幹細胞医療品の品質を担保する「FDA」とは?

この記事の概要
  • FDAが幹細胞関連の医療品の品質を評価している
  • FDAは医薬品の販売承認ステップを加速させるため迅速承認関連プログラムを組んでいる

幹細胞関連の医療品は、品質を担保しないといけませんが、品質を担保しているのがFDAです。

FDAとは、Food and Drug Administration、日本語ではアメリカ食品医薬品局と呼びます。アメリカ合衆国保険福祉省(HHS: Department of Health and Human Service)の下部組織で、医療品の規制、食品の安全管理を業務としています。

今回はそんなFDAが、幹細胞医療品の品質をどのように評価し管理しているのかを解説します!

目次

1. FDAとは?

FDAはアメリカ合衆国が主導となり、医療品の規制、食品の安全管理を行っている組織です。

FDAは、行政組織であり、食品、医薬品、医療機器、化粧品、タバコ、おもちゃなど、アメリカ国民の生活の中で、“接する”機会をもつ品目についての様々な許可、違反案件の取り締まりを行います。

そして、幹細胞、またはそれに類する医療品もこのFDAの管轄下にあります

FDAの公式サイト上では自らの責務をこのように表現しています。

「医薬品および動物用医薬品、生物学的製剤、医療機器、国内の食糧供給、化粧品、そして電磁波を放出するような製品の安全性と有効性を保証することによって国民の健康を守ることが、FDAの責務である。加えて、医薬品や食品をより効果的に、安全に、そしてより安価にするための技術革新を加速させることによって国民の健康を増進すること、そして国民が自らの健康を増進するために必要な医薬品や食料に関する正しい、科学に立脚した情報を国民に与えることもまた、FDAの責務である。」

出典:FDA

2. 幹細胞を巡る問題とFDA

2017年、FDAは、フロリダ州とカリフォルニア州の幹細胞クリニックと幹細胞の製造施設に対して警告書を出しました。この2つの施設は、FDAの承認を得ずに幹細胞の治療を提供しており、製品製造過程で、適正製造規範(GMP:Good Manufacturing Practice)の要件を満たしていませんでした。

クリニック、製造施設側は、医薬品の製造ではないのでGMPに従う必要はないという見解でしたが、FDAは、有効性が認められていない治療提供の目的であればそれは許可できない、というスタンスでした。

「医薬品を製造しているわけではない」という理由は、幹細胞関連では当時よく使われた言い訳です。これに対応するために、FDAは法整備などを行いました。この動きは現在も継続しています。

そして2019年には、次のような声明を発表しています。

幹細胞による診療所や製造業者が患者を危険にさらすような未承認の製品を販売することを阻止する努力を継続する一方で、既存の機関の規制の下での合法的幹細胞製品開発の促進を支援する

FDAの医薬品承認の基本となるGMPをクリアしない製品は許さない、という立場をあらためて明確にした声明です。

3. 幹細胞応用医療に対するFDAの対応

幹細胞の医療への応用の進歩スピードは非常に早いため、市場のニーズに合ったものが出れば、消費者はそちらに流れる傾向があります。もしそれが医薬品としてのラインをクリアしなかった場合は事故などのリスクがあります。

つまり、FDAの承認プロセスが早ければすばやい医薬品化に対応できると考えられます。元々、FDAには、医薬品の販売承認ステップを加速させるためのプログラム、「迅速承認関連プログラム」というものがあります。Fast Track指定、Break Through Therapy指定、迅速承認、優先審査などの制度が存在し、それぞれに厳しい要件を設定してあります。

承認申請が提出された製品は、これらの制度が適用されるかされないのかを個別に審査されます。そしてここに、「再生医学先進療法(RMAT:Regenerative medicine advanced therapy)」というカテゴリーが新たに定義されています。

再生医学ですので、幹細胞関連の製品が当然含まれます。これに従って、幹細胞関連製品は迅速承認ステップに入るかどうかを審査されることになります。この指定には3つの要件があり、医薬品が再生医学療法であること、医薬品が重篤な、または生命の危機となる疾病や症状の治療、調節、修復、治癒が目的であること、そして予備的な臨床的エビデンスによってそれらの疾病、症状に対する医療上のニーズに応える可能性が示されていること、をクリアしなければなりません。

この要件をクリアできていれば、開発者はFDAに「再生医学先進療法」としてを治験申請(IND申請)することができます。そしてFDAでは、内部の「組織・先進治療部(OTAT:Office of tissues and advanced therapies)」で審査され、60日以内に結果を開発者に通知します。

「再生医学先進療法」として指定を受けると、開発初期段階から審査を促進するサポートがFDAから受ける事ができます。さらに、優先審査制度(Priority review)、迅速承認制度(Accelerated approval)の適用を受けることができる可能性があります。

しかし、早ければいいというものではありません。安全性は必ず担保されるべきものであり、医薬品には必須条件です。そのため、迅速承認を受けた場合は、「申請者(開発者)は当該医薬品等の有効性について改めて評価する必要がある」と決められています。

これは、市販後調査として、次の3つの「いずれか」を提出しなければなりません。

  • 臨床的エビデンス、臨床試験、患者のレジストリ、電子カルテなどの実地における根拠となる情報源
  • 大規模な検証データセットを収集したもの
  • 承認前に治療を受けた全患者の承認後のモニタリング

4. 今後予想される動き

今後の指針として、様々な法規制を前提に、再医学療法、再生先進療法の開発、評価、審査を支援するためのルール作り、そして以下の具体的な活動が挙げられます。

  • 「再生医学先進療法」の開発促進をどうやって行うかの検討・議論する
  • 再生医学療法、「再生医学先進療法」の予測と可能性を持った規制に基づく開発、評価、審査を支援するために、研究室レベルでのレギュレトリーサイエンスの推進と展開、そして文書的な策定をいかにして行うか、これを検討・議論する
  • 基準策定はステークホルダーとの共同作業で策定する

2016年には、官民共同体のSCB(Standards coordinating body)が組織されました。この組織は、細胞治療製品、遺伝子治療製品、組織工学製品、再生医療製品、そして細胞をベースとした創薬製品の世界的な普及を支援する事が目的です。具体的には、製造プロセス、測定・分析技術を開発することが大きな目的です。

これらの複数の組織がリンクしながら、承認審査において利用可能な基準の開発を支援し,製品開発と承認のためのコスト、時間、およびリソースを改善して、効率的かつ効果的に製品開発・審査をサポートすることを長期目標としています。

5. まとめ

幹細胞を使った治療、幹細胞関連製品はニーズが高く、時には幹細胞という言葉を売りにした、効果が充分に認められていない製品が出てくることがあります

効果がない、ということは問題ですが、それと同等かそれ以上に、身体に別の被害を及ぼす可能性も指摘されています。

「承認」というものは、効果と同時に安全性も確保していなければ取る事ができません。FDAの動きは、幹細胞による再生医療などのニーズを理解しつつも、有効性、安全性についてはこれまでの医薬品認可ステップと同じレベルの厳しさで、患者、消費者の安全を守る、という意志がはっきりと出ています。

2020年4月には、Mesoblast社の同種間葉系幹細胞(MSC)製品Ryoncil (remestemcel-L、MSC-100-IV) の承認申請がFDAに受理され、医薬品優先審査に入りました。

また、リプロセルの脊髄小脳変性症・幹細胞製品ステムカイマルは第II相臨床試験に関する治験計画がFDAによって審査が完了し、FDAからの希少疾患向け医薬品等の開発促進のためのオーファンドラッグ指定を受けています。

FDAの承認を受けていない臍帯血由来幹細胞製品を投与し、細菌感染してしまった例が10以上報告され、調査の結果、製造過程に問題があったことが明らかとなり、あらためてFDAが重視するGMPの必要性が理解されています。

また、マイアミの連邦裁判所が、フロリダのUS Stem Cell Clinicが行った脂肪組織由来肝細胞を使ったパーキンソン病の治療差し止めをFDAに許可するなど、他の機関がFDAの行動を支援、支持する動きも盛んです。

今後、審査などの迅速化と並行して、こうした未承認製品が徐々に駆逐され、幹細胞医薬品の安全性、効果に対する信頼性は上がっていくものと思われますが、FDAはアメリカのみならず、他の国の同様な機関と連携して国際的な基準作りにも乗り出そうとしています。

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