蛙の子は蛙?とんびが鷹を産む?親から子へ受け継がれる遺伝子を徹底解説!

この記事の概要
  • 親子の形質が似るのは、遺伝子が要因
  • 遺伝子、DNA、染色体がそれぞれ表す意味
  • DNAが設計図と言われる所以

「目元はお母さん似ですね。」「体格が良いのはお父さん似かな?」

そんな話しをしたり聞いたりしたことはありませんか?

顔はもちろん、背の高さ、体格、性格、または病気など、性質や特徴を「形質(けいしつ)と呼びますが、この形質が親子で似ることが多いのは、実体験としてご存知だと思います。

親から子へ受け継がれる形質。これは遺伝子によるものですが、では「遺伝子ってなに?」と聞かれた時に明確に答えられる方は少ないでしょう。

今回の記事では、この「遺伝子」について詳しく解説します!

目次

1. 遺伝子の発見と研究の歴史

「遺伝子」という概念は、メンデル(グレゴール・ヨハン・メンデル 1822年7月20日 – 1884年1月6日 現在のチェコの司祭。メンデルの法則と呼ばれる遺伝に関する法則を発見した。遺伝学の祖。)によって発見されました。

「形質が親から子へ受け継がれる時に必要な「何か」が存在する」という考え方です。この時、メンデルは「遺伝粒子」という言葉で形質を伝えるものを表現しました。

20世紀になって、この形質を伝える物質がタンパク質と核酸(かくさん)でできた「染色体(せんしょくたい)と呼ばれるものの中に存在する考え方が、ウォルター・S・サットン(1877年4月5日 – 1916年3月10日 アメリカの生物学者・医学者)によって提唱されました。

そしてメンデルの「遺伝粒子」は、ウィリアム・ベイトソン(1861年8月8日 – 1926年2月8日 イギリスの遺伝学者。)によって「遺伝子」と名付けられました。しかし、この時点でそれがどういう物質なのかは具体的にはわかっていません。

しばらくの間、形質を伝える遺伝の情報は、染色体のタンパク質にあると予想されていました。つまり、染色体の中にあるタンパク質が遺伝子ではないかと考えられていたのです。この後、遺伝子の本体がデオキシリボ核酸(DNA)という高分子であることがわかり、遺伝子=デオキシリボ核酸(DNA)という認識が広まりました。

2. 遺伝子という言葉の意味

遺伝子が意味するものは、形質を伝える物質です。しかし、その物質が何なのかについては前述のように時代によって変化してきました。実験技術の進歩によって、遺伝情報がどこに存在するのか、どういう形で保存されているのかが解明され、遺伝子と言えばDNAという考え方に変化してきました。

現在、遺伝子という言葉が指すものは、物質としての遺伝情報であったり、遺伝情報を持つ分子そのものであったり、場合によって異なります。元々遺伝子という言葉は、物質として認識されたものではなく、形質を伝える概念として考え出されたものです。その言葉が、科学の進歩に従って遺伝情報を伝えるものが解明されていくにつれて用法の幅が拡がったと言えます。

3. 遺伝情報を担うDNA

3-1. DNAはどんな物質?

DNAという言葉は、たぶんみなさんもご存知だと思います。でもデオキシリボ核酸と言われるとわかりませんよね。そして、それがどのようなものかを説明できる方はなかなかいません。

DNAは、

  1. デオキシリボース(五炭糖(ごたんとう))
  2. リン酸
  3. 塩基(えんき)

から作られています。2重のらせん構造であり、このうち塩基が遺伝情報を表す重要な部分です。このDNAの塩基には、ブリン塩基のアデニンとグアニン、ピリミジン塩基のシトシンとチミンの計4種類があります。

4種類の塩基は鎖のようにつながっており、この鎖が人間では1つの核内に46本あります。

46本のDNAのうち、最も長いDNAは約2億5千万個の塩基が、最も短いものでも約5,000万から6,000万個の塩基がつながっています。

DNAは2本の鎖でできており、互いに結合しています。この結合は塩基によって作られており、アデニンはもう片方の鎖のチミンと、グアニンはシトシンと結合しています。つまり、2億5千万個の2本の鎖が、構成する塩基同士でつながっています。この構造は、DNAの2重鎖と言われます。

3-2. DNAの情報はどう使われる?

「DNAは設計図である」という表現を聞いたことがあるかもしれません。ここで言う設計図は、「手」や「足」の設計図ではなく、「タンパク質の作り方」です。

さきほど出てきた塩基の順番が、最も重要な遺伝情報(=設計図)です。この「設計図」が違うからこそ人はそれぞれ形質が違うし、親子で形質が似るのもここに要因があります。

3-2-1. タンパク質の作られ方

DNA上の塩基の配列はRNAポリメラーゼという分子によって合成されるmRNA(メッセンジャーRNA)に情報として写し取られます。これを「転写」と言います。

この時、DNA上のアデニンはウラシルという塩基に読み替えられてmRNAに情報が写し取られます。これ以外はDNA上の塩基が結合する法則に従い、チミンはアデニン、グアシンはシトシン、シトシンはグアニンに読み替えられます。

mRNAに写し取られた塩基の配列は、今度は3つを1セットとして読み取られます。読み取った結果、例えばグアニン – シトシン – シトシンと並んでいれば、アラニンというアミノ酸がそこに持って来られます。そして次の3つがアデニン – アデニン – グアニンと並んでいれば、リシンというアミノ酸が運ばれてきます。

運ばれたリシンは、先に運ばれているアラニンと結合し、アラニン – リシンというアミノ酸の鎖を作ります。こうして、塩基の鎖はアミノ酸の鎖に変換されます。このステップを「翻訳」と呼んでいます。

作られたアミノ酸の鎖はこの後、鎖が変形して3次元の構造を作り、他の分子による修飾を受けて、それぞれ役割をもつタンパク質になります。タンパク質は身体を作ったり、身体を維持するために重要です。

このタンパク質をつくるために重要な情報、つまりDNA上の配列パターンは、親から受け継ぐ部分が多いので、配列情報こそが遺伝の情報ということになります。

DNA配列をもとに作られたタンパク質の働きによって、その人の特徴や性質が決まります。そして親と同じ、似ている配列が多く含まれるので、必然的に親に似た特徴、性質が子供に出てくる事になります。最近では、タンパク質が作られなくてもDNAの配列のみで形質が伝えられる現象の報告も見られます。

「DNAは設計図である」という表現が使われるのは、この塩基配列の情報によって、身体を作ったり、維持するために重要なタンパク質を作られるからです。そして配列のパターンは、受精時に両親から受け継ぐので、親の特徴や性質が子供に出る事が多くなります。

4. 染色体

ヒトの染色体は細胞の核内に46本あります。内訳は、22本の常染色体が2セットで計44本、性別の決定に重要な性染色体を1対、計2本持っています。

染色体は、遺伝子という概念をメンデルが生み出す20年前に発見されています。スイスのネーゲリによって、顕微鏡で染色体という構造が発見されました。この時は形質を伝えるものとして認識されていません。

その後の研究によって、染色体を構成する核酸が遺伝情報そのものを持っている事が明らかになりました。現在は、その遺伝情報の取り出し方にいくつかのシステムが関わっている事が明らかになり、その調節メカニズムの研究が盛んに行われています。

現在では、染色体の基本構造は、DNAとヒストンで作られている事が知られています。DNAは先ほど説明した、塩基の配列による鎖で、2本の鎖が結合しています。この2本の鎖は、ヒストンというタンパク質に巻き付いています。1つのヒストンにDNAの鎖が巻き付いているものが、延々とつながっているのが染色体です。

1つのヒストンとそれに巻き付いているDNAをヌクレオソームと呼びます。

また、DNAとタンパク質の複合体をクロマチンと呼ぶ事もあります。最近の研究で、DNA上の塩基配列だけでなく、DNAと結合しているタンパク質もDNA情報を使うためには重要である事がわかってきました。

最近の研究は、DNAのみでなく、DNAと結合しているタンパク質、そして染色体全体を遺伝情報のターゲットとして解析する研究が盛んです。

5. まとめ

染色体が遺伝情報を含んでおり、遺伝子発現に重要な調節機構を持っている事は、現在研究が盛んに行われている分野です。これまでの研究によって、いくつかのメカニズムが明らかになっています。

元々、染色体は遺伝という概念の中で発見されたものではありません。顕微鏡の下で観察し、細胞はどういうものから構成されているのかという研究の中で発見されました。その後、メンデルによって遺伝という概念が生み出され、遺伝の研究が始まると、染色体が遺伝に重要な構造物である事が明らかになりました。

まず、この染色体内のタンパク質に遺伝情報があると考えられていました。しかし研究が進み、遺伝情報はデオキシリボ核酸、つまりDNAにある事が明らかになりました。染色体のタンパク質は、DNA上にある情報が引き出されるときに調節する役割、また細胞分裂の時にDNAが複製されるときに重要である事がわかっています。

まだまだ解明しきれていない「遺伝子」。研究が現在進行形で進んでいるため、時代によって「遺伝子」という言葉の指す意味は変わります。この記事で書いた内容だけでも、

  • 遺伝情報本体のDNAのみを指す場合(狭義)
  • 染色体に存在する遺伝子の発現調節、DNAの構造維持などに関わるタンパク質を含めてほぼ染色体を指す場合(広義)

があります。狭義も広義も理解できれば、相手と認識を合わせることができます。

会話や文章の中に遺伝子という言葉が出てきたら、文章からその「遺伝子」は何を指しているのか、DNAか染色体かをまずは判別するように意識してみてください。

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