- サイトカインストームは、T細胞が活性化してサイトカインを放出することで起こる
- サイトカインストームの治療として、T細胞の無力化、活性化の抑制がターゲットとなる
- 幹細胞治療により、免疫システムを調整し、サイトカインストームの軽減・抑制が期待されている
新型コロナウイスル(COVID-19)の報道で「サイトカインストーム」という言葉を聞いた方は多いと思います。テレビや新聞などの限られた時間、限られた字数では、サイトカインストームがよくわからない方もいらっしゃると思います。
この記事では、サイトカインストームの内容と、現行行われている治療、そして幹細胞治療の可能性について解説します!
1. サイトカインストームとは
1-1. サイトカインとは?
サイトカインストームを理解するためには、まずサイトカインとは何かを理解することが必要です。サイトカインは、細胞から分泌される生理活性物質の総称です。この物質は、低分子のタンパク質からできており、細胞間の相互作用に関与するので、周囲の細胞に影響を与えます。
多種多様なサイトカインが存在しますが、現在確認されているものとして、インターロイキン、造血因子、インターフェロン、腫瘍壊死因子、増殖因子、ケモカインが挙げられます。
抗体医薬品などを投与したとき、血中に炎症性のサイトカインが放出され、悪寒、倦怠感、発熱、血圧変化などの症状を起こすことがあります。これはサイトカイン放出症候群と呼ばれる、即時反応型の副作用です。この症状が重症化したものをサイトカインストームと呼びます。
1-2. サイトカインストームとは?
薬剤が免疫関連細胞である単球、マクロファージと結合することにより、T細胞が活性化してサイトカインを放出することでこの症状は起きます。炎症性サイトカインが主に放出されますが、サイトカインの分類ではインターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子などが当てはまります。
T細胞とは、感染症と戦う「免疫反応」の司令塔の役割をしている細胞です。T細胞は、骨髄の中にいる造血幹細胞からつくられます。他の血液細胞の殆どがそのまま骨髄でつくられるのに対して、T細胞のもとになる細胞(前駆細胞)は、胸腺という心臓の上にある臓器に移り、そこでT細胞がつくられます。
免疫システムが病原体に対抗するためにはサイトカインが必要不可欠です。異物が感染した細胞からサイトカインが放出されると、T細胞、マクロファージがそれを検知してその細胞周辺に集まります。
集まった免疫細胞は活性化し、さらにサイトカインを放出させます。このメカニズムは、身体の監視システムによって過剰放出が起きないように制御されていますが、この制御に狂いが生じると、過剰な活性化が起こります。
例を挙げると、このサイトカインストームが肺で起こると、免疫細胞が気道に集中して、気道閉塞を引き起こして死亡するリスクがあります。
サイトカインストームは、免疫系が活性する薬を投与したとき、ウイルス、細菌が感染したときに起こるリスクがあります。医薬品で起こる他に、臓器移植などで起こる移植片対宿主病を始めとして、急性呼吸窮迫症候群、全身性炎症反応症候群、敗血症、鳥インフルエンザの感染、天然痘などの疾患で誘発することが報告されています。
過去、世界的なパンデミックを起こした疾患の場合も、このサイトカインストームが起き、多くの死者を出した、または出したのではないかと言われています。
1918年から流行したスペイン風邪では、基礎疾患の少ない若年層の死亡数が非常に多く、これはサイトカインストームが発生したためではないかという説があります。2009年の新型インフルエンザ流行における若年層の死亡率の高さも、サイトカインストームで説明されています。
2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行では、香港での死因の多くがサイトカインストームであったことが判明しています。鳥インフルエンザがヒトに感染して死亡にいたるケースもサイトカインストームが起きている可能性が指摘されています。
2. サイトカインストームの治療
サイトカインストームの治療には、T細胞の無力化、活性化の抑制がターゲットとなることが多く、いくつかの治療薬が使われています。
OX40-lgは、現在開発中の治療薬です。抗原提示細胞に出現しているOX40とOX40リガンドの結合を阻害し、T細胞の作用を減弱させます。シンバスタチンは、OX40とOX40リガンドの発現量を抑制し、過剰な応答を防ぎます。
ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体阻害薬は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)、アンジオテンシンII受容体を阻害します。この2つの薬は、投与した結果、サイトカインが関連する多くの炎症性病態に効果があり、理論的にもサイトカインストームの抑制効果を持つとされています。
他にも、ゲムフィブロジル、フリーラジカル捕捉薬の有用性が確認され、TNF-alpha阻害薬がサイトカインストーム抑止に期待されています。一方で、抗炎症薬として知られている副腎皮質ホルモン、非ステロイド性抗炎症薬は、急性呼吸窮迫症候群の治療に使われてはいますが、早期の急性呼吸窮迫症候群への有用性は見られていません。
3. サイトカインストームに対する幹細胞治療の可能性
サイトカインスト−ムに対する治療において、幹細胞を使う場合に最も期待されることは、免疫システムの暴走を抑制することです。幹細胞は免疫システムを調節する機能があるため、この調節機能を使ってサイトカインストームが起きないように免疫細胞を調節することが期待されています。
コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、各企業はこの幹細胞を使ったサイトカインストームの治療試験を始めています。
一般的に、「幹細胞はサイトカインを分泌する」ということはよく知られています。クリニックが宣伝している自由診療の説明内にこのことを意味する文章はよく見られます。免疫システムが暴走している部位に幹細胞が到達し、サイトカインを分泌したら、サイトカインストームを抑制するのとは逆の効果になってしまうのではないか、むしろサイトカインストームがひどくなるのではないか、と思う人もいるかもしれません。
サイトカインは何種類もありますが、大きく2つのタイプに分けることができます。1つは炎症性サイトカイン、攻撃の役割を持つサイトカインです。そしてもう1つは抗炎症性サイトカイン、つまり炎症などから保護するためのサイトカインです。
幹細胞が免疫システム、免疫細胞の作用を調節するというのは、この抗炎症性サイトカインの役割に依存する部分が多くなります。つまり、幹細胞は抗炎症性サイトカインを分泌することによって免疫システムを調節しているという面もあるのです。
サイトカインストームに対して、幹細胞を治療のために投入すれば、幹細胞から分泌される抗炎症性サイトカインの役割によって、サイトカインストームが軽減、または抑制できるのではないか、という期待から幹細胞投与の治療が試験されているのです。
さらに、他に期待される事柄の1つに、傷害を受けた細胞の早期修復があります。幹細胞を投入することによって、幹細胞から分泌される抗炎症性サイトカインがサイトカインストームを抑制、そして傷害を受けた細胞を幹細胞によって修復できないか、という考え方です。サイトカインストームを抑制し、細胞がより早く修復されれば、身体の回復も早いのではないかと考えている企業も多いようです。
4. サイトカインストームにおける幹細胞治療の気になる点
しかし、幹細胞をサイトカインストームに使う治療方法にはいくつか気になる点があります。これは今後の臨床治験において、慎重にデータを集め、検討しなければならないポイントになります。
まず、サイトカインストームの治療には迅速性が求められます。急性様の症状が多いので、免疫系の過剰暴走は一刻も早く抑制しなければなりません。そのため、幹細胞のサイトカインストームに対する抗炎症性サイトカインの分泌による対応が、どれくらいの時間を必要とするのか、そして効果が現れるまでに要する時間がどれだけなのかは非常に気になるポイントです。
当然、この迅速性は重要視されており、より早い抗炎症性サイトカインの分泌のために幹細胞を改良したものを投与しようとしていると考えられます。この改良がどれほど効率的に行われるかが、今後の治療薬と治療方法確立のポイントです。
次に、傷害を受けた細胞修復についてです。サイトカインストームさえ抑制できれば、緊急性の高い状態から脱する可能性が高くなりますが、やはり傷害を受けた細胞は、一刻でも早く修復された方が、患者の予後にも良い影響を与えます。
幹細胞を投与したとして、ただ傷害細胞のそばに行けば、その細胞に分化できるのかどうか、はチェックしなければなりません。幹細胞が傷害を受けた細胞のそばに行っても、傷害を受けた細胞が属する種類の細胞に分化しなければ、幹細胞の分化機能を使った治療が意味を成さなくなります。
これらのポイントを中心として、今後臨床試験が進み、より早い幹細胞治療方法の確立がこれから行われていくでしょう。結果的には、COVID-19のサイトカインストームのみではなく、インフルエンザのようにサイトカインストームを起こす可能性がある疾患全てに利用できる治療方法になるのではないかと期待されています。
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