのため、他人由来の幹細胞を使うことが望ましいと、考えた計画だと予想されます。

幹細胞は、ヒトの身体のあちこちに存在します。身体を構成する細胞が脱落、欠損したり、細胞加齢によって交代する必要があるとき、身体の中にある幹細胞から作られることがあります。

骨髄から採取すれば、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪から採取されれば脂肪由来間葉系幹細胞(多くの場合、脂肪由来の“由来”は省略されて、脂肪間葉系幹細胞と呼ばれます)と呼びます。

そして間葉系の間葉とは、間葉系結合組織とも言われます。主に、中胚葉から発生する未分化の組織の一種です。この組織を構成する間葉細胞は、骨、軟骨、リンパ系の組織、循環器系組織の細胞に分化、発展することができるというユーティリティ性を持つ細胞です。

間葉系の幹細胞は、分化する先の多様性から非常に便利な幹細胞と現在では認識されています。iPS細胞、ES細胞の場合、コストが高くなることが現在の技術では避けられないため、患者数が多くなる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のようなケースではあまり適当とは言えません。

しかし、脂肪間葉系幹細胞は患者以外からも採取ができ、人工培養による増殖もそれほどの難易度ではないため、患者数が多くても対応が可能と考えられています。

3. ロート製薬の幹細胞での実績

ロート製薬は、2011年から再生医療に関する研究開発に着手しています。ロート製薬がこれまで培ってきた、細胞を扱う技術、無菌製剤技術を使って、再生医療分野に参入し、業績を挙げています。特に、脂肪由来間葉系幹細胞については技術と経験を持っています。

具体例を挙げると、

  • 細胞培養のための、自動培養装置の開発
  • 2015年、「脂肪組織由来間葉系幹細胞および真皮線維芽細胞における細胞外基質産生の検討」について日本分子生物学会・日本生化学学会合同年会で報告
  • 2017年、新潟大学医学部と共同で、幹細胞を使った肝硬変の治療に着手
  • 脂肪由来間葉系幹細胞を発毛研究へ応用
  • 大阪大学と共同で、間葉系幹細胞の分泌化合物による角膜における上皮間葉転換(EMT:Epithelial-Mesenchymal Transition)への関与を証明。
  • 脂肪間葉系幹細胞を使ったスキンケアなどの肌への応用

これらの研究、開発の経験から、今回のコロナウイルス感染者に対する幹細胞治療、自分たちが最も得意とする、脂肪間葉系幹細胞を使った治験に着手したと考えられます。

4. 治療法の確立はいつ?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、それによる疾患の治療方法は、世界的に喫緊の課題ですので、国の関係機関による審査、承認作業は優先的に行われると予想されます。

治験によってどういったデータが出てくるのかは現在の所不明です。有効性、安全性があるのかどうかを中心にして、データを吟味しなければなりません。しかし、コロナウイルス感染関連は今そこにある危機なので、より早いにこしたことはありません。

しかし、必ずしも審査ステップを簡略すればいいという訳ではなく、審査に必要な人的リソース、時間的リソースなどを優先的にコロナウイルス感染関連の治療法審査に使うということです。

いくつかの製薬企業がこういった治験を開始すると、そこには競争が生まれます。競争は研究開発を加速させる重要なファクターです。今後、この情報には注目すべきだと考えられます。

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