生殖細胞とは?治療への応用について解説!

この記事の概要
  • 生殖には、2体の個体が持っている完全長のDNAを交換し、新しい遺伝子型個体を生み出す「有性生殖」と、1つの個体が単独で新しい個体を生み出す「無性生殖」がある
  • 生殖細胞の受精によってできた受精卵はどんな細胞にも分化可能な万能細胞である
  • 生殖細胞の医療への応用の最大の懸念点は、倫理的な側面である

遺伝情報を次世代へ伝える役割をもつ生殖細胞は、医療への応用を見据え、さまざまな研究が進んでいます。

本記事では、生殖細胞とは一体なんなのか?現在どのような医療への応用が進んでいるかについて解説します。

目次

1. 生殖細胞とは

生物が増殖する方法として、「生殖」があります。

生殖には、2体の個体が持っている完全長のDNAを交換し、新しい遺伝子型個体を生み出す「有性生殖」と、1つの個体が単独で新しい個体を生み出す「無性生殖」があります。

この分け方はやや大雑把なもので、有性生殖を行う生物の中には、場合によってはメスの個体のみで新しい個体を生み出す単為生殖を行う動植物もあります(アブラムシ、ハチなど)。単為生殖では1つの個体が新しい個体を生み出すので、無性生殖と思われがちですが、生物学上はこれも有性生殖とされます。

この「生殖」に必要なものとして、有性生殖では例えば、精子、精細胞、卵子、卵細胞などの配偶子、無性生殖では胞子などが挙げられます。これらそのもの、またはこれらの元となる細胞が「生殖細胞」と呼ばれる細胞です。

細胞分裂、変形などを伴って、細胞の形、性質が変化することが多いので、変化前、変化後の細胞を総称して生殖細胞系列と呼ぶこともあります。

動物の身体を構成する細胞は、大きく分けるとこの生殖細胞と体細胞に分類されます。体細胞は、体を構成する、または体の機能を維持するための細胞で、生殖細胞は次世代を残すための細胞、という説明で分類されます。

「動物の体は遺伝子の入れ物である」という考え方が「利己的遺伝子」などの理論によって構築されていますが、そういった考えのもとでは、体細胞は、次世代を残すための生殖細胞を守り、次の世代の個体を作るための身体を維持するための細胞、という解釈がされることがあります。遺伝子を中心に考えると、遺伝子を次の個体に伝える生殖細胞こそが生物種においては重要という考え方です。

2. 生殖細胞の染色体数と減数分裂

有性生殖の場合、雄の精子が雌の卵子に入り込むことによって受精が完了し、新しい個体の発生が始まります。この時、重要なことの1つに、新しい個体は、父親由来の遺伝情報と、母親由来の遺伝情報を持つということです。

遺伝情報は、DNA上に塩基配列として記録されており、これは染色体という形で次世代に引き継がれます。我々人間の場合、染色体は23本を2組、つまり46本持っています。23本は父親から、残りの23本は母親から、そして計46本持っているということです。つまり、精子には23本の染色体があり、卵子には23本の染色体が同様にあります。受精によってこれらが23 x 2組、計46本となって、受精卵は46本の染色体を持つことになります。

人間の体細胞は、46本の染色体を持っています。23本の染色体を父親由来と母親由来、合わせて2組、計46本です。生殖細胞の場合は、その半分の23本、これは体細胞と生殖細胞の大きな違いです。

生殖細胞は、始原生殖細胞から作られます。この始原生殖細胞の段階では、染色体はまだ46本です。始原生殖細胞は細胞分裂を繰り返し、最終的に精子、卵子という生殖細胞を形成します。この細胞分裂の段階で、通常の体細胞とは異なる「減数分裂」を行うことによって染色体数を46本から23本にします。

始原生殖細胞から精子、卵子を作り出す細胞分裂は、共に2回ずつ行われます。1回目を第一分裂、2回目を第二分裂と呼びます。通常の体細胞分裂では、細胞内の染色体が複製され(DNAの複製)、細胞は一時的に4組の染色体を持つことになります。この4組の染色体が2組ずつに分けられ、染色体を2組持つ体細胞が2つ形成されます。

しかし、生殖細胞の場合は、染色体の複製を行わずに、46本の染色体が23本ずつに分けられ、23本の染色体を持つ細胞が2つできるという細胞分裂を行います。これが減数分裂と呼ばれる細胞分裂方式です。最終的に完成された23本の染色体を持つ精子、または卵子は、この後受精し、46本の染色体を持つ受精卵になるのを待つわけです。

3. 倫理面における生殖細胞と受精卵

生殖細胞の受精(または接合という言葉が使われることもあります)によってできた受精卵は、その後細胞分裂、細胞の分化を経て個体を作り上げます。つまり、全ての細胞は、この受精卵由来と考えることができます。となると、受精卵はどんな細胞にも分化可能な万能細胞という考え方もできます。しかし、ヒトの受精卵を研究に自由に使うことはできません。これは倫理面の問題を含むからです。

おおよそ、倫理における基準の多くは、宗教的な考え方、それぞれの民族が持つ分化による考え方に由来するものが多く、理屈では説明しきれないものもいくつかあります。

生殖細胞と受精卵では、この2つの間に明確な線が引かれています。キリスト教のカトリックなどの宗教では、受精卵になった段階で「尊重されるべき生命体」としています。つまり、生殖細胞の時点では生命体ではなく、細胞の1つだが、その生殖細胞が受精、接合によって受精卵が成立したときに、それは尊重しなければならない生命体となると考えられています。

受精卵、または受精卵から細胞分裂した初期胚の段階で遺伝子を解析し、将来的に起こる可能性のある先天性疾患、障害があるかないかを診断すること(例:受精卵診断、または着床前診断)も、ヒトの場合は、生命の選択、選別、選民思想につながるという生命倫理の問題として扱われる場合もあります。

こういった考えがあるため、受精卵の発生が進行した時点で現れる細胞を使って作製する幹細胞、ES細胞やEG細胞に対しては倫理上の問題が指摘されています

生殖細胞を使った研究の中には、始原生殖細胞から生殖細胞の発生、そして受精能力などを含む受精の研究が含まれます。これらの研究にとって、1つのラインになっているのが「受精」です。生殖細胞が受精すると、そこには大きな倫理面の問題が生じるため、研究を行うためには研究機関内に設置された倫理委員会の厳しい審査が必要となります。

4. 生殖細胞を使った研究の将来

生殖細胞に関与する研究は、応用面には再生医療の他に、不妊治療への応用、先天性疾患の解析などが含まれ、今後は詳細な研究が社会的に必要とされているものが多く、先に述べた倫理面とどうやって整合性を取っていくかは大きな問題です。

不妊治療の一環として、生殖細胞を用いた人工授精は一般的に行われていますが、この治療に倫理面から異を唱える人々も少なくありません。一方で、現在人間が持っている医療技術では、人工的に受精卵を作ることまでが可能で、体外(つまり妊婦の体を使わずに)で受精卵を発生させて個体を作るということは不可能です。

人工的に個体を作る、つまり受精から体外で生存可能な個体になるまでを全て人工的に行うということは、人工的に人間を作り出すことができるという意味から、慎重に考えなければならない問題です。また、受精前の生殖細胞についても、肉質のよい牛の精子が日本から他国に不法に売却されていた事件は時々起こっています。

生命科学に関する技術の進歩は、驚くほどの速さで進歩しているため、どうしても社会的な環境整備(倫理の確立、法の整備)よりも先に、精子売却などの「事実」が先行してしまう傾向があります。

生殖細胞と、それらの受精後の研究は、今後の再生医療や不妊治療にとって重要なポイントです。経済という名目で行われてしまう行為が、法に抵触するなどの結果を生み、最終的に規制が厳しくなることは研究の停滞をまねきかねません。

次世代を作り出す役割を持った生殖細胞の研究、それに関わる技術開発は、大きな社会の利益を生み出しますが、一方で倫理的に問題を持つ行為を引き起こす危険性もはらんでいます。

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