「自己複製能」を持つ幹細胞は永久に減らない?老化と幹細胞の関係を徹底解説!

この記事の概要
  • 幹細胞は身体の「再生屋」
  • 自己複製能を持つ幹細胞も、年齢と共に減少する

幹細胞にはいくつかの能力があり、大きく二つに分けられます。

  • 自分と同じ能力を持つ細胞に分化できる能力(自己複製能)
  • 様々な細胞や組織に分化できる能力(分化能)

私たちの身体には約60兆個の細胞があり、それらが集まって肌や筋肉、骨、心臓、肝臓などの様々な組織や臓器が作られています。幹細胞はこの細胞たちの「元」となる細胞です。

組織や臓器が傷ついた時などは、幹細胞が集まり新しい細胞を作り出して修復する役割も果たしています。

今回の記事では、身体を維持するために重要な幹細胞が、年齢と共に減少することについて解説します!

目次

1. ストレスや環境変化と、幹細胞の関係

ひと言で「幹細胞」と言っても、私たちの身体の中にはたくさんの種類の幹細胞が存在します。血液をつくる血液幹細胞、皮膚をつくる皮膚幹細胞など、身体の組織をつくったり再生するのが役割です。

私たちは、たった1つの受精卵が分裂し、組織や臓器を作りだしてきました。この受精卵のようにどんな組織にでも変化できる細胞が分裂し、それぞれの役割が決まっていきます。

 

たくさんの種類がある幹細胞の中に「造血幹細胞」と呼ばれる幹細胞があります。

例えば、この造血幹細胞は、

  • 受精卵から始まり、胎内にいるときに発生する胚性幹細胞
  • 決まった組織や臓器へ分化する成体幹細胞

の2種類に分けることができます。

このうち成体幹細胞は、

  • 複数の細胞分裂の周期を経ても未分化状態を維持する自己複製(分裂して自分と同じ細胞をつくること)能力
  • 別の種類の細胞に分化する能力

を持っています。これにより、際限なく増殖できる細胞とされています。

しかし、成体幹細胞は身体の中に存在するため、様々なストレスや環境の変化の蓄積によって遺伝子が変異していくと考えられています。これにより幹細胞の数は徐々に減少していきます。

幹細胞は体中の様々な部位に存在しています。幹細胞はすべての細胞の大元ですから、数が減るということは、老化が進むということなのかと考える方もいます。そこで、幹細胞の寿命・老化に関する研究についてまとめました。

2. 幹細胞の寿命に関する研究

2-1. 精子幹細胞に関する研究

精子幹細胞は、精巣の中にあり、精子を作るとともに、自分自身と同じ幹細胞を作ることができる細胞です。

京都大学篠原助教らが、2019年精子幹細胞の老化メカニズムについて解析を行いました。老化と共に精子形成は減少することが知られていますが、これが幹細胞由来のものなのかが分かっていませんでした。そこで、マウス幹細胞を使って精子幹細胞を増幅維持しながら実験を行いました。

細胞の寿命にとって重要なのはテロメアで、テロメアが一定の長さより短くなると、細胞は増殖をしなくなります。この研究では、精子幹細胞のテロメアは短くはなりますが、一定の場所で長さを維持し分裂をし続け、幹細胞としての機能を維持していることが分かりました。

そして、老化に伴い自律的に起こる生殖細胞のシグナル異常が、精子形成の減弱を引き起こしていることを発見しました。

このことは、精子幹細胞自体はほぼ無限に増殖することができますが、幹細胞から生殖細胞へ分化する能力が老化に伴い失われるため、精子形成が減少すると言えます。

2ー2. 造血幹細胞に関する研究

造血幹細胞は、白血球や赤血球などすべての血液細胞に分化することができる細胞で、成人では骨髄内に存在しています。

造血幹細胞は血液を作るだけでなく、白血病などに対する骨髄移植にの際にも非常に重要視されています。造血幹細胞は、細胞分裂をほぼ行わない静止期である時間が長く、ごくまれに分裂を行い、1つは自己複製、もう1つは血液前駆細胞(白血球や赤血球などの前の段階の細胞)へと分化します。

造血幹細胞は、骨髄の中で枯渇しないように、支持細胞と接着し保護されています。研究により、造血幹細胞は幹細胞の機能を維持したまま、支持細胞が老化することによって、造血機能が老化していくことが報告されています。

また、造血幹細胞に関する研究として注目されているのが、東京大学の山崎特任准教授らは、液体のりの主成分であるポリビニルアルコールという化学物質が、造血幹細胞の静止期を維持したまま数か月培養可能であることを明らかにしました。

これにより、体外で未分化の状態の幹細胞を増殖できるため、ドナーから1個の幹細胞を採取することで複数の患者さんへ骨髄移植できる可能性が示されました。これも、造血幹細胞自体は老化せずに無限に分裂できるという特徴が重要な研究となっています。

2-3. 間葉系幹細胞に関する研究

間葉系幹細胞は、骨細胞、脂肪細胞、神経細胞などさまざまな細胞に分化できる幹細胞です。間葉系幹細胞は、細胞と細胞の間に存在し、細胞を支持する役割を持っています。2ー2の造血幹細胞で説明した支持細胞がまさに間葉系幹細胞のことを指します。間葉系幹細胞はあらゆる組織に存在し、細胞を支持しているのが特徴です。

ある報告によると、新生児の時の間葉系細胞数を1とした場合、20代で1/10万、30代で1/25万、50代で1/40、80代では約1/200万程度に減少していくことが分かっています。

間葉系幹細胞が減少することは、身体の再生力が低くなることを意味するので、年々傷の治りが遅くなるのもそのためです。

2-4. 皮膚幹細胞に関する研究

皮膚幹細胞は表皮に存在し、皮膚表面の上皮組織で分裂し消滅と残存を繰り返して、現状の皮膚を維持しようとしています。

東京医科歯科大学の西村教授らは、表皮幹細胞が隣接する幹細胞との間で細胞競合(隣接する同じ種類の細胞の間で、環境適応度の高い細胞が低い細胞を集団から排除する現象)によって皮膚の質と恒常性を維持していることを発見しました。

しかし、幹細胞自体の機能は維持されているのにもかかわらず、幹細胞同士の細胞競合システムが、老化によって疲弊することにより、皮膚の老化が起きることが突き止められました。

3.まとめ

このような研究結果から、幹細胞の数は加齢とともに減少することが分かりました。幹細胞が減少すれば、身体の再生力が弱体化していきます。

幹細胞は、組織の損傷を修復するため、ストレスや生活環境が悪ければ、必要以上に修復に使われてしまいます。

いずれ寿命を迎えることは仕方ありませんが、健康寿命を延ばすためには、幹細胞の減少スピードを緩やかにする生活を心掛けることが大切です。

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