この記事の概要
  • 幹細胞は「分化能」と「自己複製能」の2つの能力がある
  • 幹細胞はその能力で「全能性幹細胞」「多様性幹細胞」「組織幹細胞」に分けられる
  • 倫理的に課題がある場合もあるが、医療分野での期待値は非常に高い

「幹細胞」という言葉をニュースなどで耳にしたことがあると思います。「再生医療」という言葉とセットで使われることが多いのですが、幹細胞とはどんな細胞か、ご存知でしょうか?

単に「細胞」という言葉は、中学校の理科の教科書に出てきます。「動物の身体は細胞によって形作られている」という内容を覚えている方もいらっしゃるでしょう。

この「動物の身体」を構成する細胞は、生殖細胞と体細胞に分けられます。

  • 生殖細胞 : 精子や卵子といった次世代を作り出すための細胞
  • 体細胞 : 脳細胞、筋肉細胞などの個体を維持するための細胞

この体細胞は、脳細胞、筋肉細胞のように役割が決まっている細胞のほかに、役割がまだ決まっていない、いろいろなタイプの細胞になる能力を持っている細胞もあります。これが幹細胞です。

この記事ではこの幹細胞について、「2つの能力」と「3つの分類」に触れながら解説します。

1. 細胞にはそれぞれ役割がある

人体を構成する細胞は60兆個や37兆個など複数の説がありますが、ざっくり数十兆個ある細胞は、そのほとんどがなんらかの役割を持っています。

ご自身の手を見てみてください。皮膚細胞(=皮膚の役割を持った細胞)が見えますよね?その下には、脂肪や筋肉の細胞、血管の細胞、神経の細胞、血管の中には赤血球や白血球の役割を持った細胞が存在し、それぞれがそれぞれの役割を果たすことで、私たちは生きています。

また臓器の例えを1つ出せば、肝臓は身体に必要なタンパク質の合成、栄養の貯蔵、外から入ってくる物質の分解などの役割を持っています。当たり前ですが、肝臓を構成する細胞は、このような役割に適した性質を持っています。

では、筋肉細胞に肝臓細胞と同じことができるでしょうか・・・?

もちろんできません。もし仮にできたとしても、非常に非効率であることは間違いないでしょう。

でもヒトは、たった1つの細胞「受精卵」から始まります。この時、この細胞には「役割」が決まっていません。受精後、細胞分裂を繰り返して増えていき、どこかのタイミングで1つ1つの細胞が役割を持つことになるのです。

2. 幹細胞が持つ2つの能力「分化能」「自己複製能」

幹細胞についてお話しするにあたり、分化能(ぶんかのう)」と「自己複製能(じこふくせいのう)」という2つの能力を、キーワードとして覚えておいてください。

簡単に言えば「分化能」は「変化(へんげ)の術」、「自己複製能」は「分身の術」と思ってください。忍者のようですね。

2ー1. 幹細胞が持つ「分化能」とは

受精卵という1つの細胞から出発したヒトは、何度も細胞分裂を繰り返してヒトとしての身体を作るための細胞を増やします。ある程度まで増えた段階で、それぞれの器官・組織になるための命令が出されます。

肝臓の細胞になるよう命令を受けた細胞は、肝臓の細胞になるための遺伝子を使って肝臓を構成する細胞に変化します。このことを「肝臓細胞に分化した」と言い表します

つまり、役割が決まっていない細胞の役割が決まり、その役割を果たすための細胞になることを「分化と言います。

そして、この「役割の決まっていない細胞」を「幹細胞」と呼びます。幹細胞は命令を受けることによって、肝臓の細胞にも心臓の細胞にもなることができる細胞です。

幹細胞は持っている能力によって分類されています。「3. 幹細胞の分化能力による分類と例」でおおまかな3つの分類をご紹介します。

2ー2. 幹細胞が持つ「自己複製能」とは

一般的な細胞には、細胞分裂をすることができる回数に限界があります。例えば健康な肝臓細胞を人工的に培養した場合、最初は細胞分裂しますが、そのうち細胞分裂しなくなります。

これに対し、幹細胞は理論上は無限に分裂を繰り返します。しかし、無秩序に幹細胞は分裂するのではなく、必要に応じて自分を複製する能力を持つ、という解釈が正しいでしょう。これを「自己複製能」と呼びます。

1つの幹細胞が分裂して2つになったとき、

  1. 1つはある細胞に分化し、もう1つは幹細胞のままで元の幹細胞の性質を維持するケース
  2. 分裂しても両方が幹細胞として元の幹細胞の性質を維持するケース

という2つのケースがあります。いずれにしても、基本的に幹細胞は自分と全く同じコピーを残しておく能力を持っています。

もっと詳しく

「常に自分と全く同じコピーを残す」ということは、幹細胞の数は変わらないのでは?と思われるかもしれませんが、やはりご自身の加齢(老化)と共に幹細胞そのものの活動が低下し、自己複製能も落ち、幹細胞の数は減少します。

0歳の赤ちゃんは約60億個の幹細胞を持っているという説がありますが、同じ研究結果を見ると、20歳で10億個、40歳では3億個まで減少するとされています。

3. 幹細胞の分化能による分類

3-1. 幹細胞の分類①「全能性幹細胞」

人体を構成するどんな細胞にもなれる能力「分化全能性を持つ幹細胞があります。これを「全能性幹細胞」と言います。この分化全能性は、受精卵から3回細胞分裂した細胞(8細胞期)までの細胞が持つ能力と言われています。

通常、1つの受精卵からは1つの個体(1人のヒト)が発生します。しかし、受精卵が最初の細胞分裂を行った直後、2つの細胞からそれぞれ別々の個体が発生する事があります。これを一卵性双生児と呼んでいます。

つまり、1つの受精卵から分裂した2つの細胞は、それぞれ1つの個体(1人のヒト)を作る能力があるということです。

3ー2. 幹細胞の分類②「多能性幹細胞」

個体を形成することはできませんが、どの細胞にもなれる能力「多能性を持つ幹細胞があります。これを「多能性幹細胞」と呼びます。

細胞分裂を繰り返して増えた「多能性幹細胞」は、「内胚葉(ないはいよう)」「中胚葉(ちゅうはいよう)」「外胚葉(がいはいよう)」という3つの大まかなグループに分かれます。内胚葉は主に消化器系などを作る細胞群、中胚葉は心臓や血管などの細胞群、外胚葉は皮膚や鼻などの感覚器、また脳を含む神経系の細胞群になります。

内胚葉の細胞になった場合、大腸の細胞にもなれますし、肝臓の細胞にもなれます。中胚葉の細胞になった場合は、心臓や血管の細胞になることもできます。

つまり「多能性幹細胞」は、この細胞だけでは固体を形成できませんが、どの器官、どの組織にもなることができるのです。

3ー3. 幹細胞の分類③「組織幹細胞」

多能性幹細胞が命令を受け、血をつくる造血幹細胞になった場合、血液系の細胞になることができます。神経系をつくる神経幹細胞であれば神経系の細胞になることができます。しかし、造血幹細胞が神経系の細胞になることはできません。

このように比較的小規模なグループの中で様々な細胞になることができる幹細胞は「組織幹細胞」と呼ばれています。

4. ヒト由来の幹細胞

ヒトに由来する幹細胞は、存在する場所やタイミングによりいくつかに分けられます。

4-1. 胚性幹細胞(はいせいかんさいぼう)

胚性幹細胞は、母体の子宮に着床前の胚(受精卵から胎児になる途中のもの)に存在します。この細胞は、1つで個体を作る事はできないため全能性幹細胞ではありませんが、どの細胞にもなれる能力「多能性」を持つ幹細胞です。

胚性幹細胞(ES細胞)については、より詳しくこちらで解説しています。

4-2. 胎児性幹細胞(たいじせいかんさいぼう)

この胎児性幹細胞に分類される細胞は、神経幹細胞、肝幹細胞、腎幹細胞などです。神経系、肝臓、腎臓は、1種類の細胞ではなく、数種類の細胞で構成されています。肝幹細胞は、肝臓を構成する細胞には、肝細胞、胆管細胞、クッパー細胞などがありますが、肝幹細胞はこれらのどれにでも分化する事ができます。

つまり、肝臓を構成する細胞になる事は決まっているが、肝臓のどの細胞になるのかは決まっていない、こうした細胞を胎仔幹細胞と呼びます。

4-3. 成体幹細胞(せいたいかんさいぼう)

成体幹細胞は、生まれた後にも体内に存在する幹細胞です。体性幹細胞とも言います。

細胞が活発に置き換えられる組織、例えば皮膚、腸管表面などには幹細胞が存在し、細胞の置き換えのために活動しています。また、筋肉のように損傷しやすい細胞のフォローのために、筋幹細胞が存在します。

これらはかなり分化の方向が狭められた細胞で、分化能もそれほど幅広い能力が与えられているわけではありません。

4-4. がん幹細胞

がん細胞は、幹細胞と同様に自己複製能があります。そのため、体内のがん細胞は増殖を続けます。このがん細胞の中には、多様な性質を持ったがん細胞に分化することのできる、がんの幹細胞が存在します。このがん幹細胞がどのように作られるのか?などはいまだに不明な点が多く、はっきりとわかっていません。

抗がん剤で治療したがんが再発したとき、治療した抗がん剤が効かない事があります。これは、抗がん剤によってがん細胞が死んでいくとき、ストレス耐性の強いがん細胞ががん幹細胞化し、抗がん剤への耐性を得て再び増殖したのではないかと考えられています。

4ー5. 脱分化細胞

この細胞は、最近になって哺乳類でも存在するのではないかと考えられ始めました。最も有名な脱分化細胞は、イモリの肢が切断されたときに現れる細胞です。

イモリの肢が切断されると、切断された部分の筋細胞が脱分化します。脱分化とは、いったん分化した細胞がその分化を解除されてほぼ分化前の状態になることです。分化前の状態になった細胞からは、切断された肢が再び作られ、再生します。

5. まとめ

全能性幹細胞は個体を形成することができる幹細胞ですが、この細胞を人類が扱うには、技術的にも倫理的にも課題が多くあります。極端なことを言えば、技術があればヒトを実験室で人工的に作りだすこともできてしまうわけです。

しかし、「幹細胞から必要な臓器を作る」ことができれば、医療が大きく進歩するという側面もあります。例えば、生体移植を待つ沢山の人々は、ドナーが現れることを待つのではなく、作りだした正常に機能する臓器をリスクが低い状態で移植できるようになるかもしれません。

もしくは、何らかのダメージを負った部分の回復効果を期待しその部分に集中的に投与したり、幹細胞を血液中に投与し身体全体の個数を増やすことによって身体全体の活性化が期待できるかもしれません。

このように倫理的に大きな課題がある一方で、医療分野での期待値は非常に高く、日本はもちろん、世界各国で幹細胞の研究が進められ、日々、研究結果が報告されています。

国により許される研究範囲が違います。興味のある方はぜひ他国の研究成果も見てみてください。このブログでも紹介していきます。

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