モヤモヤ病とは、脳の血流が不足しやすくなる血管の病気
モヤモヤ病は、脳の太い血管である内頚動脈の終末部が徐々に細くなり、脳の血流が不足しやすくなる病気です。ウィリス動脈輪閉塞症とも呼ばれ、細くなった血管を補うために発達した細い異常血管が、画像上で「もやもや」と見えることから、この名前がつけられています。
主な症状は、一時的な手足の麻痺、しびれ、言語障害、頭痛、けいれん、脳梗塞、脳出血などです。小児では、熱い食べ物を冷ますために息を吹く動作や、笛を吹く、走るといった過呼吸に近い行動をきっかけに、一時的な脱力や言葉の出にくさが起こることがあります。成人では脳出血や高次脳機能障害が問題になることもあります。
難病情報センターでは、原因はまだ完全には解明されていないとされています。一方で、RNF213遺伝子多型など、発症しやすさに関わる遺伝的背景が研究されています。家族内発症は10〜20%程度にみられるとされますが、遺伝する病気と単純に言い切れるものではありません。
令和5年度の特定医療費受給者証所持者数は13,689人です。患者さんの中には、手術や経過観察により安定して生活している方も多くいます。一方で、脳梗塞や脳出血の後遺症、慢性的な頭痛、学業・就労への影響を抱える場合もあり、長期的な管理と支援が必要です。
標準治療は、脳へ新しい血流の道を作ることが中心になる
モヤモヤ病の標準治療で中心となるのは、血行再建術です。これは、細くなった内頚動脈終末部そのものを元に戻す治療ではありません。脳の血流不足を補うため、別の血管から血液を届ける新しい通り道を作る治療です。
血行再建術には、直接血行再建術、間接血行再建術、またはその両方を組み合わせる方法があります。直接血行再建術では、頭皮の血管と脳表の血管を直接つなぎ、血流を増やします。間接血行再建術では、血流を持つ組織を脳の表面に接触させ、時間をかけて新しい血管が伸びることを期待します。
虚血発作や脳梗塞で発症した場合、抗血小板薬が使用されることもあります。これは血液を固まりにくくし、脳梗塞の予防をねらう補助的な治療です。ただし、出血リスクも考慮する必要があり、特に成人出血例では慎重な判断が求められます。
成人の出血発症例では、再出血予防を目的に血行再建術が検討されます。また、急性期の脳梗塞や脳出血には、一般的な脳卒中治療が行われます。症状が安定した段階で、脳血流評価、血管画像、年齢、症状、出血リスクを踏まえ、外科的治療を検討する流れが一般的です。
既存治療の限界は、原因そのものを消せないことにある
血行再建術は、モヤモヤ病治療において非常に重要な方法です。脳への血流を改善し、虚血発作や脳梗塞、場合によっては再出血リスクを減らす目的で行われます。しかし、血行再建術は病気の原因そのものを取り除く治療ではありません。
モヤモヤ病では、血管がなぜ狭くなるのか、どの患者さんで進行しやすいのか、どのような分子機序で異常血管が形成されるのかについて、まだ解明されていない部分があります。RNF213遺伝子多型は重要な手がかりですが、それだけで発症や経過をすべて説明できるわけではありません。
また、手術後にも経過観察は必要です。血流が改善して症状が安定する患者さんがいる一方で、慢性的な頭痛、高次脳機能障害、学習・就労上の困難、脳梗塞や出血の後遺症を抱える患者さんもいます。小児期発症例では、成長や進学、就労に合わせた支援も重要になります。
このような背景から、血管の形成や修復、内皮細胞の異常、炎症、細胞外小胞、RNA発現などを調べる研究が進められています。幹細胞治療への期待もありますが、現時点では、モヤモヤ病そのものに対する幹細胞治療は承認された標準治療ではありません。病態を理解するための基礎研究と、実際の治療を分けて考える必要があります。
幹細胞研究が注目するのは、血管内皮とRNAの異常である
モヤモヤ病の幹細胞関連研究で注目されているのは、血管内皮前駆細胞です。血管内皮前駆細胞は、血管内皮細胞の修復や新生に関わる可能性を持つ細胞として研究されてきました。モヤモヤ病では、血管が狭くなる一方で、側副血行路やもやもや血管が発達するため、血管形成に関わる細胞の異常が病態解明の鍵になると考えられています。
2020年のレビューでは、モヤモヤ病における血管内皮前駆細胞の数や機能に関する研究が整理されています。ただし、研究ごとに細胞の定義、分離方法、測定方法が異なり、結果にはばらつきがあります。つまり、血管内皮前駆細胞が病態に関わる可能性はありますが、それを治療として投与する段階ではありません。
mRNAの観点では、細胞外小胞やエクソソームのRNA研究が重要です。mRNAはタンパク質を作る設計図のような分子であり、miRNAはmRNAの働きを調整する小さなRNAです。2023年の研究では、モヤモヤ病患者、頭蓋内動脈硬化性疾患患者、健常者の血液から小型細胞外小胞を調べ、RNAプロファイルの違いが報告されました。
別の血漿エクソソームmiRNA研究では、1,002種類の差次的発現miRNAが同定され、軸索ガイダンス、アクチン細胞骨格制御、MAPKシグナル経路などとの関連が示されています。これらは、血管内皮異常や血管リモデリングを理解する手がかりです。ただし、RNAを調整すればモヤモヤ病が改善するという治療効果は確認されていません。
国内外の臨床試験では、幹細胞治療はまだ確認段階に届いていない
ClinicalTrials.govおよびjRCTを確認した範囲では、モヤモヤ病そのものを対象とした幹細胞治療の主要臨床試験は明確に確認できませんでした。脳血管障害や慢性脳梗塞に対する骨髄由来間葉系幹細胞研究は存在しますが、モヤモヤ病の標準治療として扱えるものではありません。
この点は、患者さんや家族にとって重要です。モヤモヤ病は脳血流障害を起こす病気であり、血管再生や神経修復という言葉と結びつきやすい疾患です。そのため、幹細胞治療に期待を持つ方も少なくありません。しかし、期待があることと、臨床的有効性が確認されていることは別です。
現在の研究の中心は、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、RNF213、細胞外小胞、RNAプロファイル、microRNAなどを通じて、病態を理解することにあります。iPS細胞を用いれば、患者由来細胞から血管内皮細胞モデルを作り、血管形成や細胞応答を調べることも可能です。mRNAリプログラミング法は、山中因子をmRNAとして一時的に導入し、ゲノムに組み込まずiPS細胞を作る方法として研究に用いられます。
ただし、iPS細胞由来血管細胞を患者さんへ移植し、モヤモヤ病を治療する臨床応用は確認されていません。本記事で紹介する幹細胞治療の多くは現在研究段階にあり、すべての患者さんに同様の効果が確認されているわけではありません。実際の治療選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
期待される効果は、治療よりも病態解明と診断支援に近い
現時点で、モヤモヤ病に対する幹細胞関連研究に期待される主な役割は、直接治療よりも病態解明にあります。血管内皮前駆細胞の異常を調べることで、なぜ血管狭窄と異常血管形成が同時に起こるのかを理解できる可能性があります。エクソソームRNAやmiRNAの解析は、血液から病態を読み取るバイオマーカー研究につながります。
たとえば、2023年のsEV/エクソソームRNA研究では、モヤモヤ病患者と頭蓋内動脈硬化性疾患患者、健常者のRNAプロファイルが比較されました。モヤモヤ病に特有の血管内皮異常を示す手がかりとして、細胞外小胞内RNAが注目されています。これは、将来的に診断補助や病態分類に役立つ可能性があります。
また、血漿エクソソームmiRNA研究では、モヤモヤ病の予測に関わる可能性のあるmiRNA群が報告されています。miRNAは、遺伝子発現を微調整する分子です。血管内皮細胞の増殖、細胞骨格、MAPKシグナルなどに関わる可能性が示されていますが、現時点では治療薬ではなく、研究上のバイオマーカー候補です。
幹細胞やRNA研究が進めば、将来的に「どの患者さんで進行しやすいのか」「出血リスクが高いのはどのタイプか」「手術後の血管形成に関わる因子は何か」といった問いに近づけるかもしれません。しかし、これらはまだ検証段階であり、標準治療の血行再建術や脳卒中管理を置き換えるものではありません。
未来展望は、血行再建術と分子研究をつなぐことにある
モヤモヤ病の治療は、現在も血行再建術を中心に進められています。これは、脳の血流不足を補い、脳梗塞や虚血発作を防ぐために重要な治療です。一方で、なぜ血管が狭くなるのか、なぜ異常血管が発達するのか、なぜ一部の患者さんで出血や進行が起こるのかは、まだ十分に解明されていません。
今後の希望は、外科治療の成果と分子レベルの病態研究がつながることにあります。手術によって血流を改善するだけでなく、RNA、エクソソーム、内皮細胞、RNF213関連経路を調べることで、患者さんごとのリスク評価や治療選択がより精密になる可能性があります。
幹細胞研究は、この未来において重要な基盤になります。血管内皮前駆細胞やiPS細胞由来血管内皮細胞を用いることで、患者さんごとの血管形成能力や細胞応答を研究室で調べられる可能性があります。MSC由来エクソソームやmiRNAの研究も、血管修復や炎症制御の理解に役立つかもしれません。
ただし、モヤモヤ病の幹細胞治療は、現時点では確立された治療選択肢ではありません。患者さんにとって大切なのは、脳血流評価、血管画像、症状、年齢、発症形式に応じて、専門医と標準治療を検討することです。再生医療への希望を持ちながらも、実際の治療選択は検証済みの情報に基づいて考えることが重要です。
[出典]
- 難病情報センター:もやもや病(指定難病22)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/47 - 難病情報センター:特定医療費(指定難病)受給者証所持者数 令和5年度
https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/2025/02/koufu20241.pdf - 厚生労働省:令和8年4月時点の指定難病(告示番号1〜348)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_53881.html - 2021 Japanese Guidelines for the Management of Moyamoya Disease
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nmc/62/4/62_2021-0382/_article - Endothelial Progenitor Cells in Moyamoya Disease: Current Situation and Controversial Issues
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32193953/ - RNA profiling of sEV (small extracellular vesicles)/exosomes reveals biomarkers and vascular endothelial dysplasia with moyamoya disease
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36883376/ - Plasma exosomal microRNAs are non-invasive biomarkers of moyamoya disease: A pilot study
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37413774/ - Moyamoya Vasculopathy and Moyamoya-Related Systemic Vasculopathy: A Review With Histopathological and Genetic Viewpoints
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38690664/


