血小板が減る病気は、名前も理解も変わり始めている
特発性血小板減少性紫斑病は、血小板が減ることで出血しやすくなる自己免疫性の血液疾患です。2025年4月から、指定難病上の名称は「免疫性血小板減少症」へ変更されました。これは、原因がまったく不明というより、免疫の異常が血小板減少に関わることが明らかになってきたためです。
血小板は、出血を止めるために重要な細胞成分です。ITPでは、血小板に対する自己抗体が関わり、血小板の破壊が進んだり、骨髄での血小板産生が妨げられたりします。日本内科学会の総説でも、自己免疫的機序による血小板破壊の亢進と血小板産生障害が病態として整理されています。
主な症状は、皮膚の点状出血、紫斑、鼻出血、歯肉出血、月経過多などです。血小板数が著しく低い場合には、消化管出血や頭蓋内出血など重い出血にも注意が必要です。令和5年度末時点の特定医療費受給者証所持者数は16,600人であり、長期的な管理を必要とする患者さんが少なくありません。
標準治療は、出血を防ぎながら血小板を保つために組み立てられる
ITPの治療目的は、血小板数を正常値に戻すことだけではありません。より重要なのは、出血リスクを抑え、日常生活を安全に続けられる血小板数を維持することです。そのため、治療は血小板数、出血症状、年齢、合併症、妊娠の有無、生活背景などを踏まえて選ばれます。
初期治療では、副腎皮質ステロイドが使われることがあります。ステロイドは自己免疫反応を抑えることで血小板破壊を減らす目的の治療です。また、ヘリコバクター・ピロリ感染がある場合には除菌療法が検討されます。出血リスクが高い急性期には、免疫グロブリン大量療法や血小板輸血が用いられることもあります。
ステロイドで十分な効果が得られない場合や、副作用で継続が難しい場合には、セカンドライン治療が検討されます。成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版では、従来の脾臓摘出術に加え、TPO受容体作動薬とリツキシマブがセカンドライン治療として同等に推奨されています。TPO受容体作動薬は血小板産生を促し、リツキシマブは自己抗体産生に関わるB細胞を標的にする治療です。
治療が増えても、効果予測と長期管理には課題が残る
ITP治療は進歩してきましたが、すべての患者さんで同じように効果が得られるわけではありません。厚生労働科学研究費補助金の報告では、TPO受容体作動薬とリツキシマブがステロイド不応・不耐例に広く使われるようになり、治療の流れは大きく変わったと整理されています。一方で、セカンドライン治療の効果を予測しにくいことが大きな問題とされています。
ステロイド治療にも課題があります。短期的には有用な治療ですが、長期・大量投与では感染症、糖代謝異常、骨粗しょう症、体重増加、気分変調など、生活の質に関わる副作用が問題になることがあります。そのため、近年はステロイドに頼りすぎず、早い段階で次の治療へ移る考え方も重視されています。
さらに、ITPは除外診断が中心です。ほかの血液疾患、薬剤性血小板減少、感染症、自己免疫疾患などを丁寧に見分ける必要があります。難治性ITPでは誤診の割合が高いことも報告されており、診断そのものの精度向上も重要な課題です。こうした背景から、既存治療で十分に対応できない患者さんに向けて、新しい免疫調整治療の研究が進められています。
幹細胞治療が注目される理由は、免疫の偏りを整える可能性にある
ITPに対して研究されている幹細胞治療の中心は、間葉系幹細胞です。MSCは骨髄、臍帯、脂肪などに存在する細胞で、免疫細胞の働きを調整する性質があると考えられています。ITPでは、B細胞、T細胞、マクロファージ、制御性T細胞などの免疫バランスが乱れ、血小板破壊や血小板産生障害に関わります。
臍帯由来MSCを用いた第I相試験では、難治性ITP患者18例に対して週1回、計4回のMSC投与が行われました。全奏効率は44.4%、完全奏効は22.2%と報告されています。一方で、治療関連有害事象は72.2%、重篤な有害事象は22.2%にみられており、単純に安全で効果が確立した治療とはいえません。
同研究では、MSCの作用として、T細胞活性化の抑制やCD8陽性の抑制性T細胞サブセットの増加が観察されています。これは、MSCが血小板を直接増やすというより、免疫の過剰反応を整えることで血小板破壊を抑える可能性を示すものです。ただし、単群・非ランダム化・小規模試験であり、今後は大規模な比較試験が必要です。
mRNAとmiRNAは、細胞どうしの情報伝達を読み解く鍵になる
ITPにおける幹細胞研究では、mRNAやmiRNAにも注目が集まっています。mRNAは、遺伝情報をタンパク質に翻訳するための設計図のような分子です。miRNAは、そのmRNAの働きを調整する小さなRNAで、免疫細胞の働きや炎症反応に影響します。
近年の研究では、エクソソームが重要な役割を持つ可能性が示されています。エクソソームは細胞から放出される小さな袋状の構造で、タンパク質やRNAを別の細胞へ運びます。2025年の研究では、ITP患者由来の血漿エクソソームに含まれるmiR-363-3pが、TBX21陽性制御性T細胞の免疫抑制機能を弱める可能性が報告されています。これは、エクソソーム内のmiRNAが、標的細胞のmRNA発現や免疫応答に影響し得ることを示す研究です。
MSC由来エクソソームについても、免疫調整作用を持つ可能性が研究されています。2025年以降、同種MSC由来エクソソームを難治性ITPに用いる臨床試験も登録されています。ただし、MSC由来エクソソームやmiRNAを用いた治療が、ITPの標準治療として有効性を確認された段階ではありません。現時点では、分子レベルの病態理解と探索的治療研究として位置づける必要があります。
国内外の研究は進むが、臨床応用には慎重な検証が必要
ClinicalTrials.govでは、ITPに対する幹細胞関連研究として、NCT04014166の臍帯由来MSC第I相試験が確認できます。この研究は、中国の施設で行われた前向き単群試験であり、18例という限られた患者数で安全性と有効性を探索したものです。結果として一定の奏効が報告された一方、重篤な有害事象も確認されています。
また、NCT07146087として、難治性一次性ITPに対する同種MSC由来エクソソームの臨床試験が登録されています。エクソソームはMSCの免疫調整作用を担う可能性があるため、細胞そのものを投与する方法とは異なる治療概念として注目されています。ただし、主要結果はまだ確認できず、治療としての位置づけは未確定です。
国内では、今回の検索範囲で、ITPに対する幹細胞治療やMSC治療を直接検証するjRCT登録試験は確認できませんでした。一方で、アバトロンボパグ、mezagitamab、R788など、薬物療法の治験は国内でも確認できます。これは、国内のITP治療開発が、現時点では幹細胞治療よりも薬物療法を中心に進んでいることを示しています。
期待される効果と残された課題を分けて理解する
ITPに対するMSC治療で期待されるのは、免疫の偏りを調整し、血小板破壊を抑えることです。臍帯由来MSCの第I相試験では、T細胞活性化の抑制や抑制性T細胞サブセットの増加が観察されており、免疫調整を通じた作用が考えられています。難治性ITPの患者さんにとって、新しい選択肢を探る研究として意義があります。
一方で、課題は明確です。第一に、研究規模が小さく、ランダム化比較試験ではありません。第二に、MSCの由来、投与量、投与回数、投与間隔が研究ごとに異なります。第三に、有害事象や長期安全性について、より多くのデータが必要です。第I相試験で重篤な有害事象が報告されている以上、安易に「安全」と表現することはできません。
mRNAやmiRNAの研究も同様です。エクソソーム内のmiRNAが制御性T細胞や免疫応答に関わる可能性は示されていますが、それを治療としてどのように安全に使うかは、まだ検証段階です。本記事で紹介する幹細胞治療の多くは現在研究段階にあり、すべての患者さんに同様の効果が確認されているわけではありません。実際の治療選択にあたっては、必ず主治医にご相談ください。
未来展望は、標準治療と免疫研究をつなぐことから始まる
特発性血小板減少性紫斑病、現在の正式名称である免疫性血小板減少症の治療は、ステロイド中心の時代から、TPO受容体作動薬、リツキシマブ、脾摘、さらに新規薬剤の開発へと広がってきました。近年はFcRn阻害薬、Syk阻害薬、BTK阻害薬など、自己抗体や免疫細胞の働きをより細かく調整する治療も研究されています。
幹細胞治療やエクソソーム研究は、その流れの中で、免疫の乱れをより根本から整える可能性を探る領域です。MSCはT細胞やB細胞、マクロファージなどの働きに影響し、MSC由来エクソソームはmiRNAを介して細胞間の情報伝達に関わる可能性があります。2026年のレビューでも、MSCは免疫調整機構を持つ治療候補として整理されていますが、臨床応用にはさらなる検証が必要です。
患者さんにとって大切なのは、希望を持ちながらも、未確立の治療を過大評価しないことです。国内で承認されている標準治療、国内外で進行中の治験、研究段階の再生医療は分けて考える必要があります。まずは主治医と現在の病状、出血リスク、治療歴、副作用、生活上の不安を整理し、信頼できる情報をもとに次の選択肢を考えることが大切です。
[出典]
難病情報センター・厚生労働省:指定難病一覧、特定医療費(指定難病)受給者証所持者数。
厚生労働省:指定難病の疾病名変更情報。
日本内科学会:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の病態と治療。
厚生労働科学研究費補助金:成人ITP診療ガイド2019年版の普及活動と今後の改訂に関する資料。
ClinicalTrials.gov:NCT04014166、NCT07146087。
Chen Y et al. Signal Transduction and Targeted Therapy. 2024. DOI: 10.1038/s41392-024-01793-5。
Huang Y et al. Inflammation. 2025. DOI: 10.1007/s10753-025-02275-8。
Tong T et al. BMC Pregnancy and Childbirth. 2025. DOI: 10.1186/s12884-025-08177-9。
Zhou X, Shan N. Stem Cell Research & Therapy. 2026. DOI: 10.1186/s13287-026-05000-w。
国内jRCT関連:アバトロンボパグ、mezagitamab、R788のITP治験情報。


