骨髄に存在する間葉系幹細胞の治療について徹底解説!

この記事の概要
  • 骨髄幹細胞には、造血幹細胞と間葉系幹細胞が存在する
  • 骨髄由来間葉系幹細胞は、骨髄穿刺という方法で採取する
  • 札幌医科大学とニプロが開発した骨髄由来間葉系幹細胞の治療が国内では実現している

骨髄由来の間葉系幹細胞は、骨髄に存在する間葉系細胞です。

骨髄とは、骨の中に存在する組織であり、骨髄には血液の細胞と間質細胞の2種類が存在します。血液の細胞とは、造血幹細胞です。造血幹細胞は血液中に存在する、赤血球、白血球、リンパ球に分化します。

そして、間質細胞の中に、骨髄間質細胞があります。骨髄間質細胞は、Marrow stromal cellでMSCと略されます。一方、間葉系幹細胞はMesenchymal stem cellと呼び、同じようにMSCと略されます。このことによって、混乱している部分もあります。しかし、多くの種類の細胞からなる骨髄間質細胞の中に間葉系幹細胞があるので、大きな違いがあるわけではありません。

間葉とは、間葉系結合組織とも呼ばれ、中胚葉から発生した未分化の結合組織の1つです。間葉を構成する細胞自体が未分化で、様々な結合組織、骨、軟骨、リンパ系組織、循環器系器官に分化します。これらは間葉系幹細胞とも言われており、体性幹細胞の代表的な細胞です。

今回の記事では、そんな骨髄に存在する間葉系幹細胞について徹底解説します!

目次

1. 体性幹細胞とは

幹細胞で有名なものは、ES細胞がまず挙げられます。ES細胞は、胚性幹細胞の1つで、受精卵から発生した胚、胎児などから細胞が樹立されます。多能性はかなり優秀で、非常に使いやすい細胞とされていますが、生命の萌芽である胚、胎児をリスクにさらしたり、破壊する事になるので倫理的に問題があります。

そして開発されたのがiPS細胞です。iPS細胞は体細胞に遺伝子を導入し、いったん分化した細胞を初期化する事によって分化をリセットします。大きな話題となったiPS細胞ですが、まだ使いこなすのは難しく、実用化にはさらなる研究が必要です。

体性幹細胞とは、胚や胎児ではなく、成体、つまり生まれてきたヒトの身体から採取できる幹細胞です。胚や胎児を破壊する事がないため、倫理的な問題も少なく、研究、治療に使う事が難しくありません。そのため、研究も進みやすく、様々な知見から応用の道が開けています。こういったことから、体性幹細胞は、成体幹細胞とも呼ばれます。

その体性幹細胞の中の代表的な細胞が、骨髄由来間葉系細胞です。同じく骨髄中に存在している造血幹細胞も体性幹細胞の1つです。

2. 骨髄由来間葉系幹細胞とは

骨髄由来間葉系細胞は、他の細胞群と骨髄間質細胞群を構成しています。骨髄間質細胞は、互いに結合して網のような構造を作り、骨髄内の造血幹細胞を支えています。骨髄由来間葉系幹細胞も、分化をしていない幹細胞ではありますが、造血幹細胞を支える役割を持ちます。

この細胞が分化すると、骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞などになります。これらは中胚葉由来の細胞です。一般的に間葉系幹細胞は有は医用由来の細胞に分化するとされてきましたが、最近では外胚葉由来のグリア細胞、内胚葉由来の肝臓細胞にも分化ができる事がわかってきました。多くの細胞に分化することができる、かなり便利な幹細胞であるという認識が最近されています。

骨髄由来間葉系幹細胞は、骨髄に存在するので、採取の際には骨髄穿刺という方法を使います。骨髄穿刺によって、骨髄液(骨髄血)を採取すると、その中に骨髄由来間葉系細胞が混じっています。

採取するときには、局所麻酔を使い、骨髄穿刺針を使って骨髄液を吸引します。検査用はそれほどの量を必要としませんが、移植に使う場合はかなりの量が必要になります。検査の場合、成人の骨髄は、腸骨か胸骨から採取する場合が多く、ケースによっては双方から採取する事もあります。

骨髄から骨髄液を採取すると、その中には様々な細胞が混入しています。その液の中から間葉系幹細胞を精製し、培養します。幹細胞の自己複製の性質を使って細胞を増やし、その細胞を治療用にヒトの体内に戻します。幹細胞として増やして戻す場合と、ターゲットとなる器官、組織に分化させる、または前駆細胞に分化させてから身体に戻す場合もあります。

3. 骨髄由来間葉系細胞を用いた治療

骨髄、神経の幹細胞を用いた神経再生、特に脊髄損傷をターゲットとした治療は、現在有望視されており、動物実験では一部に効果が報告されています。現時点で人体に応用する点では、基礎研究の段階です。

脊髄の損傷を、神経の再生によって治療するイメージとしては、切断された神経をつなぐ、というよりも、神経を生やす、つまり細胞を増殖させて切れた部分を結合するというイメージです。そのため、再生される神経が、相手方の方向へ伸びてくれるかどうかも問題です。

この再生医療にiPS細胞に代表される人工多能性幹細胞、ES細胞などの胚性幹細胞、体性幹細胞などを使った治療が研究中ですが、課題も出てきています。

まず、細胞を使わずに分子を使った治療法もあります。それが肝細胞増殖因子を使った治療方法ですが、これは脊髄損傷直後でないと効果が出にくいと言われており、治療法の使えるシチュエーションは限定的です。分子を使った治療はまだまだ実用化が見えない状態と考えられており、現在は、幹細胞を使った治療法が効果的で、実用可能性が高いとされています。

胚性幹細胞、例えばES細胞を使った場合、免疫反応のリスク、腫瘍になってしまうかもしれないなどが考えられます。またそれらに加え、倫理的な問題がどうしてもついてまわります。アメリカでは、ES細胞を使った脊髄損傷患者への治療が行われていましたが、2011年に撤退を発表しており、なかなか実現は難しいようです。

iPS細胞を使った場合、自己、非自己認識による免疫反応は避ける事ができますが、細胞自体が腫瘍となるリスクが考えられていました。この点は、徐々に解決の方向に向かってはいますが、まだ基礎研究での知見が必要です。

2017年から、iPS細胞を使った脊髄損傷患者への治療のため、臨床研究を慶応大学で行う事が発表されました。これについても基礎的な知見が集積されないと、なかなか実用化は難しいと予想されます。その中で、慶応大学で研究されているiPS細胞を使った治療法は有望視されています。iPS細胞から分化させた神経前駆細胞を大量に準備し、損傷した部位に移植するという方法です。しかしこれは、大量の神経前駆細胞を準備しなければならないため、コストの面で不安があります。

そして、体性幹細胞を使った治療方法で有望視されているのが、札幌医科大学とニプロが開発した骨髄由来間葉系幹細胞を使った治療です。

まず脊髄を損傷した患者から、骨髄液を採取します。その骨髄液から骨髄由来間葉系幹細胞を精製し、患者に点滴で戻します。この方法ですと、自分の細胞を使いますので、免疫反応の心配がありません。

これは、「ステラミック(注)」として製造が厚生労働省再生医療製品審議部会で2018年に承認されています。

自力歩行ができないレベル、比較的重要の患者を対象として、損傷から約1ヶ月以内に骨髄を採取、骨髄由来間葉系幹細胞を点滴で戻す事によって、感覚の復活、運動機能の改善が期待されています。

さらに2019年、中央社会保険医療協議会で、ステラミック(注)が、ヒト体性幹細胞加工製品として、薬価基準収載が決定されました。これによって医療への実用化が実現しました。2019年時点で、この製品は札幌医科大学付属病院のみに提供されており、この治療法はこの病院でのみ受ける事ができます。

4. まとめ

骨髄由来間葉系幹細胞の用途は様々な疾患に使う事ができると期待されています。中でも、脊髄損傷に対しては大きな期待が寄せられています。

脊髄損傷は、現時点で決定的な治療法はありません。ここまで記述した骨髄由来間葉系幹細胞を用いた治療方法も、決定的に治療できるレベルには達していません。今度、臨床研究、基礎研究が進んで、徐々に改良されていくのを期待する段階にあります。

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